黒曜宮を出発してから数日。 王都への旅は、驚くほど静かで、ひっそりとしたものだった。 第一王子であるジェイドが乗るには、随分と質素に見える紋章も伏せられた馬車に揺られ、一行はひたすら道を進んだ。途中の町や村に立ち寄って視察することもなく、陽が沈めば手配された静かな宿屋に泊まるだけ。まるで気配を消すかのような移動だった。 だが、セラにとってはジェイドやリタ、レオンと穏やかな会話を交わしながら過ごす、満ち足りた時間でもあった。 そうして数日の旅程を終えた頃、馬車の窓の外に、それまでの風景とは一線を画す巨大な建造物が見えてきた。 「セラ様、ご覧になってください。王都の城郭ですよ」 リタに促されて窓の外を覗き込んだセラは、思わず小さく息を呑んだ。 視線の先にあるのは、どこまでも続いていそうな、高い城壁だった。馬車は、城壁の内側へと入ってからも、けっこうな時間を走り続けた。 そうして到着した、新たな住まいは、黒曜宮とは、何もかもが対照的だった。雲ひとつない青空の下で、眩いばかりの白い石造りの城壁が陽光を浴びて輝いている。優美な曲線をあわせもつ、明るく華やかな城だった。 馬車が立派な門をくぐり、広大な敷地へと入っていく。 セラは、輝く城の城壁を眺めながら聞いた。 「美しい城ですね。国王陛下がお住まいの宮ですか?」 向かいに座るジェイドが優しく目を細めた。 「いいや。わたしの専用の住まいだよ。わたしの母に陛下が下賜された城で、白亜宮と呼ばれている」 「そうなのですね。王宮は、また別の場所にあるのですか?」 「白亜宮も含めて、この見えている範囲のすべてが、王宮の敷地の一部だよ。敷地内を回るだけでも、馬を使わなければ日が
最終更新日 : 2026-08-06 続きを読む