金曜日。イベントまで、あと二日。オフィスの空気は、朝からずっと張っていた。誰も余裕がない。社内チャットは鳴りっぱなしで、ひとつ通知が増えるたびに、誰かの小さなため息が会議室のどこかに落ちる。DJ側の確認。タイムテーブルの最終修正。スポンサーのロゴ露出。参加者導線。受付オペレーション。当日のスタッフ配置。直前になって出てくる細かい懸念に、ひとつずつ対応していくしかない。誰かの「すみません」が飛ぶたび、別の誰かが動く。ここまで来ると、仕事というより、全員で巨大な穴を塞ぎ続けているような感覚だった。私も、ずっと張っていた。頭が痛い。肩が重い。目の奥がじんわり熱い。ここ数日、ちゃんと寝ていない。寝ても、頭のどこかで当日の導線や確認事項が回り続けていて、眠った気がしない。仕事。イベント。そして。正人。そこまで考えて、私は小さく首を振った。今考えるな。終わってから。今は仕事。そうやって何度も、自分の中に浮かびかけるものを押し戻した。この一週間、私は少しだけ正人を避けていた。露骨にではない。たぶん、誰かに言われても否定できるくらいの小ささだった。でも、自分では分かっていた。帰る時間をずらした。いつもなら一緒に確認していた資料を、チャットで済ませた。「今日どうする?」と聞かれそうなタイミングで、別の会議を入れた。深夜作業も、必要最低限にした。嫌だったわけじゃない。むしろ、正人がいる方が楽だった。分かっている。だからこそ、少し距離が欲しかった。『じゃあ、俺にしとけば?』あの日に言われたことを、冗談だったことにしたかった。正人はいつも通りに笑っていた。でも、ほんの少しだけ本気が混ざっていた気がして、そこからずっと。私は正人の目を見るのが少し難しくなっていた。そして、正人もたぶん気づいている。私が少し引いていることに。気づいたうえで、何も言わずに、いつもより少しだけ丁寧な距離を取ってくれている。それがまた、申し訳なかった。二十一時過ぎ。最後の確認会議が終わった。誰かが長く息を吐く。「……一旦、形にはなりました?」疲れた笑いが混じる。私は椅子にもたれて、目元を押さえた。「たぶん」それしか言えなかった。イベントなんて、当日まで何が起こるか分からない。でも、ここまで来た。少
최신 업데이트 : 2026-07-12 더 보기