まだ夜の残り香が漂う、ほの暗い早朝。 セラは、自身の身体がふわりと浮き上がる不思議な浮遊感に包まれて、まぶたを開けた。 「……あ……」 かすれた小さな声を漏らすと、セラをその大きな腕でしっかりと抱きかかえていた人物が、甘く低い声でささやく。 「起こしてしまったね。まだ寝ていていいよ、セラ」 ジェイドだった。 彼の胸に顔を寄せると、昨夜のなまめかしい記憶が一気によみがえる。 いつの間にか、眠ってしまったんだわ。 まどろみの中で、ひどく優しく、頭をなでられたような気もする。 全身に残る心地良いようなだるさと、身体の奥にかすかにくすぶる痺れのような痛みが、昨夜あったことが夢ではなかったのだと教えていた。 ジェイドはセラを優しく抱きかかえたまま、部屋の隅へと歩みを進めた。彼が壁の装飾の一部に手を触れると、カチリと小さな金属音が響き、壁の一部がひらいて、その奥に通路が現れる。 いくつかの窓がある、細い廊下だった。 常には開かれないのか、すこしこもったような空気がある。 「ジェイド……ここは……?」 ジェイドは愛おしそうに目を細め、セラの額にそっと唇を寄せた。 「わたしときみの部屋をつなぐ、隠し通路だよ。きみの部屋は、わたしの妻となる者のために用意された部屋だ。人目を気にせずいつでも自由に行き来できるようになっている」 「人目を気にせず?」 「夜に妻の部屋へしのんでゆく夫の姿を、使用人たちの目
Last Updated : 2026-08-26 Read more