翔太が自然に聞く。 「ちゃんと食いました?」 その言い方に、月曜の和食屋を思い出す。 焼き魚。 味噌汁。 疲れていた私を、隣人という口実で連れ出した翔太。 私は少しだけ止まって、それから頷いた。 「食べた」 「ならよかったです」 それだけ。 踏み込まない。 でも、ちゃんと気にしている。 その距離感が、妙に心地よかった。 前の翔太なら、もっと雑だった気がする。 心配するくせに、心配していることをうまく隠せなくて。 言葉が強くなったり、タイミングが悪かったりした。 でも今は違う。 ちゃんと距離を見ている。 待っている。 無理に近づかない。 それが、大人になった翔太なのだと思う。 「翔太は?」 「食いました」 「ちゃんと?」 「ちゃんと」 「本当に?」 「何で疑われてるんですか」 「前科?」 「昔の話すぎる」 翔太が少し笑う。 その笑い方が、昔と少しだけ同じで。 でも、やっぱり違った。 低くなった声。 余裕のある返し。 変に張り合わない感じ。 会話が、楽だった。 それがまた、少し怖かった。 エレベーターが開く。 二人で乗る。 狭い箱の中、鏡に自分たちの姿が映る。 隣に翔太がいる。 近い。 でも、正人といる時の近さとは違う。 翔太とは、何も始まっていない。 いや、正確には、もう終わっている。 だから気楽なのだと思いたい。 終わった相手だから。 今さら何かが変わるわけじゃないから。 だから、こうして軽く話せるだけ。 そう思おうとする。 でも、月曜にご飯へ行ってから、少しだけ距離が変わった気がする。 隣人、という言葉の輪郭が少し曖昧になった。 「最近、少し落ち着きました?」 翔太が聞いた。 「仕事?」 「はい」 「うん。イベント後の資料はあるけど、ピークは過ぎた」 「よかったですね」 「うん」 少し間。 「でも、終わったら終わったで変な感じ」 「燃え尽き?」 「たぶん」 それだけ言って、私は言葉を止めた。 正人のことまで話すつもりはない。 話せるわけがない。 でも、翔太はそれ以上聞かなかった。 ただ、鏡越しにこちらを一度見て、すぐに視線を戻した。 その引き方が、また楽だった。 聞かれたら困ることを、聞かない。 でも、気づいていないわけでは
Zuletzt aktualisiert : 2026-07-17 Mehr lesen