広い肩幅。低い声。人混みで自然に守る距離感。話していて疲れないテンポ。急にどうでもいい話をしてきて笑わせるところ。よそ行きの顔で他人に線を引く大人っぽさ。辛いものに負けかけて、妙に真面目に落ち込む可愛さ。あと。一緒にいて、気を張らなくていい。その輪郭が、少しずつ見えてきている。何を考えているんだろう、私。小さく息を吐き、慌てて現場に意識を戻した。ふと視線を上げる。正人がこちらを見ていた。少し離れた場所。進行表を確認しながら。でも視線だけが、こっちに向いている。私は一瞬だけ止まり、何も気づかなかったふりをした。別に、何もない。そういう顔をして、PCへ視線を戻す。でもその後も、ゆうとが私の近くに来るたび、なんとなく正人の視線を感じた。気のせいかもしれない。でも、正人は少しだけ静かだった。だからといって、何かを言うわけではない。こちらへ来て割って入るわけでもない。恋人みたいに不機嫌になるわけでもない。当たり前だ。正人は、まだ私の恋人ではない。そして、ここは仕事の現場だ。正人はちゃんと、普通に振る舞っている。必要な時だけ指示を出して。必要な時だけ確認して。私にも、麻衣にも、制作にも、同じように仕事の距離で接している。その普通さが、少しだけ胸に引っかかった。勝手だと思う。でも、少しだけ寂しいとも思ってしまう。「愛子さん!」ゆうとの声で、意識が戻る。「これ、SNS上げたらバズります?」飲料を片手に、笑っている。「そこはゆうとくん次第です」「責任重大じゃん」現場が少し笑う。仕事は早かった。軽口は多い。でも、カメラ前では空気が変わる。表情も作れる。修正も早い。時間は押さない。むしろ巻く。売れる人は、やっぱり違う。そこは素直に感心した。愛想だけじゃない。ちゃんと仕事ができる。だから現場が明るくなる。だから起用される。そう思うのに、やっぱり胸は動かない。顔が似ていても。空気が似ている瞬間があっても。違うものは違う。翔太の声を思い出す。――眉間に皺寄ってそう。あの気楽な声。見えていないのに、見えているみたいに言う声。くだらない話を置いて、私の力を抜いてくれる声。あれは、誰かに似ているから好きなわけじゃない。翔太だから、心が動くのだ。撮影は、予定より早く終
최신 업데이트 : 2026-08-03 더 보기