嬉しそうというより、何かを受け取って、言葉を探しているような目。愛子の胸が、ほんの少しだけ揺れる。でも、それ以上考える前に、愛子は明るく続けた。「だから今日は来てくれてありがとう。ここで、いい出会い見つけてね」本気だった。「本気で応援してるから」私は、笑った。色々あったけれども、笑顔で翔太を応援できている自分に安心した。これからは、隣人としていい距離を保てる気がした。だけどその瞬間、翔太の表情が少しだけ変わった。ほんの一瞬だった。口元が止まる。目元から、さっきまでの柔らかさが消える。怒ったわけではない。でも、少し傷ついたように見えた。昔、愛子が突き放すようなことを言った時、翔太が一瞬だけ見せた顔に似ていた。愛子は「あれ」と思う。けれど、その表情はすぐに消えた。翔太はグラスを置き直す。それから、少し寂しそうに笑った。「……ありがとうございます」声は普通だった。でも、返事まで少しだけ時間があった。その笑顔が、妙に胸に残った。どうして今、寂しそうに見えたんだろう。愛子は一瞬、考えかける。けれど、その答えに触れる前に、背後から声がした。「愛子」正人だった。愛子は振り向く。正人は資料を片手に立っていた。仕事の顔だ。でも、愛子の顔を見た瞬間、ほんの少しだけ目を細めた。たぶん、表情に出ていたのだと思う。自分が少し動揺していること。それを隠しきれていないこと。正人には分かる。分かってしまう。「受付側、少し詰まりそう」正人は何も聞かなかった。「俺がこっち見るから、愛子はDJ側戻って」仕事の言葉だった。愛子が平常心を取り戻せる言葉。助かった。でも、その優しさが痛かった。「分かった」愛子は頷く。翔太へ軽く視線を戻す。「じゃ、楽しんで」翔太は少しだけ頷いた。「はい」短い返事。その目は、もうさっきの柔らかさではなかった。でも、冷たいわけでもない。ただ、何かをしまい込んだように静かだった。愛子はそれ以上見られなくて、正人の方へ歩いた。***イベントは、たぶん成功していた。参加者は笑っていた。音楽は会話の入口になっていた。プレイリストカードはちゃんと機能していて、初対面の人たちが少しずつ自分の話をし始めていた。愛子が作りたかった空気は、確かにそこにあった。途中、小さなトラ
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-12 Mehr lesen