Tous les chapitres de : Chapitre 31 - Chapitre 40

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32.苺の誘惑

宮殿滞在最終日。 柔らかな午後の太陽の下で、私は昨日ロイとした約束通り、宮殿の中庭で苺のお茶会をしていた。 白い机に置かれているカップに手を伸ばし、口をつける。 鼻をかすめるストロベリーの香りと、甘酸っぱく、それでいてくどくない爽やかな味わいは、目の前に広がる苺のデザートたちと相性抜群だった。 まさか数ヶ月前、殺されかけた場所で、こうしてお茶を楽しんでいるとは。 あの時はこうなるとは夢にも思わなかったが、これが現実である。 しみじみと過去を振り返りながらも、私は机の上のほとんどを占めるデザートたちに目を向けた。 苺の乗ったショートケーキに、透明なゼリーの中に丸々一個の苺が贅沢にたくさん入れられているゼリー、苺色のムースの上には生クリームがあり、その上にも苺だ。 さらに、タルト、レアチーズケーキ、チョコレート…と、苺の使われた数々のデザートに私は視線を彷徨わせた。 どれから食べよう。 迷ってしまう。 「どう?気に入った?」 うれしい悲鳴をあげていると、机を挟んで目の前…、苺たちの向こう側にいるロイが、優しげな瞳で私を見た。 色素の薄いロイの金髪は、太陽の光の下だとさらにキラキラと輝きを増す。 整った顔立ちに笑みを浮かべるその姿は、まさに天使そのものだ。 ロイの背に広がる綺麗に整えられた木や花も相まって、まるで美しい絵画でも観ているかのようだった。 相変わらず一切隙がなく、余裕を感じさせるロイ。 だが、実は私とこうして苺のお茶会をする為に、またこの3
last updateDernière mise à jour : 2026-08-30
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33.怒り

柔らかな風が、ふわりと絹のように美しい銀髪を揺らす。 こちらを見つめる気の強そうな紫の瞳は、私への嫌悪感でいっぱいだった。 艶やかで、誰もが目を奪われる帝国の美の女神。 私に声をかけてきたのは、やはりあのリタだった。 「…リタ様。昨日はありがとうございました」 リタが何かを言う前に、私は慌てて席から立ち、丁寧に頭を下げる。 リタの逆鱗に触れないように、先手を打つのだ。 今の私は、昨日のように顔を半分隠していない。 だが、こういった不測の事態に備え、認識齟齬の魔法薬を継続して使っていた。 その為、本来の19歳の姿ではないこともあり、ボロさえ出さなければ、リタにあのステラだと気付かれることはないはずだ。 「…昨日?ああ、あの舞のことね。あれは本当に酷いものだったわ」 頭を下げ続ける私に、リタのバカにしたような声が届く。 今はまだ頭を上げる時ではない。 リタの許可なしにそうすれば、必ずリタの機嫌を損ねる。 『私の許可なく頭を上げるなんて。おかしなことをするのね』 などと言われ、そこら辺にある紅茶をお見舞いされるか、いつも手に持っている扇子で頬を叩かれるに決まっている。 これ以上、リタと関わらない為にも、なるべくリタの印象に残らないようにしなければならない。 「平民のただのお遊戯会だったわね、あれは。魔法薬を使って誤魔化そうとしていたみたいだけど、私の目は誤魔化せないわよ?」 「…」 お遊戯会なのは認めます。私もそう思います。 リタの棘しかない言葉に、私ももちろん同意だった。
last updateDernière mise à jour : 2026-08-30
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34.許されないこと

「ご説明していただけますか、ロイ殿下」聞こえてきた声の方へと視線を向けると、そこには酷く冷え切った表情でこちらを見つめるユリウスがいた。太陽の光さえも吸い込む、漆黒の髪から覗く切れ長の黄金の瞳が、明らかに苛立ちで揺れている。こちらへと迫ってきたユリウスには、隠しきれない怒りが確かにあった。普段あまり感情を表に出さないユリウスだからこそ、露わになったそれには、かなり迫力があった。「ステラの宮殿滞在最終日だからと迎えに来てみれば…。何ですか、この状況は」こちらまでやって来たユリウスが、責めるようにロイを射抜く。それから自身の上着を脱ぐと、それを私にかけ、私の膝の裏に手を入れ、そのまま私を抱き上げた。「ユ、ユリウス!?」突然のお姫様抱っこに、思わず驚きで大きな声を出してしまう。私は冷めた紅茶をかけられただけである。決して自分で歩けない重傷者ではない。こうされる必要は全くないのだ。降ろして欲しい、と抗議をしようとした。…が、私はそれができなかった。「こんなことになるのなら、やはり無理矢理にでも、陛下からの招待を受けさせるべきではなかった」ユリウスが悔しそうに、辛そうにそう呟き、ぐっと私を抱き寄せたからだ。もう離さないと言わんばかりに。「このことについては、後日フランドルから改めて抗議いたします。では」ユリウスはそれだけ言うと、くるりとロイたちに背を向け、その場からさっさと離れようとした。「待て」しかし、それはロイの冷静な声によって止められた。「…何でしょうか」ユリウスが煩わしそうに一度足を止
last updateDernière mise à jour : 2026-08-31
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35. くすぶる感情と望まない縁談 sideユリウス

力強く剣を振るうたびに、ブンッと空気が揺れる。剣を握る手、踏み込む足に、自然と力が入る。ステラをもう1人で宮殿に向かわせる…いや、行動させる訳にはいかない。数日前のことを思い出し、俺の剣先はますます鋭くなった。3日間、ステラがいないというだけで、俺は何か大切なものを失ってしまったかのような喪失感を覚えていた。そしてようやく3日という長い時が過ぎ、一刻も早くステラに会う為に迎えに行けば、あれだ。花のように笑うステラが、辛そうに俯き、全身を濡らしていたのだ。ステラの側には、ステラを気遣うロイ殿下と、呆然と立ち尽くすリタ嬢がいた。それだけで、リタ嬢がステラを害したのだとすぐにわかった。あの時抱いた感情が、今でも心の奥でくすぶり続けている。腹わたが煮えくり返るとは、まさにこのことなのだと、あの瞬間、初めて知った。もしあの時、自分の腰に剣があったら。俺はきっとそれを抜き、その原因であるリタ嬢に、剣先を向けていたことだろう。もう、ステラをあんな目には遭わせない。その為なら、皇族に背いたって構わない。だから数日後、ステラ宛に届いたロイ殿下からの手紙も、内容をざっと確認したのち、ただちに処分した。ロイ殿下からの手紙の内容は、先日起きたことへの謝罪から始まり、宮殿でのステラとの想い出が長々とつづられていた。そして最後には、宮殿へいつでも遊びに来るように、ステラにはその権利がある、とあった。謝罪こそステラが受け取るべきものだったので、直接俺が口頭で伝えたが、あとのことは特に必要もなかったので、伝えてすらいない。「おう、ユリウス。今日はやけに殺気立っているな」青空の下、騎士団鍛錬場で、剣を振るい続けていると、ある1人の男性がおかしそうに話しかけてきた。明るい赤毛の短髪に、しっかりとした骨格と筋肉。俺と同じ騎士団の服に身を包む彼は、帝国騎士団、第二部隊の隊長であ
last updateDernière mise à jour : 2026-08-31
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36.騙し討ち sideユリウス

 「…クラーク隊長から話があると言われここへ来た。隊長はどちらに?」柔らかな笑みを浮かべるクラーク隊長の娘に、俺は淡々と言葉を紡いだ。騎士団での勤務終了後、俺はクラーク隊長に「大事な話があるから、今夜、我が家に来てくれないか」と言われたので、学院から帰宅後、すぐにクラーク邸へと向かった。そうして、案内された部屋には、何故かあのクラーク隊長の娘がいた。クラーク隊長と同じ明るい赤に、胸まである癖毛。そこから見える細められた黒の瞳の奥には、どこか重苦しい感情があり、あまりいい気分ではない。クラーク隊長に呼ばれてここへ来たというのに。どうして娘の方がここにいるのだろうか?「…父は今、手が離せない案件に対応しておりますの。ですから、父が来るまでは、わたくしがユリウス様のお相手をいたしますわ」まとわりつくような娘の視線が、俺を捉えて離さない。まるで巣を張り、じっと獲物を待つ蜘蛛のようだ。隊長の娘はその漆黒の瞳で、俺を上から下までじっとりと舐め回すように見つめると、嬉しそうに頬を赤く染めた。それから「お座りください、ユリウス様」と、俺を空いているソファへ座るように促した。だが、俺がそこへと落ち着くことはなかった。「俺の相手はしなくてもいい。また隊長の都合のいい時に伺う」娘に割いている時間などない。俺は一刻も早く、屋敷で待っているステラに会いたいのだ。それにここにいると、娘から感じるドロドロとしたもので息も詰まってしまう。娘にさっさと背を向け、俺はこの部屋から出ようと、ドアノブに手をかける。「待ってくださいな」しかし、それをねっとりとした甘い声が制止した。「そんなに早く帰ろうとしなくてもよろしいでしょう?せっかくお会いできたというのに」
last updateDernière mise à jour : 2026-09-01
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37. 消えたユリウス

sideステラ午後の授業を終え、暇になったので、何となく公爵邸の廊下を歩く。大きな窓の向こうには、整えられた庭と門があり、そこで複数の人がいろいろな活動をしていた。庭を整える庭師に、仕事をしている使用人やメイド。外から帰ってきた公爵家の騎士たちまで。たくさんの人がいるけれど、そこにはやはりユリウスはいない。ーーーまた、だ。無意識のうちに探してしまうその影に、私は思わず表情を歪ませた。宮殿から帰って来て、1週間が経った。あれから特に何事もなく、穏やかな日常を過ごしている。…が、数日前から何故かそんな私の日常に、ユリウスが姿を現さなくなったのだ。何か騎士団の任務があるとも、学院や公爵家の用事があるとも聞いていない。ここから長く離れるならそう言うだろうし、そのような話も聞かない。ほんの数日前までは、忙しい合間を縫ってでも、嫌になるほど、私に会いに来ていたというのに。さらには、フランドル夫妻との夕食の時でさえも、その姿を見せないのだ。何かがおかしい。そう思うのだが、だからといって、私にできることは少ない。胸の奥がざわめくのは、どうしてなのだろうか。あまりにも私の日常に溶け込んでしまったユリウスという存在が、急に消え、思うところでもあるのだろうか。「ユリウスの従者、ピエールによると、ユリウスはそちらの邸宅に向かって以降、行方がわからないらしい」ふと、耳に届いた公爵の真剣な声音に、自然と足が止まる。…ユリウスが行方不明?何か違和感はあったが、まさか行方不明になっていたとは。それも誰かの邸宅に向かって以降となると、どう考えても、その行き先が怪しいではないか。話の内容が気になり、声のする扉へと近づき、耳を当てる。「私の家からですか?」「ああ。何か
last updateDernière mise à jour : 2026-09-01
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38.情報収集

公爵たちの視線を集めながら、数秒だけ思考する。 そして私は冷静に口を開いた。 「…クラーク邸へ同行したメアリーが言っておりました。何故かクラーク邸の者から、ユリウスはクラーク邸に残るから先に帰るようにと言われた…と」 もちろん真っ赤な嘘である。 だが、今はクラーク邸を探れる口実さえ作ればいいのだ。嘘をついたことは後でいくらでも謝ろう。 「…ふむ。それは確かか、ステラ」 「はい。間違いありません」 ごめんなさい。大嘘です。 こちらを真剣に見つめ、真偽を確かめる公爵に、私は迷うことなく頷く。 ここまで言い切る人間を、一体誰が疑うだろうか。 「ならば、クラーク邸へ向かえば、何かユリウスに繋がる手がかりがあるかもしれないな。どうだろう?ハリー卿」 「はい。それならば喜んで協力いたしましょう。今すぐに我が家を調べるべきです。一刻も早くユリウスの行方を掴む為に」 「協力に感謝する」 私の話を信じた公爵たちは、真剣な表情で、早速次の動きについて話し始めた。 …よかった。 これでクラーク邸を探ることができる。 きっと公爵の言う通り、ユリウスを見つける手がかりは、クラーク邸にあるはずだ。 そしてユリウスの行方不明には、おそらくアリスが関係している。 こうして私の大嘘証言もあり、クラーク邸捜索が、ハリー協力
last updateDernière mise à jour : 2026-09-02
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39.クラーク邸内の捜索

 長いスカートを揺らし、ゆったりと歩く。白のエプロンに、頭にはヘッドドレス。誰がどう見ても今の私は、少し幼いこの邸宅のメイドだろう。貴族のいいとこの子どもよりも、この姿の方がずっと有力な情報を得られるはずだ。こっそり拝借したメイド服に身を包み、私はしばらくメイドのフリをし、噂話に耳を傾けていた。そして、ついにある現場に遭遇した。「これとこれと…。あとは、これくらいでいいかな?」「服は白を持ってくるように言われていたわよ」ほんの少しだけ開いている扉の向こうで、2人のメイドが何やらしている。バレないように、そっと中の様子を確認すると、彼女たちは何かの準備をしているようだった。机の上に置かれている2つの大きなカゴ。1つには、フルーツやパンがぎっしりと詰められており、もう1つには今、まさにメイドたちが男性用の服や小物を丁寧に入れている。「あ、このピアスも欲しいって言っていたわ」「金のピアスよね。これ、すごく高価なものよ?アリス様、最近何故か急に男性用の生活必需品を求められるようになったし、ご飯もアリス様が食べるにしては多すぎる量をご希望されるし…。もしかして、男の人でもこっそり匿っているのかしら?」「そうなんじゃない?アリス様、欲しいものは何でも自分の手の内に入れておきたいタイプだし。とんでもないイケメンを囲っていたりして!」「あれかしら。街で倒れていた訳ありのイケメンを助けて、彼を守る為にこっそり匿っているの」「きゃー!そこから2人のロマンスが始まるのね!」年頃の少女のように、噂話を楽しむメイドたちの姿に、心の奥底がざわざわと騒ぎ始める。まるでパズルのピースが一つずつはまっていくように、状況証拠が揃っていく。アリスが急に男性用の生活必需品を求めるようになったのは、そこにユリウスがいるからでは?多すぎる食事もそうだ。
last updateDernière mise à jour : 2026-09-02
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40.悪女の代役

あの扉から離れ、廊下を駆け抜ける。先ほどからフランドルの者を探しているのだが、運が悪いのか、誰とも遭遇しない。早く…!早くしないと…!はやる気持ちそのままに、走り続けていると、廊下の先に人影を見つけた。ーーーあれは! 「ジャン!」やっと見つけた1人の騎士に、私は声を上げる。「…ステラ様っ!」するとジャンは私に気付き、焦った様子でこちらへと駆け寄ってきた。「何をしていたのですか!どれほど探したことか!公爵様との約束をお忘れになったのですか!ここでは俺と一緒に行動ですよ!」そして額に汗を浮かべ、そう怒鳴った。こんなにも取り乱しているジャンを見るのは初めてだ。すごく怒っているようにも見えるが、私を見つめるその瞳には、安堵が広がっている。今この瞬間まで、必死になって私を探していたのだろう。私が姿をくらませた後のジャンを想像し、何だか申し訳なくなってきた。「…ごめんなさい」「…わかればよろしいのです。もう2度とこのような…ん?」俯く私を、何故か急にジャンが怪訝な顔で見る。「…ステラ様?どうしてそのような格好を?」そのような、とは?一瞬、ジャンの疑問の意味がわからず、首を傾げる。…が、私はすぐにその原因に気づいた。私の格好が上等なワンピースから、ここのメイド服に変わっていたからだ。ほんの少し目を離した隙にこうなっているとは、意味がわからないことだろう。 「あー。これはちょっといろいろと…ね?」説明するべきなのだろうが、今はその時間も惜しい。私はとりあえず、
last updateDernière mise à jour : 2026-09-03
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