翌日の午前。 拓也はテーブルの上に置かれた離婚協議書をもう一度手に取った。 読み返しても、答えは出ない。 美月と直接話したい。 その気持ちは変わらなかった。「どうするの?」 和江がコーヒーを置きながら尋ねる。「弁護士に電話する」 拓也は立ち上がった。「一度くらい、美月と話をさせてもらわないと」「そうしなさい」 和江も頷く。「このままじゃ何も始まらないわ」 拓也は神田法律事務所へ電話を掛けた。 数回の呼び出し音のあと、女性事務員が電話に出る。「神田法律事務所でございます」「あの、朝倉拓也です」「藤崎先生をお願いします」「少々お待ちください」 ほどなくして、藤崎が電話に出た。「神田法律事務所の藤崎です」「先生」 拓也はできるだけ冷静な声を作る。「離婚の話をする前に、一度だけ美月と直接話をさせてもらえませんか」 少しの沈黙。 藤崎は落ち着いた口調で答えた。「申し訳ございません」「その件につきましても、ご本人のご意向を確認しております」 拓也は息をのむ。「朝倉さんは、代理人を通してのやり取りを希望されています」「そのため、私どもから面会をお取り次ぎすることはできません」「でも、俺は夫なんですよ」 思わず声が大きくなる。「夫婦なんだから、一度くらい――」「お気持ちは承知しております」 藤崎は遮ることなく答えた。「ですが、ご本人の意思を尊重するのが代理人としての役目です」 拓也は言葉を失う。 返す言葉が見つからない。「離婚協議書につきまして、ご意見やご要望がございましたら、書面または私どもまでご連絡ください」「誠実に対応させていただきます」
Última actualización : 2026-08-03 Leer más