腕を掴まれた衝撃に、セラは息を呑んで勢いよく振り返った。 恐怖に胸を押し潰されそうになりながら見上げた先にいたのは、しかし、セラが追っていたあの荒々しい口髭の男ではなかった。 光を反射する金茶の髪に、甘い笑みをたたえた碧の瞳は、光の加減で紫がかっても見える。そこに立っていたのは、爽やかで華のある顔立ちをした、一人の若い男だった。 「キャンディ……?」 「やあ、かわいいセラ姫、ひさしぶり。こんなところで会えるなんて、ぼくたち運命的だね」 親しげに語りかけてきたのは、かつて黒曜宮のあるジェイドの所領を巡った際、立ち寄った宿屋で見知った吟遊詩人のキャンディだった。 「まあ……お久しぶりです」 「ひさしぶり~。また会えてすごく嬉しいよ」 そう言って、キャンディは掴んだ腕を放すどころか、ますます身を乗り出すようにして距離を詰めてくる。その押しの強さに、セラは思わず体を縮こまらせてたじろいだ。こんな距離感で話しかけられた経験はない。一体、どのような態度でいればいいのか分からなくなってしまう。 「ねえ、さっきのあの男が気に入ったの?」 キャンディはセラが追っていた方向を顎でしゃくると、唐突にそう尋ねてきた。セラは慌てて言葉を濁す。 「え、ええ、まあ、その……」 「ふうん。ああいうのが好み?」 「……」 本当の理由を言えるはずもなくセラが黙り込んでいると、キャンディはくすりと笑い、どこか忠告するような口調で言った。 「あの男には手を出
Last Updated : 2026-09-15 Read more