เข้าสู่ระบบ朝の光が差し込む。
ジェイドの部屋で、セラはジェイドのシャツを一枚着て、鏡の前にいた。朝の光が、シャツの下にのびるセラの太腿を照らしている。
「ジェイドのシャツ、大きいです……」
「セラ、その姿は、あんまりかわいい」
ジェイドが後ろに立っている。シャツの裾をめくりあげようと企んでいそうな彼の手を、セラはくすくす笑いながら阻止した。
昨日着ていた寝衣がすっかり汗でぬれてしまったので、ジェイドが眠るまえに着せてくれたシャツだ。セラにはぶかぶかで、袖先は手先よりもずいぶん先にぶらんと伸びている。なんだか面白かった。
それから、ふたりでソファに座り、机の上に置かれたものを一緒に見た。
不思議なものがいくつか机の上に置かれている。それは、角のない綺麗な円形の球体
謁見の間を後にしたジェイドは、そのまままっすぐに白亜宮へと戻ることができなかった。 胸の奥で渦巻く感情の落ち着きどころが見つけられず、セラとどんな顔をして向き合えばいいのかも分からない。今すぐに処理しなければならない公務はなかったというのに、ジェイドは次々と用事をかき集め、仕事にいそしんだ。そうして理由を作り、目を向けるべきことから逃げ続けた。 はじめてだった。 そんなふうに、おそれて何かから逃げるのは。 ようやく白亜宮へ足を向けた頃には、夜はすっかり深まっていた。普段であれば、誰もが深い眠りについていておかしくない時間だ。 静まり返った回廊を歩き、セラの部屋の前で足を止める。 ドアを叩こうと手を伸ばし、ジェイドはその手を空中でさ迷わせた。 彼女を傷つけた。 ボロボロと涙を流す彼女の表情を思い出す。 結局、ジェイドは扉を叩くのを諦め、寂しく手を引いた。重い足取りで自分の部屋へと戻り、扉を閉めると同時に、深く大きなため息が口から漏れる。 ……何をしているんだ、わたしは。 己の情けなさに自嘲の笑みが零れる。セラの愛の深さを知らされたのに、自分は彼女の涙から逃げ回っている。 明かりを点けず、月明かりだけが差し込む暗い自室へ踏み進んだジェイドは、ふと違和感を覚えて足を止めた。 大きなベッドの上に、小さな影があった。誰かがいる。 そっと近づくと、ベッドの端のほうで、小さな身体を丸めて眠っている人物の姿が浮かび上がった。セラだった。 窓から差し込む月光が、彼女の可憐な横顔を静かに照らしている。ひどく泣いたのだろう、長い睫毛の生え際は赤く腫れている。頬
握りつぶさんばかりの力でひしゃげた羊皮紙が、ジェイドの掌の中で悲鳴を上げている。 そこに記されていたのは、国王の署名と印章が捺された正真正銘の勅令——セラ・ローゼンタールを第一王子の出征に同行させ、いかなる時も側に置けという、正気を疑うような特命だった。 どんな理不尽な政治的嫌がらせや、陰謀や、命令も、ジェイドは今まで冷静に対処してきた。だが、セラの身の危険を一切顧みないこの命令だけは、どうしても許しがたい。 胸の中で渦巻く怒りはあまりにも巨大で、制御が利かなかった。 セラからこの書面を渡されたとき、自分でも信じられないほどとげとげしく声を荒げてしまった。「わたしはこの命令を認めない! 一体どんな企みを用いて父上を動かしたのかは知らないが、これは必ず撤回させる!」「ジェイド、聞いて——」「セラ! なぜ大人しく言うことが聞けないんだ! いい加減にしてくれ! きみの強情さには、うんざりだ!」「……っ」 セラの大きな瞳が見開かれて、ボロボロと溢れ落ちた涙。息を詰まらせ、傷ついたように肩を震わせていた彼女の表情が脳裏に焼きついて離れない。 胸を押し潰すような痛みを誤魔化すように、ジェイドは荒々しく足踏みを早めた。己の怒りのままに彼女を傷つけてしまった後悔と、それでも彼女を戦地へ行かせるわけにはいかないという焦躁が、心を掻き乱す。 国王の居城へと連なる回廊を抜け、ジェイドは制止しようとする近衛兵を無視して、謁見の間の大扉を押し開いて強引に割り込んだ。 謁見の間には、国政の報告を行っていたのだろう大臣の姿があった。 玉座の脇の机に腰掛
セラが黒曜宮へ向かうための馬車は、着々と準備されていた。 リタがせわしなく荷物を準備したりしている。 朝の白亜宮には、いつもよりいっそう冷たい風が吹き抜けていた。 セラは身支度を整えると、ジェイドのもとへと向かった。昨夜の激しい言い争いの余韻が残り、二人の間には依然として重く冷たい空気が横たわっている。ジェイドの青い瞳にはまだ硬い色が残っており、セラの姿を見てもその表情が和らぐことはなかった。「……ジェイド。黒曜宮へ発つ前に、国王陛下にご挨拶してまいります」 セラが静かに告げると、ジェイドはただ、短く「分かった」とだけ答えた。仲直りもできず、互いの心がすれ違ったまま離れてしまうかもしれないという暗い気持ちが、セラの胸を押し潰す。 セラは重い足取りで、国王の居城へと向かった。 重厚な扉の前でいくらかの時間を待ち、やがて案内されると、謁見の間で国王が独り、玉座には座らず、その隣に置かれている大きな机に向かっていた。 真剣な表情で、書類に目を落としている姿には、なんだか近寄りがたい感じがある。「セラちゃんか。急な謁見の申し出、何の用かな?」 国王の低い声が響く。セラはまっすぐに国王を見つめ、姿勢を正した。「陛下。以前わたくしに、一度だけ、どんな願いでも叶えてやると仰ってくださいました。その願いを、今この場で使いたく存じます」「ほう?」 国王は興味深そうに眉をあげた。「あの約束か! ……ジェイドが前線へ向かうことになったからな。あやつに何か有利になるような軍功の機会か、あるいは強力な魔道具でも与えてやってほしいか、それとも~、あ! カイルだけ前線に送ってジェイド
白亜宮は、日に日に落ち着きを失い、どたばたと騒がしい様子に包まれていった。 廊下を行き交う人々は誰もが慌ただしい足取りで、第一王子派に属する貴族や将校たちの出入りも急増している。中庭や回廊には、積み上げられた無数の木箱や武具、遠征用の物資が運び込まれては、次々と運び出されてゆく。それらはすべて、ジェイドが遠く離れた前線へ赴くための準備だった。 セラは、冷たい風が吹き抜ける窓辺に立ち、忙しなく動く人々を見下ろしながら、重い溜息をついた。 このままでは、ジェイドの側にいられない……。 前線へと出発する日が近づくにつれ、セラとジェイドの間の空気は重く冷え切っていった。ここ最近、二人が顔を合わせるたびに、同じ押し問答が繰り返され、不穏な緊張感が漂ってしまう。「一緒に行かせてください」「いいや、きみは、わたしが戻るまで王宮をはなれ、黒曜宮にいるんだ」 何度頼んでも、ジェイドの答えは変わらなかった。どれほど切実に願っても、彼は頑ななに首を振る。お互いに譲らないせいで、最後にはいつも苛立ちの混ざった険悪な空気で終わってしまうような状態だった。 セラにとって、戦地へ同行したい理由はただひとつ。 あの不気味なガラス質の魔道具。ジェイドを貶めようとする不穏な影。それに、いまだジェイドの身の内にある呪い。もしも前線へ赴いた先で、再びジェイドの呪いを暴走させるような罠が仕掛けられていたら……。 セラは、黒曜宮にいたときに見た、魔獣の姿でひとり苦しむジェイドの姿を思い出した。 二度と、あんなふうに一人で苦しんでほしくない。 だが、いくら訴えてもジェイドの決意は揺らがなかった。どんなに懇願しても、ジェイドの拒絶はどこまでも固く、容赦がない。
王宮の大議事堂を埋め尽くす貴族たちの議論は、ジェイドが王宮に戻って以来、最も醜く泥沼化していた。 隣国との国境付近における戦況の悪化。その報告が届いて以来、王妃と彼女を後ろ盾とする第二王子派の貴族たちは、まるで待ち望んでいた好機と言わんばかりに主張を強めていた。彼らの狙いはただ一つ、第一王子であるジェイドを王都から追い払い、危険な前線へ送ること。その思惑は、あまりにあからさまだった。「先の遠征での不覚を拭い、第一王子殿下がその栄光を挽回されるまたとない好機でございます!」「左様! 第一王子殿下が前線に立たれれば、兵たちの士気も大いに上がりましょう!」 第二王子派の貴族が声を高らかに張り上げれば、即座にジェイドを支持する第一王子派の陣営から怒号のような反論が飛ぶ。「戯れ言を! かつて軍功を立てられたジェイド殿下に今さら何を言われるか! いまだ一度も戦場に立ったことのない第二王子殿下こそ、王族としての気概を示すべく前線へ向かわれるべきだ!」「なんだと⁉ カイル殿下は王妃様とともに王都の政務をささえておられる! その功績を鑑みれば、誰がどこに立つべきかは明白であろう!」 双方の派閥が互いに罵声を浴びせ合い、大議事堂の空気は怒号と打算で濁りきっていた。 ジェイドはその狂騒の渦中、冷ややかな気持ちで議場を見下ろしていた。自身を前線へ追いやろうとする王妃派の意図は、あからさまだが、数が多い。 どうしたものか……。 その時、玉座に深く腰掛けていた男が、退屈そうに肘を突きながら口を開いた。「——わたしが行ってもいいぞ」 低く、重重しい、しかし軽薄さの混じるその声に、喧騒に包まれていた議事堂が一瞬で静まり返
朝の光が差し込む。 ジェイドの部屋で、セラはジェイドのシャツを一枚着て、鏡の前にいた。朝の光が、シャツの下にのびるセラの太腿を照らしている。「ジェイドのシャツ、大きいです……」「セラ、その姿は、あんまりかわいい」 ジェイドが後ろに立っている。シャツの裾をめくりあげようと企んでいそうな彼の手を、セラはくすくす笑いながら阻止した。 昨日着ていた寝衣がすっかり汗でぬれてしまったので、ジェイドが眠るまえに着せてくれたシャツだ。セラにはぶかぶかで、袖先は手先よりもずいぶん先にぶらんと伸びている。なんだか面白かった。 それから、ふたりでソファに座り、机の上に置かれたものを一緒に見た。 不思議なものがいくつか机の上に置かれている。それは、角のない綺麗な円形の球体だった。 ガラスのように透明で中が透けてみる球体で、表面には薄く、不思議な虹色の輝きが揺らめいている。指先でそっと触れてみると、硬い鉱物のような冷たさはなく、果実の皮のようにほんのわずかな柔らかさと弾力があった。 球体の中には、何かが閉じ込められている。 閉じ込められているものは、透明な球体のなかに、まるで空間の真ん中に固定されているように、ぴたりと浮かんだまま動かない。セラが両手で球体を持ち上げ、ゆっくりとひっくり返してみても、中のものは固定されたまま、その中央に留まり続けていた。おかげで、裏側の細かな形状までつぶさに観察することができる。「これは、魔力を閉じ込める性質をもつ魔道具だよ」 ジェイドが別の球体を持ち上げながら言う。 彼の指先が、球体をやさしく撫でた。「中は、魔力を遮断するための魔力で満たされてい







