依頼のメールが届いたのは、木曜日の午後だった。件名は「告知事項に関する調査依頼」。送信元は都内の中堅不動産会社、株式会社エリアプランニング。私が時々仕事を請け負っている会社だ。事故物件情報サイトへの掲載文を書いたり、告知事項の文面を整えたり、そういう地味な裏方の仕事を年に数件こなしている。本文は簡潔だった。> お世話になっております。> 以下の物件について、告知義務が発生するかご判断いただきたく、調査をお願いできますでしょうか。> 詳細は添付資料をご確認ください。> 報酬は通常の1.5倍でお支払いいたします。通常の1.5倍。それだけで、何か面倒な案件だと察した。この業界では、報酬が高い仕事ほど「書きにくい何か」がある。自殺、孤独死、事件性のある死亡――そういったものを、法的な文面に落とし込む作業には、それなりの神経を使う。添付されていたPDFを開く。物件概要が記されていた。所在地:東京都杉並区荻窪○-○-○ 建物名:コーポ青葉 203号室 築年数:18年 間取り:1K(25㎡) 家賃:63,000円(管理費込)それから、問い合わせ内容の欄。> 調査目的:> 当該物件について、近隣住民より「以前、何かあったのではないか」との問い合わせがあった。 > 過去の入居記録を確認したが、契約上の問題は確認できず。 > ただし、告知義務が発生する可能性があるため、専門家による調査を依頼したい。「何かあったのではないか」。曖昧だ。普通、こういう依頼には必ず「死亡」「自殺」「事件」といった具体的な単語が入っている。それがないということは、依頼主自身も詳細を把握していないか、あるいは意図的にぼかしているかのどちらかだ。資料の最後には、担当者の名前と連絡先が記されていた。担当:矢崎(不動産管理部)私はすぐに返信メールを書いた。> 承知しま
最終更新日 : 2026-08-06 続きを読む