さっきまで穏やかに積もっていたものが、一瞬だけ熱を持つ。言葉に詰まり、視線を海へ逃がした。でも、逃げきれなかった。「……ちょっと今の、ときめいた」言ってから、自分でも驚いた。酔っていない。海のせいでもない。ちゃんと起きていて、ちゃんと自分の口で言った。正人が一瞬止まる。それから、少しだけ口元を上げた。「提案ポイント加算?」「すぐそうやって茶化す」「茶化さないと俺が困る」その言葉に、今度は私が黙った。正人は海へ視線を戻す。押してこない。でも、引きもしない。その距離が、今日はやけに心地よかった。夕陽が海に落ちる少し前まで、二人はそのまま座っていた。何かをたくさん話したわけではない。ただ波の音を聞いて、たまに少し話して、沈黙して。それでも気まずくなかった。むしろ、沈黙の中にいる正人が、少しだけ近く感じた。夕方、正人の友だちがやっている店へ向かった。海沿いから少し入った場所にある、こぢんまりとした店だった。外観はシンプルで、木の扉に小さな看板だけが出ている。中に入ると、カウンターの奥から背の高い男性が顔を出した。整った顔立ちで、少し日焼けしている。「あれ、正人」男が笑う。「珍しいな、急に」「悪い、無理言って」「まあ、正人の頼みだからね」その視線が私へ移る。「彼女?」正人が一瞬も迷わず言った。「まだ」まだ。その言葉に、胸が跳ねる。オーナーが目を丸くする。正人は続けた。「彼女にしたい子を連れてきてるから、変なもの出したら殺す」普段の正人からは想像できない言い方だった。雑で、少し冗談っぽくて、友だち相手の距離。オーナーが吹き出す。「怖。相当じゃん」「相当」正人は平然としている。私は横で何も言えなかった。仕事の正人ではない。丁寧で、距離を測って、誰に対しても適切な言葉を選ぶ正人ではない。地元の友だちの前で、少し砕けた正人。その新しい一面が、妙に新鮮だった。席に案内されると、正人はメニューを見ながら言った。「俺は運転だから飲まないけど、ワイン飲む?」「選べるの?」「多少は」「多少?」「ワインスクール行ってたことある」思わず正人を見た。「サーフィン、ゴルフ、ワイン?」「あとピアノ?」「付き合ったらお金かかりそう」言ってから、自分で止まった。付き合ったら。自
Zuletzt aktualisiert : 2026-08-01 Mehr lesen