All Chapters of 悪女の代役ですが、殺される前に逃げようと思います!〜皇太子と次期公爵様がなぜか離してくれません!〜: Chapter 61 - Chapter 70

76 Chapters

61.穏やかな一日を

先ほどはセスにバレてしまったので、今度はバレないように本を読むふりをしながら、こっそりとまたセスを観察する。暖色の照明の光を受け、輝く色素の薄い白い髪がさらりと下へと落ちる。そこから覗く空を溶かしたような水色の瞳は、真剣な眼差しで書類を睨んでいた。どうすればセスは以前のように私を見てくれるのだろう。リタ代役時代には見たことのない、私に向けられるあの仄暗い瞳。あれこそが、今のセスの不安定さを物語るものだった。ここで生活していれば死ぬことはないのかもしれない。しかし、全てを管理され、世話されて生きていることが、果たして本当に生きていると言えるのだろうか。ここでの私はただセスに可愛がられている人形だ。一生人形としてここで過ごすなんてそんなの嫌だ。私は帝国外へと逃げ、自由気ままに生きるのだ。その為には、やはりセスを精神的に安定させ、安心させる必要がある。セスを刺激しない。セスの要求はなるべく飲む。そうして少しずつだが、セスを落ち着かせ、信頼を得て、最終的に味方につけるのだ。未だに仕事を続けるセスの姿に、私は密かにそう決意を固めた。その後、そんな私の視線にまたセスは気がついた。不思議そうに「どうされましたか?」といきなり聞かれた時は、心臓が止まるかと思った。何故、こちらを一切見ていないのに視線に気づくんだ。恐ろしい。*****セスの精神を安定させ、ついでに味方にし、帝国外へと安全に逃げる。その為に私はなるべくセスの要求を受け入れながらも、かつてセスと共に過ごしたリタ代役時代と変わらぬ態度で平和な日常を過ごせるように心がけた。そしてここでの生活ももう一ヶ月が過ぎようとしていた頃。「ただいま戻りました」窓の一切ない異常なこの部屋の唯一の出入り口である扉から、今晩も少しだけ疲れた様子でセスが現れた。私はそんなセスをいつものように「おかえり、セス」と笑顔で迎え入れる。もちろん、定位置であるベッドの上で。「今、夕食を作りますからね。今日は市場で新鮮な野菜を手に入れたんです。あ、あと苺も見つけたので買いましたよ」「本当?新鮮な野菜ならサラダにして食べたいな。苺はそのままでも最高だけど生クリームでも食べたいかも」「ふふ、かしこまりました。ではそのようにいたしましょう」柔らかな笑みを浮かべるセス。その瞳には、確かな光がある。こ
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

62.信頼と愛情

だから私は考えた。ならば少しずつ私の行動範囲を広げ、セスが安心できる範囲を広げていけばいいと。最初はこの部屋から出られるようにする。それから屋敷中、庭へと自由の領域を広げ、最後にはセスの手の中から出る。そして帝国外へと逃げるのだ。セスの返事を緊張しながらも待っていると、セスはどこか難しい顔をした。「…そうですよね。ステラ様はもうずっとこの部屋から出ていませんからね…」セスが空色の瞳を伏せ、何やら思案し始める。少し前のセスならここで仄暗い笑みを浮かべ、私の意見など断固拒否の姿勢を見せていたが、少しだけでもこちらに譲歩するつもりがあるらしい。…いける。セスは私を信頼し始めている。「この屋敷の中で動きたいだけなの。誰だって同じ場所にずっといると気が滅入るでしょ?健康にもよくないはずだよ?」「…」黙ったままのセスの背中を押すように、私はセスに切実に訴えかける。今のセスが果たして私の話を聞いているのかはいまいちわからないが、そんなことはいちいち気にしない。聞こえていないのなら聞こえるまで伝えるだけだ。「セスと一緒に屋敷内を散策してみたいな。ここのことはまだこの部屋のことしか知らないから…」セスにさらに一押ししようと、うるうると瞳を潤ませ、上目遣いでセスをじっと見つめてみる。するとずっと伏せていたセスの瞳とやっと目が合い、セスは一瞬だけ固まった。だが、固まったのはほんの一瞬だけで、すぐに嬉しそうに笑った。「…一緒にこの屋敷を散策しましょう、ステラ様。アナタの為に用意していたものが実はたくさんあるんです」私をまっすぐ見つめる空色の瞳には、もうあの仄暗さはない。私はおそらくセスの安定と信頼を勝ち取ったのだ。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

63.すべてうまくいく

セスは約束通り、次の日には私に車椅子を与え、監禁していた部屋から私を出してくれた。最初こそ、セス同伴のもとでしか屋敷内を散策できなかった。だが、次第に1人でもそれが許されるようになり、今では屋敷内だけなら自由に移動することができている。「綺麗だねぇ。この花はなんていう花なの?珍しい色だけど」柔らかな昼下がり。セスに車椅子を押されながら、私は庭に咲く花々に感嘆の声をあげた。レンガの道を囲むように咲き誇る見たことのない形のいろいろな色の花。寒色系から暖色系まで様々なものがあり、普通の花とは明らかに違う特徴がある。例えばあそこの紫色の花。あの花の紫はただの紫ではない。青みや赤みを帯びる紫がグラデーションのように混じり、何故か薄くキラキラと輝いているのだ。どの花もあの紫の花のように、一概にこの色だと言い切れないような色をしており、光を纏っていた。「こちらはライトという魔法花なのですが、どの花も自ら輝く魔法薬を使用して育てられており、この屋敷にのみ生息する花なんです」「へぇ…。魔法薬の効果でキラキラしているんだね」「はい。ライトという魔法花ですが、魔法薬で改良しているので、厳密にはライトではございません。アナタの為に育てた花なので、ステラ、と名付けるのはいかがでしょう?」「ふーん。……え?」突然何でもないことのようにとんでもない提案をしてきたセスに、思わず驚きで後ろを振り向く。するとセスはお昼時の柔らかな日差しを浴びて、それはもう愛おしそうに私をまっすぐ見つめていた。とても気恥ずかしい。慣れることのできない視線だ。恥ずかしさで溶けてしまう。「…ス、ステラはやめよう。あまりにも直接的すぎるよ。花の名前にされるとか恥ずかしいし。ライトの改良版だからライト2とかは?」「…ステラ様、アナタは素晴らしい方ですが、そのネーミングセンスはあまり…。いえ、個性的といいますか、誰もがあえて選べないものを選べるといいますか…」「はっきり言って大丈夫だよ」私が適当に言った名前を明らかに言いにくそうに否定しようとするセスに私は真顔になる。わかっているよ、セス。安直な名前を言ったことくらいは。そんなに言葉を選んで話さなくてもいいから。「…ライト2はやめておきましょう。他の名前がいいかと」「はは、そうだね」困ったように眉を下げたセスに私は笑っ
last updateLast Updated : 2026-09-23
Read more

64.一寸先は

「…ス、ステラ様」後ろからセスが歓喜に満ちた声で私の名前を口にする。「ありがとうございます。俺にそんなお言葉をくださるなんて…」そしてそこまで言うと、セスは私の後ろから前へと移動し、跪いた。こちらを見つめるその空色の瞳には、美しい涙が溢れ、セスの頬をゆっくりと流れている。セスが丹精を込め育てたキラキラと輝く魔法花を背景に泣くその姿は、本当に美しく、どこか幻想的で、思わず息を呑んだ。「アナタのお側にいさせてください。アナタこそが俺の主であり、たった1人の俺のお嬢様なのです」真剣なセスの眼差しに、今度こそ決して受け流さずに頷く。私は今、セスの人生を貰ったのだ。これからは私だけではなく、セスのことも考え行動し、責任を持たなければならない。「ありがとう、セス」そう微笑んだ私に、セスは感極まった表情を浮かべ、また静かに涙を流した。 *****セスが私の本当の味方になってくれた。あとはこの両足を完治させ、セスと共に帝国外へと行くだけだ。いろいろあったが、やっと私は本当に帝国外へと逃げ、自由を手に入れられる。今度はセスも一緒だ。きっともう大丈夫なはずだ。セスと共に昼食を食べ終え、セスがまた仕事へと行った午後。私は1人で車椅子に乗り、屋敷内の廊下を何となく散策していた。大きな窓から昼下がりの温かな日差しが差し込む。少し前までは、この日差しでさえも浴びられなかったが、今ではもうそうではない。「…」…ユリウス、元気かな。ふと、窓の外の美しい景色を見て、私はそう思った。フランドル邸から逃げ出してもうどれほどの月日が経ったのだろうか。キースに保護されていた一ヶ月間はちゃんと外の情報を得ていたので、ユリウスがずっと私を探していることも知っていた。…が、セスに監禁されてからは外の情報を一切得られていないので、ユリウスの近況がまるでわからない。今も私が消えたことに心を痛めているか。それとも私など忘れていつもと変わらぬ生活を送っているのか。…どうか後者であって欲しい。ユリウスにはもうできるだけ辛い思いはしてもらいたくない。幸せであって欲しい。そんなことを考えていると、私の耳に複数の足音が聞こえてきた。この屋敷で私はセス以外の誰かに出会ったことがない。ここにはいつも私とセスだけだった。それなのに複数の足音が今、徐々にこちらに迫っ
last updateLast Updated : 2026-09-23
Read more

65.ステラの全て sideユリウス

sideユリウス俺の前からステラが消えた。一緒に寝ていたステラの異変に気付き、声をかけたが、その時にはもう遅かった。あの夜からもう3ヶ月が経つ。最後にステラが目撃されたのは、マルナの街の奥にあるルーワの森だ。そこでロイ殿下率いる帝国騎士団は、ステラの姿を見失ってしまったらしい。ステラは今どこにいるのだろうか。最後に共にいたあの時。ステラはおそらく吐血していた。シーツに残されていたあの赤こそがその証拠だ。さらにロイ殿下も扉越しではあったが、その音を聞いたようで、ますます俺の中で不安が膨らんでいった。ーーーステラは何かの病気を患っているのかもしれない、と。そんな状態のステラを今も保護できず、ただただ過ぎ去っていく日々に、焦りだけが募る。あれから俺は深く眠れなくなってしまった。そして毎夜毎夜、夢を見た。俺の手の届く場所で、はつらつと笑うステラ。愛らしい存在にいつも胸いっぱいの幸せを感じるが、それは突然終わる。ステラが急にその場で吐血し始めるからだ。『助けて、ユリウス』苦痛に歪むステラを、俺はただ見ていることしかできない。どうにかしてやろうと近づこうとすれば、その存在は霧のように消える。それからまた俺の手の届かないところに現れて、何度も何度も繰り返し吐血をするのだ。あの悪夢のようにステラが今もどこかで1人で苦しんでいるのではないかと思うと、この状況がもどかしくてもどかしくて仕方がなかった。「それでユリウス、驚かないで聞いてほしいのだけれど」テーブルを挟んで向こう側のソファに深く腰を下ろすロイ殿下が、真剣な表情でこちらを見つめる。俺は今日も殿下とステラ捜索の進捗を確認し合う為に、殿下の執務室で同じようにソファに腰掛けていた。「まずは僕の婚約者、リタに
last updateLast Updated : 2026-09-25
Read more

66.幸せの崩れる音 sideセス

sideセスーーー幸せだ。少し前までも悪くはなかったが、今はもっと素晴らしい。さんさんと降り注ぐ太陽の光はまるで全てを祝福しているかのように心地よく、頬を撫でる温かい風はまるで誰かを愛し、愛される喜びを体現しているかのように優しいものだ。世界に溢れる何もかもが美しく、素晴らしいものだと感じられる。これも全てステラ様が俺という存在を認め、側に置くことを決めてくれたからだった。ステラ様の足が完治するまであと1ヶ月もないだろう。万全の状態になり次第、ステラ様と共に帝国外へと行き、新たな生活を始める。その為にもするべきことはたくさんあり、きっと準備してもしてもしきれないはずだ。だからこそ、今からでもできることをやっておく必要がある。ただでさえ忙しい日々に加えて、ステラ様との明るい未来への準備。ここ最近は多忙を極めていたが、それでも俺は幸せで幸せでたまらず、全く苦には思っていなかった。今日もステラ様に昼食を用意し、共に食べ終えた後、再びルードヴィング伯爵邸へと戻り、午後からの仕事をする。リタ様の午後からのスケジュールを把握し、完璧に立ち回る為に、予定表に目を通していた時、俺はある違和感に気がついた。「…」予定表に書かれている学院からの帰宅時間がどうもおかしい。ロイ殿下に注意されてから、リタ様は渋々学院に通っているが、それでも必要最低限だ。いつも午後から学院へ行き、2時間もしないうちにさっさと帰ってくる。授業も受けず、何もせず、本当にただ気まぐれに学院に顔を出しているだけなのだ。それなのに今日のリタ様の予定は違った。学院からの帰宅時間が18時と記載されている。リタ様は俺が昼休憩をしている間に学院へと向かった。その出発時間はおそらく13時くらいだろう。いつもとは明らかに学院への滞在時間が違う。…ご学友との時間を過ごす、また
last updateLast Updated : 2026-09-26
Read more

67.彼女の真実 sideロイ

sideロイピエールが採取していたステラと、あの僕の愛したリタだと思える女性の血液。それを魔法薬で分析した結果、2人が同一人物であることが判明した。最初こそ大人であるあの女性と子どもであるステラが何故、同一の人物なのか訳がわからなかった。だが、魔法研究会に参加していたキースを見つけ、問い詰めたことによって、僕は全てを知った。ただ、キースは最初、ステラのことを一切僕に話そうとはしなかった。その為、あの手この手を使い、最後には権力にものを言わせ、あの頑なだったキースを折った。しかし、キースはただではステラの話をしなかった。『ぼ、僕と命をかけて契約をしてください。あの子に絶対に危害を加えない、と。でなければ僕は絶対に何もお話しするつもりはありません』少しだけ震えながらそう要求してきたのだ。もちろんステラに危害を加えるつもりなど一切ない。それでもその要求を飲むことこそが、ステラの情報を得られる条件だというのなら、飲む以外の選択肢などない。 僕は迷わずキースと命をかけて契約をすることを選んだ。こうして手に入れた情報をもとに、僕は今日までユリウスと共に、ステラの未来の為に動いていた。ーーーそして、現在。ステラの最大の脅威であるルードヴィング伯爵を断罪し、捕らえる。「失礼します」今まさに伯爵を問い詰めていたところに、何者かがノックもせず、この部屋の扉を開ける。扉の方へと視線を向けると、そこにはリタの専属執事、セスがどこか焦った様子で立っていた。セスの登場に机を挟んで向こう側に座る伯爵は怪訝そうに、僕の隣に座るユリウスは相変わらずの無表情で、それぞれがセスを見つめている。「…セス、急にどうした?無礼にも程があるぞ」この状況にまず口を開いたのは、セ
last updateLast Updated : 2026-09-26
Read more

68.最期に会いたい人

sideステラ 「ふふふ、あはははっ」廊下にリタの愉しそうな笑い声が響く。車椅子から引きずり落とされ、倒れ込んでいる私の前にはリタが、後ろには騎士たちがおり、逃げ場はない。おまけに足には感覚すらもない。息の詰まるほどの閉塞感が私を襲う。この絶望的な状況を打開する為には、もうあれに頼るしかない。私はネックレスを握り締める右手にぎゅうと力を込めた。…本当は極力使いたくなかったんだけど。それでも覚悟を決め、握り締めていたネックレスの容器の蓋を開ける。それから容器のふちに口をつけ、紫色の液体を一気に飲み干した。サラサラで意外にも無味だったそれが、勢いよく喉を通っていく。「…っ!」万能薬を全て飲み切ったところで、ドクンっ!と大きく心臓が跳ねた。急激に体に様々な不調が現れる。息ができないほど苦しくて熱い。身体中が締め付けられるように痛い。「…ゔぅ」辛い状況に私から呻き声が漏れ出た。 ただただこの途方もない痛みから解放されたい一心で、何も考えられない。もうこのまま死んでしまうのではないかと思えてしまう。バクバクと大きく跳ね続ける鼓動。それを聞きながらも、私は背中を丸め、その激しい痛みに耐え続けた。そして数秒後。体感にして数分で、その痛みからやっと解放された。「…はぁ…はぁ」乱れた息をゆっくりと整えながらも、足に力を入れてみる。すると今まで一切、感覚がなかったことが嘘かのようにそこには確かに感覚があった。この様子だと骨折も治っているはずだ。さすがキースが〝万能薬〟だと言った魔法薬だ。完治に
last updateLast Updated : 2026-09-27
Read more

69.どんな姿でも

太陽の光を吸い込むほどの黒髪がさらりと揺れている。その髪から覗く切れ長の黄金の瞳が私を捉え、私と同じように大きく見開かれた。ーーーーユリウスだ。最期に会いたいと願った私に、神様が幻覚でも見せているのだろうか。「…ユ」目の前にいる人物の名前を、私は咄嗟に呼ぼうとし、やめた。ユリウスが知っているのは12歳の私であり、今の19歳の私ではない。きっと今の私に名前を呼ばれても困惑するだけだ。「ステラ!」だが、ユリウスは私の予想とは反して、私の名前を必死に呼びながら馬から飛び降りた。そしてその腕で、私を思いっきり抱きしめた。目の前いっぱいに広がるユリウスのしっかりとした胸板と、鼻をかすめる懐かしいユリウスの香り。夢ではない、幻覚でもない。本物のユリウスが今、私を抱きしめている。「…わ、私が、ステラだって、わかるの…?」今の状況があまりにも信じられなくて、声がわずかに震える。私はアナタが知るステラじゃないんだよ?それなのにどうしてそんなにもまっすぐに〝ステラ〟と呼んでくれるの…?「当たり前だろう。俺の大切な護衛…いや、家族なんだから。どんな姿になってもわかる。お前はステラだ」「…っ」冷たくもどこか優しいユリウスの声音に、私はやっとユリウスの背中へと手を回した。心の奥底が締め付けられるように苦しくて、熱くて、嬉しい。嬉しくて嬉しくて苦しいなんて自分のことなのに訳がわからない。ああ、だけど、これだけはわかる。私はユリウスのことが大切で大切で仕方なかったのだ、と。「…ユリウス」
last updateLast Updated : 2026-09-27
Read more

70.愛の結末

「君があの全てを完璧にこなし、僕の心を掴んだリタだったんだね」「…え」ロイの言葉に、私は思わず固まった。ロイが私の正体や事情を知っていたことについては、ユリウスから聞いていたので把握していた。だが、その後に聞かされた部分については、全く知らない。ーーーロイの心を掴んだリタ?あの表情に、あの甘い声。どう考えても〝僕の心を掴んだ〟とは、好きにさせた、と言っているようにしか聞こえない。リタ代役時代、確かにロイに面白がられている、または退屈しのぎになると気に入られている自覚はあった。だが、そこに〝好き〟だという感情は全くないと思っていた。そもそもロイが誰かを愛せるとも思っていなかった。この男には、まるで心がないように見えていたから。「心を掴んだって…。興味を持ったとかですよね?」「僕の気持ちをわかっていて確認するだなんて、ステラもなかなか意地悪だね?」勘違いであってくれ、と祈りながらおそるおそるロイに確認した結果、私は撃沈した。わざとらしく恥ずかしそうに甘く笑うロイに、どうやら嘘はないらしい。どうすればいいのかわからず、気まずさもあり、ロイから視線を逸らす。「…ロ、ロイ様」するとこの場に弱々しいリタの声が静かに響いた。その声に、ここにいる全員がリタに視線を向ける。全員の注目を集めたリタの顔には、ステンドグラスから降り注ぐ光によって、深く暗い影が落ちていた。悲しみや嫉妬、悔しさなど。様々な感情が複雑に絡み合い、ミラディア帝国の美の女神と呼ばれるその美しい顔を歪めさせる。「ねぇ、ロイ様?アナタは私の婚約者ですわよね?私の未来の旦那様ですわよね?だからそんなどこの馬の骨かもわからない女に愛を囁く訳がありませんわよね?」
last updateLast Updated : 2026-09-28
Read more
PREV
1
...
345678
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status