呪われた能力持ちの令嬢が、身代わりで向かった婚約先は、優しい獣の住まう宮 のすべてのチャプター: チャプター 81 - チャプター 90

120 チャプター

【第81話】封じられた道具

 朝の光が差し込む。  ジェイドの部屋で、セラはジェイドのシャツを一枚着て、鏡の前にいた。朝の光が、シャツの下にのびるセラの太腿を照らしている。 「ジェイドのシャツ、大きいです……」 「セラ、その姿は、あんまりかわいい」  ジェイドが後ろに立っている。シャツの裾をめくりあげようと企んでいそうな彼の手を、セラはくすくす笑いながら阻止した。  昨日着ていた寝衣がすっかり汗でぬれてしまったので、ジェイドが眠るまえに着せてくれたシャツだ。セラにはぶかぶかで、袖先は手先よりもずいぶん先にぶらんと伸びている。なんだか面白かった。  それから、ふたりでソファに座り、机の上に置かれたものを一緒に見た。  不思議なものがいくつか机の上に置かれている。それは、角のない綺麗な円形の球体だった。  ガラスのように透明で中が透けてみる球体で、表面には薄く、不思議な虹色の輝きが揺らめいている。指先でそっと触れてみると、硬い鉱物のような冷たさはなく、果実の皮のようにほんのわずかな柔らかさと弾力があった。  球体の中には、何かが閉じ込められている。  閉じ込められているものは、透明な球体のなかに、まるで空間の真ん中に固定されているように、ぴたりと浮かんだまま動かない。セラが両手で球体を持ち上げ、ゆっくりとひっくり返してみても、中のものは固定されたまま、その中央に留まり続けていた。おかげで、裏側の細かな形状までつぶさに観察することができる。 「これは、魔力を閉じ込める性質をもつ魔道具だよ」  ジェイドが別の球体を持ち上げながら言う。 彼の指先が、球体をやさしく撫でた。 「中は、魔力を遮断するための魔力で満たされてい
last update最終更新日 : 2026-09-25
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【第82話】王の盤上

 王宮の大議事堂を埋め尽くす貴族たちの議論は、ジェイドが王宮に戻って以来、最も醜く泥沼化していた。  隣国との国境付近における戦況の悪化。その報告が届いて以来、王妃と彼女を後ろ盾とする第二王子派の貴族たちは、まるで待ち望んでいた好機と言わんばかりに主張を強めていた。彼らの狙いはただ一つ、第一王子であるジェイドを王都から追い払い、危険な前線へ送ること。その思惑は、あまりにあからさまだった。 「先の遠征での不覚を拭い、第一王子殿下がその栄光を挽回されるまたとない好機でございます!」 「左様! 第一王子殿下が前線に立たれれば、兵たちの士気も大いに上がりましょう!」  第二王子派の貴族が声を高らかに張り上げれば、即座にジェイドを支持する第一王子派の陣営から怒号のような反論が飛ぶ。 「戯れ言を! かつて軍功を立てられたジェイド殿下に今さら何を言われるか! いまだ一度も戦場に立ったことのない第二王子殿下こそ、王族としての気概を示すべく前線へ向かわれるべきだ!」 「なんだと⁉ カイル殿下は王妃様とともに王都の政務をささえておられる! その功績を鑑みれば、誰がどこに立つべきかは明白であろう!」  双方の派閥が互いに罵声を浴びせ合い、大議事堂の空気は怒号と打算で濁りきっていた。  ジェイドはその狂騒の渦中、冷ややかな気持ちで議場を見下ろしていた。自身を前線へ追いやろうとする王妃派の意図は、あからさまだが、数が多い。  どうしたものか……。  その時、玉座に深く腰掛けていた男が、退屈そうに肘を突きながら口を開いた。 「——わたしが行ってもいいぞ」  低く、重重しい、しかし軽薄さの混じるその声に、喧騒に包まれていた議事堂が一瞬で静まり返
last update最終更新日 : 2026-09-26
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【第83話】すれ違う決意

 白亜宮は、日に日に落ち着きを失い、どたばたと騒がしい様子に包まれていった。  廊下を行き交う人々は誰もが慌ただしい足取りで、第一王子派に属する貴族や将校たちの出入りも急増している。中庭や回廊には、積み上げられた無数の木箱や武具、遠征用の物資が運び込まれては、次々と運び出されてゆく。それらはすべて、ジェイドが遠く離れた前線へ赴くための準備だった。  セラは、冷たい風が吹き抜ける窓辺に立ち、忙しなく動く人々を見下ろしながら、重い溜息をついた。  このままでは、ジェイドの側にいられない……。  前線へと出発する日が近づくにつれ、セラとジェイドの間の空気は重く冷え切っていった。ここ最近、二人が顔を合わせるたびに、同じ押し問答が繰り返され、不穏な緊張感が漂ってしまう。 「一緒に行かせてください」 「いいや、きみは、わたしが戻るまで王宮をはなれ、黒曜宮にいるんだ」  何度頼んでも、ジェイドの答えは変わらなかった。どれほど切実に願っても、彼は頑ななに首を振る。お互いに譲らないせいで、最後にはいつも苛立ちの混ざった険悪な空気で終わってしまうような状態だった。  セラにとって、戦地へ同行したい理由はただひとつ。  あの不気味なガラス質の魔道具。ジェイドを貶めようとする不穏な影。それに、いまだジェイドの身の内にある呪い。もしも前線へ赴いた先で、再びジェイドの呪いを暴走させるような罠が仕掛けられていたら……。  セラは、黒曜宮にいたときに見た、魔獣の姿でひとり苦しむジェイドの姿を思い出した。 二度と、あんなふうに一人で苦しんでほしくない。  だが、いくら訴えてもジェイドの決意は揺らがなかった。どんなに懇願しても、ジェイドの拒絶はどこまでも固く、容赦がない。
last update最終更新日 : 2026-09-27
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【第84話】王の特命

 セラが黒曜宮へ向かうための馬車は、着々と準備されていた。 リタがせわしなく荷物を準備したりしている。  朝の白亜宮には、いつもよりいっそう冷たい風が吹き抜けていた。  セラは身支度を整えると、ジェイドのもとへと向かった。昨夜の激しい言い争いの余韻が残り、二人の間には依然として重く冷たい空気が横たわっている。ジェイドの青い瞳にはまだ硬い色が残っており、セラの姿を見てもその表情が和らぐことはなかった。 「……ジェイド。黒曜宮へ発つ前に、国王陛下にご挨拶してまいります」  セラが静かに告げると、ジェイドはただ、短く「分かった」とだけ答えた。仲直りもできず、互いの心がすれ違ったまま離れてしまうかもしれないという暗い気持ちが、セラの胸を押し潰す。  セラは重い足取りで、国王の居城へと向かった。  重厚な扉の前でいくらかの時間を待ち、やがて案内されると、謁見の間で国王が独り、玉座には座らず、その隣に置かれている大きな机に向かっていた。 真剣な表情で、書類に目を落としている姿には、なんだか近寄りがたい感じがある。 「セラちゃんか。急な謁見の申し出、何の用かな?」  国王の低い声が響く。セラはまっすぐに国王を見つめ、姿勢を正した。 「陛下。以前わたくしに、一度だけ、どんな願いでも叶えてやると仰ってくださいました。その願いを、今この場で使いたく存じます」 「ほう?」  国王は興味深そうに眉をあげた。 「あの約束か! ……ジェイドが前線へ向かうことになったからな。あやつに何か有利になるような軍功の機会か、あるいは強力な魔道具でも与えてやってほしいか、それとも~、あ! カイルだけ前線に送ってジェイド
last update最終更新日 : 2026-09-28
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【第85話】まっすぐな真心

 握りつぶさんばかりの力でひしゃげた羊皮紙が、ジェイドの掌の中で悲鳴を上げている。  そこに記されていたのは、国王の署名と印章が捺された正真正銘の勅令——セラ・ローゼンタールを第一王子の出征に同行させ、いかなる時も側に置けという、正気を疑うような特命だった。  どんな理不尽な政治的嫌がらせや、陰謀や、命令も、ジェイドは今まで冷静に対処してきた。だが、セラの身の危険を一切顧みないこの命令だけは、どうしても許しがたい。  胸の中で渦巻く怒りはあまりにも巨大で、制御が利かなかった。  セラからこの書面を渡されたとき、自分でも信じられないほどとげとげしく声を荒げてしまった。 「わたしはこの命令を認めない! 一体どんな企みを用いて父上を動かしたのかは知らないが、これは必ず撤回させる!」 「ジェイド、聞いて——」 「セラ! なぜ大人しく言うことが聞けないんだ! いい加減にしてくれ! きみの強情さには、うんざりだ!」 「……っ」  セラの大きな瞳が見開かれて、ボロボロと溢れ落ちた涙。息を詰まらせ、傷ついたように肩を震わせていた彼女の表情が脳裏に焼きついて離れない。  胸を押し潰すような痛みを誤魔化すように、ジェイドは荒々しく足踏みを早めた。己の怒りのままに彼女を傷つけてしまった後悔と、それでも彼女を戦地へ行かせるわけにはいかないという焦躁が、心を掻き乱す。  国王の居城へと連なる回廊を抜け、ジェイドは制止しようとする近衛兵を無視して、謁見の間の大扉を押し開いて強引に割り込んだ。  謁見の間には、国政の報告を行っていたのだろう大臣の姿があった。  玉座の脇の机に腰掛
last update最終更新日 : 2026-09-29
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【第86話】氷はとける

 謁見の間を後にしたジェイドは、そのまままっすぐに白亜宮へと戻ることができなかった。  胸の奥で渦巻く感情の落ち着きどころが見つけられず、セラとどんな顔をして向き合えばいいのかも分からない。今すぐに処理しなければならない公務はなかったというのに、ジェイドは次々と用事をかき集め、仕事にいそしんだ。そうして理由を作り、目を向けるべきことから逃げ続けた。  はじめてだった。 そんなふうに、おそれて何かから逃げるのは。  ようやく白亜宮へ足を向けた頃には、夜はすっかり深まっていた。普段であれば、誰もが深い眠りについていておかしくない時間だ。  静まり返った回廊を歩き、セラの部屋の前で足を止める。  ドアを叩こうと手を伸ばし、ジェイドはその手を空中でさ迷わせた。  彼女を傷つけた。 ボロボロと涙を流す彼女の表情を思い出す。  結局、ジェイドは扉を叩くのを諦め、寂しく手を引いた。重い足取りで自分の部屋へと戻り、扉を閉めると同時に、深く大きなため息が口から漏れる。  ……何をしているんだ、わたしは。  己の情けなさに自嘲の笑みが零れる。セラの愛の深さを知らされたのに、自分は彼女の涙から逃げ回っている。  明かりを点けず、月明かりだけが差し込む暗い自室へ踏み進んだジェイドは、ふと違和感を覚えて足を止めた。  大きなベッドの上に、小さな影があった。誰かがいる。  そっと近づくと、ベッドの端のほうで、小さな身体を丸めて眠っている人物の姿が浮かび上がった。セラだった。  窓から差し込む月光が、彼女の可憐な横顔を静かに照らしている。ひどく泣いたのだろう、長い睫毛の生え際は赤く腫れている。頬
last update最終更新日 : 2026-09-30
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【第87話】旅立ちの準備

 ジェイドと仲直りして以来、白亜宮でのセラの日常は劇的な変化を遂げた。  出発の日までの時間は残り少ない。 セラは休む間もなく準備にあけくれることになった。  これまでセラの日常を占めていたのは、第一王子の婚約者として必要な知識を詰め込む座学や、作法の習得や、ダンスのレッスンといった内容だった。しかしそれらは撤廃され、すべての時間は、旅に出るための基礎的な知識と訓練と、体力をつくりあげるための時間へと一変した。 「そうそう、セラ様、前をむいて。バランスを意識して」 「は、はい……っ」  日差しが馬の茶褐色のたてがみを、赤く光らせている。 セラは、つい下げた視線を、前に戻す。  白亜宮の敷地内にある馬場で、レオンの指導する声が響いていた。  セラは一頭の小柄な馬に跨がり、不慣れな乗馬に身を投じていた。護衛騎士であるレオンが自分の馬を並べて歩かせ、セラの馬の補助手綱を握っている。  馬の背に乗ると、視線が高くなる。ひとりで乗ってみると、その高さは、おそろしく感じるほどだった。  高くなった視線に目が眩みそうになりながらも、セラは教えられた通りに背筋を伸ばし、太ももで馬の腹を軽く挟み込んだ。手綱を握る指先には力が入り、少し汗ばんでいる。 「だいぶ慣れましたねえ。いい感じ、いい感じ」  レオンが呑気な口調で微笑む。 「よーし、ちょっとはやく歩かせますよ」 「はい!」  レオンがあやつると馬の足が、すこし早く進む。 セラの馬もそれにぴったりとくっついていった。  セラが、早くな
last update最終更新日 : 2026-10-01
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【第88話】山嶺の歩み

 山道を進むことになることなんて、ほとんどあり得ないだろうと聞いていた。しかし、セラがその厳しい道を自らの足で歩くことになったのは、王都を離れて間もなくだった。    二人の王子が前線から帰還する日まで、王宮で開催予定だったあらゆるお茶会や舞踏会、狩りなどの催しはすべて取りやめとなっていた。そのおかげで、セラは出発の日まで、他の何かに時間をとられることなく、白亜宮でひたすら準備に勤しむことができた。警戒していた王妃やオディールと顔を合わせることもなければ、実家であるローゼンタール家から接触されることもなく、静かで集中した時間を過ごせたのは幸いだった。  そうして、あっという間に出立の日を迎えた。  華やかな装いの騎士たち。 飾り立てられた騎馬。 ひるがえる旗。  王都を発つ隊列は、目を見張るほど華やかだった。立派な軍馬に跨がったジェイドとカイルが隊列の先頭あたりで並び立ち、市民たちの歓声に応える。セラはそのすこし後方で、王室の威光を示す豪奢な仕立ての馬車の中にいた。  だが、その華美な装いは、儀式的なものに過ぎない。  王都を通り過ぎて街道へ出ると、すぐに実用的な装いへと着替えが行われた。馬車もまた、飾り気のない質実剛健なものへと乗り換えられ、一行は速やかに街道を進む。 「まあ、すごいわね。まるで色のある世界から、色のない世界に変わったようだわ」  セラは、馬車の中から、すっかり地味な姿に変わった隊列を見て、感心した。  十日ほど旅が続き、隣国との境界に近づく。  隣国との境界には、分かりやすい一本の国境線があるわけではないらしい。深い森や広大な草原地帯、厳しい渓谷や急流の河川を挟む荒れた土地、連なる山や人を寄せ付けない湿地帯。そういった広大な領域が、両国を隔てる自
last update最終更新日 : 2026-10-02
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【第89話】木漏れ日と軽口

 木漏れ日が揺れる木の下へ、歩み寄ってくる対照的な二人の男。  銀糸のながれるように美しい髪をもつジェイドと、艶やかなハリのある黒曜石の髪をもつカイル。ふたりの王子だ。王宮で二人を見かけるときは、常に豪奢な刺繍が施された礼服や、身分を示す絢爛な装飾品を身にまとっていた。しかし今の二人は、過酷な山道を進むのにふさわしい、飾り気のない地味な色の、いかにも実用的な騎士服に身を包んでいる。  セラが立ち上がって迎えると、ジェイドが微笑む。 「セラ、足が痛くなっていないかい?」  そう言ったジェイドの表情は、心配そうだった。 「足の裏が痛いですが、まだまだ頑張れます」  レオンとリタと、訓練していたおかげで、旅にふさわしいごつめのブーツは足になじんでいて、靴擦れもしていない。すこし座って休んだおかげで息も整い、足の震えも幾分か収まっている。  それでも心配そうにセラの顔を見つめるジェイドと、その横で腕を組み、不機嫌そうな顔で明後日の方向を向いているカイル。二人の似つかない様子を交互に見比べながら、セラはふとあることに思い当たった。 「おふたりは、そうやって落ち着いた恰好をされると、どちらも国王陛下に似た部分が際立ちますね」  思わず口から出た言葉に、ジェイドが意外そうに眉を上げ、面白そうな顔をした。 「へえ、どこが似ているんだい?」 「そうですね……」  セラは改めて二人の顔立ちをじっくりと観察した。 「ジェイドは、口元が陛下によく似ておいでです。笑ったときの形の作り方や、何かを考えていらっしゃるときの唇の結び方など、そっくりです」 「ふむ…&hell
last update最終更新日 : 2026-10-03
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【第90話】要塞の夜

 山道を越えた先で、隊列は二つに分かれた。  カイルとは途中の分岐点で別れることになり、彼は右の道へ、セラとジェイドは左の道へと進んだ。それぞれの防衛拠点を固めるため、本拠地が異なるのだという。  短い間だったが、軽口を叩き合ったカイルの背中が見えなくなるのは、少し寂しかった。セラはお別れにカイルにいくつかのキャンディを押しつけて渡した。  カイルが同じ年だと聞いて、すごいなあと、しみじみ思う。 同じ年の人が、責任ある立場で軍を率いるというのは、どんな重圧だろうか。  日暮れ時、ようやく辿り着いた目的地は、武骨な要塞だった。  切り立った崖のへりにそびえ立つ巨大な石造りの建築物は、外敵の侵入を一切拒絶するかのような威圧感を放っている。要塞へと続く唯一の道は恐ろしいほど細く、馬が一頭通るのが精一杯だった。長い隊列が一列になって慎重にその細道を辿り、ようやく要塞の分厚い城門をくぐり抜けた。  城内へ入ると、セラはすぐに奥の部屋へと通された。  要塞の中は冷たい空気に満ちていたが、部屋の中は暖かい。暖炉でパチパチとはじける炎が、温かな光を部屋中に投げかけていた。  要塞には人があふれており、部屋の数にも限りがあるようだった。そのため、セラにあてがわれた部屋はジェイドと同室だった。  だが、ジェイドは、なかなか部屋に来ない。拠点に着いたばかりで、彼がなさねばならない仕事は山のようにあるのかもしれない。  水が貴重な要塞ではお風呂を使うことはできなかったが、侍女のリタが暖炉で湯を沸かし、丁寧にセラの身体を拭いてくれた。乗馬と山登りで泥と汗にまみれていた身体がすっかりさっぱりとし、セラはゆったりとした部屋着に着替えて、じっとジェイドの帰りを待った。  夜がすっかり更けた頃、ようやく部屋の扉が開いた。
last update最終更新日 : 2026-10-04
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