夜の静寂が白亜宮を包み込む頃、セラは寝間着の上に薄手の羽織りを重ね、壁に隠された扉をそっと開けた。 セラとジェイドの寝室をつなぐ、秘密の隠し通路。 足音を忍ばせながら暗い廊下を進む。 夕食の席で、寝る前に部屋を訪れる約束をしていたのだから、堂々と訪ねればいいのだけれど、なんだかいけない悪戯でもしに向かっているような感じがする。 「なんだか……、楽しいかも」 セラは、ひとりで小さくそう囁いて、くすりと笑った。 ほんの少し前まで、冷たい地下室の中で、自由に出歩くことすら許されなかった自分。それが今では、自分の足でどこへでも歩いていける自由があるだけでなく、素敵な婚約者の寝室に繋がる秘密の道まで持っているのだから。 信じられないほど、幸せなことね。 通路の突き当たりにある扉を軽く叩くと、すぐに内側から引き開けられた。姿を現したジェイドが、セラを優しく部屋へと招き入れる。 「こんばんは、セラ」 「こんばんは、ジェイド」 部屋の中央にある暖炉には心地よく薪が燃えている、部屋全体を橙色の温かな光が満たしていた。二人は示し合わせたように、暖炉の前に置かれた大きなソファへと並んで腰を下ろした。 セラは、今日起こった出来事を、ひとつひとつ整理しながら話した。 「王妃様のサロンで、気になる方がいました」 セラは自身の内側で、消えたかのようにして眠る魔力に集中した。すぐに、手のひらの上に淡い光の粒子が揺らめく。やがてその光は糸をつむぐようにして、人の姿を映し始める。王妃のサロンで見かけた男と同じ——口元に痛々しく引きつった傷痕を持つ男の姿。&n
Last Updated : 2026-09-05 Read more