Tous les chapitres de : Chapitre 51 - Chapitre 60

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51.本来の姿

「…本当に着替え中?何か隠してない?大丈夫なのかい?」困惑でいっぱいのロイの声に、私は何とか答えようとした。「だ、だい、じょう、ゴボッ!ゴボッ!」しかし、それは私の口から大量の血が飛び出たことによって叶わなかった。吐き出された血がラグだけではなく、私の服にまで散り、ここら一帯に錆びた鉄のような匂いを充満させる。「…ステラ!」ついにこの状況に痺れを切らしたのか、ロイがただならぬ様子でこの部屋の扉を開けた。「え…リタ…?」そしてロイは私の姿を見て、目を大きく見開いた。もう慣れてしまった体の感覚と視線の高さでわかる。今の私は、本来の姿に戻っているのだろう。ロイの知っている12歳のステラではなく、19歳のステラがそこにいれば、いくら彼でも驚きを隠せないはずだ。だが、ロイはそれだけではなく、何故かそんな私を〝リタ〟と呼んだ。どこをどう見れば、私をリタと見間違えてしまうのか全くわからない。私は口から垂れる血を拭いながらも、今どうすることが最善か何とか考えを巡らせた。先ほどまで保護していた子どもの部屋に血塗れの知らない大人の女がおり、その子どもの姿がない。今の状況だけ見ると、血塗れの女である私は確実に不審者…いや、保護していた子どもに危害を加えた犯人にしか思えないはずだ。説明の余地はない。今すぐ逃げなければ。逃走ルートを確認する為に、まずは扉の方へと視線を向ける。…が、そこには当然だが、こちらを見て、呆然と立ち尽くすロイがいた。扉からの逃走は不可能だ。ならば…と、次の逃走ルートを探ってみる。ここはこのホテルの最上階、4階だ。ここから地上まで飛び降りることは、自殺行為と同じだが、各部屋には立派なバルコニーがある。そこに飛び移りながら下を目指すのはどうだろうか。今の私の身体能力ならいけるはずだ。19歳の姿に戻り切ったので、もうあの苦しさもない。考えをまとめ終えた私は、元々用意していた最低限の荷物を握り締めると、ロイに背を向けてバルコニーの方へと駆け出した。「待って!リタ!」後ろから私を必死に呼び止めるロイの声が聞こえる。何故か私を先ほどからリタと呼ぶロイに、疑問を持ちながらも、私はバルコニーの扉に手をかけた。「待ってくれ…!僕はずっと君を…!」バルコニーへと飛び出た私に、まだロイが必死に何かを言っている。それでも私
last updateDernière mise à jour : 2026-09-14
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52. 愛した彼女を探して sideロイ

sideロイ本物のリタを探し続けて半年。彼女だと確信を持てる女性は未だに見つけられていない。最初は帝都を探し、それからその周辺の街や村を探した。それでも見つからなかったので、捜索の範囲はさらに広がり、今では帝国中を探している。ここ、国境付近の街マルナへもリタを探す手がかりを求めてやって来た。マルナの奥にあるルーワの森には、リタが懇意にしていた、この帝国一の魔法使いキースがいる。あの魔法使いならば、彼女について何か知っているのではないか。そう考えた僕は、彼の元を目指した。だが、キースに会う前に、ついに本物のリタだと思える女性を見つけたのだ。ステラがいたはずの部屋。窓から降り注ぐ西陽が、彼女を柔らかく照らしていて。栗色の鎖骨より少し長い髪に緑色の瞳。可愛らしい顔立ちは人によっては、印象に残らないほど普通なのだろうが、僕の脳裏には鮮明に焼きついている。どこかに誰かの面影を感じさせる女性。口から血を垂れ流す彼女は、僕の探しているリタな気がしてならなかった。何もかも違うというのに。「…ロイ様、あの女性を見失ってしまいました」僕の目の前で騎士団の男の1人が申し訳なさそうに頭を下げる。僕はやっと見つけた女性をここに来てまた追う術を失ってしまった。「この森に入ったことは確かだ。森全域に捜索の手を広げよう。ただ街に戻る可能性もあるだろうから少数精鋭で街を捜索する隊も作れ。それから街の人たちに協力を仰ぎ、街でも彼女を見つけられるようにするんだ」「はっ」僕の淡々とした指示を聞き、騎士がすぐに動き始める。彼女を見失ってしまったのは、ここルーワの森だ。つい先ほどまで、彼女の存在を確認できていたはずだが、突然彼女は僕たちの目の前から姿を消した。あまりにも綺麗さっぱり彼女の存在が消えてしまったので、様々な修羅場をくぐってきた騎士たちでさえも、この状況に困惑していた。ここには、あの魔法使いキースがいる。おそらく彼が魔法を使い、僕たちの前からリタの姿を隠してしまったのだろう。そうでなければ、ここまで綺麗に全てを消すことなど不可能だ。やはりあの女性こそがリタであり、魔法使いと何か関係があることは間違いない。さらに何もかも違うはずの彼女に対して、リタだと確信を持てる理由は他にもあった。それはあの身のこなしだ。最上階である4階から難なく下へと
last updateDernière mise à jour : 2026-09-15
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53.彼女の仮説 sideロイ

ピエールが言っていた〝あの話〟とは、僕が立てたある仮説のことだった。僕はリタと婚約した後、早い段階で今目の前にいる女が僕の愛している女性ではないと気がついた。見た目は確かにリタだったが、中身が全然違ったからだ。彼女はわがままで自分勝手なところもあったが、同時に聡明で努力家な面もあった。不思議な二面性のある彼女だからこそ、僕は面白いと思っていたし、そんなところに惹かれていた。それなのにその聡明さや努力家な面が、突然綺麗さっぱりなくなってしまったのだ。他の者ならこんな話を聞けば、単に性格が変わっただけでは?と思うだろう。だが、僕は彼女の姿にある仮説を立てた。ーーーリタには影武者がいたのだ、と。 わがままで気分屋なリタには、苦手なことややりたくないことも多いはずだ。その全てを押し付け、完璧にこなす優秀な影武者をルードヴィング伯爵は娘の為に用意していたのではないか。だから僕の愛したリタには二面性があった。わがままで自分勝手なリタと聡明で努力家なリタ。時と場合によって変わるリタに、僕はまるで2人のリタに会っている感覚を覚えていたが、それはあながち間違っていなかったのだ。その優秀な影武者こそが、僕の愛したリタだった。そして、彼女は何らかの理由で姿を消してしまった。もし、この仮説が正しければ、今までのこと全てに説明が付き、自然だ。「話は終わりだね、ピエール。一刻の猶予もない。早く行って」「はい。それでは失礼いたします」僕に急かされて、ピエールは素早くこの場から離れた。*****その後、僕は本物のリタの捜索を一旦中止し、ホテルへと戻った。それから続々と戻ってきた者たちの証言をまとめ、次の手を考える為に、部隊長やピエールたちと共に情報共有をしていた。「ステラの姿もないんだね…」「はい」向かい側のソファに座る部隊長が、僕の言葉に渋い顔になる。彼の横に腰掛けるピエールも、また同じような顔を浮かべている。あの女性だけではなく、ステラまで姿を消すとは。ステラはおそらく吐血をしている。扉越しではあったが、僕は確かにそのようなただならぬ音を聞いたのだ。苦しそうな、息も絶え絶えなステラの震える声。続く咳に生々しい何かが吐き出された音。その後微かに鼻をかすめた鉄の匂い。異変に気づいたからこそ、僕はステラの制止を無視して扉を開けたの
last updateDernière mise à jour : 2026-09-16
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54. 保護

sideステラ薄暗い森の中。必死に走り続ける私の背後には、たくさんの騎士たちがいる。逃げても逃げても彼らは私を追い、決して逃そうとはしない。「リタ!待って!」騎士たちの中から金髪の天使が必死にこちらに手を伸ばす。そしてその指先が私の背中にわずかに触れた。「やめて、ロイ!」私は天使に向かって必死にそう叫んだ。*****「…っ!」突然、意識が覚醒し、勢いよくまぶたを開ける。そんな私の視界にまず入ってきたのは、温かみのある木で作られた見たことのない天井だった。どこからどう見てもここはあの薄暗い森ではない。誰かの家だ。そこまで状況を理解して、初めて私は今見ていたものが夢だったと気がついた。…何て嫌な夢を見てしまったのだろうか。妙に現実味のある嫌な夢に、寝ていたはずなのに疲れを感じてしまう。おまけに額や背中の汗も酷く、不快感まである。最悪な目覚めだ。今自分が置かれている状況を知る為に、私は体を起こそうとした。「…っ」しかし、驚くほど体が重く、それは叶わなかった。意識を手放す前の最後の記憶は、キースの元まで辿り着けたところだった。その後、今までの疲労と安堵からすぐに意識を手放したところまでは覚えている。だが、その後がまるでわからない。ここがどこかさえもわからない。仕方がないので首だけ動かして何とか周りを確認する。天井と同じように木で作られた壁と床。広さはそれほどなく、家具も必要最低限置かれており、清潔感もある。ここがどこなのか未だにわからないが、温かみのある木造の小さな寝室にいることだけはわかった。置かれている状況の次は、自分についてだ。今度は重たい体を何とか動かして、布団から手を出す。目に映った手は幼いものではなく、本来のものだったので、自分が今、19歳の姿なのだとわかる。あれからまだ朝が来ていないからこの姿なのか、何日も経っており、今が夜だからこの姿なのかはわからない。「…あ?起きた?」思考する私の耳に、聞き覚えのある低くてハスキーな声が届く。そしてその声の持ち主であろう足音が、こちらにゆったりと迫ってきた。「おはようございます、ニセモノのリタお嬢様」ーーーキースだ。音の方へと視線を向けると、そこには唇のはじを上げ、不気味な笑みを浮かべるキースがいた。「…キース。私が誰だかわかるの?」私を
last updateDernière mise à jour : 2026-09-17
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55. 魔法薬の真相

私から全てを聞き終えたキースのリアクションはこうだ。「え、えぇ…。僕ってやっぱり天才だったんだぁ。さすが帝国一…いや大陸一の魔法使いだよ」ぱちぱちと何度も瞬くその瞳には、恍惚とした感情しかない。波乱万丈な私の半年を労うでも心配するでもなく、自身の魔法薬の功績を噛み締め、喜んでいる。キースらしい反応だ。「…それで私の体に一体何が起きているの?」キースの姿に呆れながらも、私はここまで来た目的である私の体についてキースに問いかけた。するとキースは緩み切った表情に力を入れ、改めて真剣な声音で難しそうに話し始めた。「…まず、僕が試験的に作った〝時間を戻す〟魔法薬は君を見ればわかるけど、まぁご覧の通り失敗に終わった。だけどこれがただの失敗ではなかったんだ。僕が作った魔法薬の本当の効能は〝体の時間を戻す〟ものだったんだよ。だから君の体も時間が戻って幼い姿になったんだ」なるほど。私の説明と現状を見ただけでここまで断言できるとは、さすが製作者本人である。やはり、少し時間がかかったとしても、ここへ来てよかった。 「…天才だ。天才だよね、僕。〝時間を戻す〟ことには失敗したけど、〝体の時間を戻す〟ことには成功したんだ。まだこの世界には、時間に関与できる魔法薬は存在しない。それを僕は作ったんだよ!」先ほどのシリアスな空気はどこへやら。キリッとしたキースの顔は、静かに喋りながらも、また興奮でらんらんと輝き始め、最後にはこちらに力強く自身の成し遂げたことを訴えかけていた。「スゴイネー」その様子に、私は思わず苦笑いを浮かべた。〝体の時間を戻す〟魔法薬など、見たことも聞いたこともない。つまりそれだけ雲の上の話だったことを、キースは形にして見せた
last updateDernière mise à jour : 2026-09-18
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56. 帝国外へ

キースの忠告通り、私は1週間、とんでもなく苦しい思いをした。〝体の時間を戻す〟魔法薬の効力を消す為に毎日3回も飲む、ドロドロとした苦い薬に、副作用として私を襲う熱と頭痛と吐き気。永遠にも思えるほど続く苦痛は、私をいとも簡単に狂わせた。何故、自分は今、死にそうになっているのか。生き延びたいはずなのに。どうして。それでもほんの少しずつ症状は和らぎ、1週間後には完全に〝体の時間を戻す〟魔法薬の効力を無事消すことができ、私は本来の19歳の姿を取り戻した。そこから1週間は魔法薬解除によって失われた体力の回復に努め、さらにその後はキースの研究を手伝いながらも帝国外へと逃走する下準備を進めた。そうして、キースに保護されて1ヶ月の月日が経った。体力も戻り、準備も整った。いよいよ今日、私はキースの家から国境の検問所を目指し、帝国外へと出る。「キース。本当に1ヶ月間お世話になりました。キースのおかげで無事生きて帝国から出られそうだよ」玄関先でどこか眩しそうに朝日を浴び、こちらを見つめるキースに、私はにっこりと笑うと、深々と頭を下げた。何もかも計画通りに、…いや、それ以上に順調にことを進められたのは、間違いなくキースの力あってこそだ。今の私なら問題なく、国境を越えられる。帝国外へ出るには、必ず国境にある検問所を通らなければならない。検問所を通る為にはいろいろと書類が必要なのだが、その中には自分が自分であると証明する書類も必要だった。私には戸籍がない。その為、自分を証明する書類を作ることさえもできないのだ。だからこそ、私のような戸籍のない人間は、本来帝国外には出られない。私の当初の計画では、旅人や行商人に報酬を渡し、彼らの荷物に隠れ、あるいは高等な技術ではあるが、偽りの書類を用意して、帝国外へと出ようとしていた。この逃走で1番の難所であった検問所の通過。しかし、それはキー
last updateDernière mise à jour : 2026-09-19
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57. 逃げられない

帝国外へと出る為に、検問所の列に並ぶこと数十分。やっと私の番がすぐそこまでやってきた。「スムーズな手続きができるように書類の準備と本人確認の為に帽子、フード、マスクなどをしている方は事前に取ってお待ちください。ご協力をお願いします」並んでいる人たちに、検問所の職員である女性が先ほどからそう声をかけている。その声に、私は顔が見えないように深く被っていたフードを下ろした。「では、次の方。こちらへどうぞ」「はい」検問所の入り口の横にある受付の男性の職員に呼ばれ、前へと進む。私と職員を隔てるように机があり、その受付の横、検問所の入り口と呼ばれる場所には、仰々しい大きな魔法陣があった。職員の許可が下りない限り、この魔法陣を跨いで向こう側へと行けない仕様になっているのだ。「書類の提出をお願いします」「はい。お願いします」職員に促されて、私は予め用意しておいた偽の書類を提出する。何でもない表情を浮かべているが、内心は緊張で心臓がバクバクと忙しなく動いていた。もし、ここで書類が偽物であるとバレれば私は終わりだ。ここを違法に通ろうとしたことや書類詐称などいろいろな理由で捕まってしまうだろう。そして最悪罪人としてルードウィング伯爵に見つかり、殺される。職員の動向を固唾を飲んで見守ること、数分。職員はやっと顔を上げた。たった数分のことだったが、この列に並んでいた時よりもずっと長く感じた。「書類に不備はありませんでした。お通りください」「はい。ありがとうございます」淡々と機械的にそのまま進むように案内される。私は落ち着き払った様子で、足を魔法陣へと伸ばした。一歩、また一歩と、魔法陣の上を進んでいく。
last updateDernière mise à jour : 2026-09-20
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58. 敵か味方か

上質な布にふわふわの布団とマットレス。捕らえられたにしてはやけに待遇の良すぎるベッドの上で私は目を覚ました。てっきり冷たい床の上で目覚めると思っていたので拍子抜けだ。そんな思いを抱えながらも、とりあえず状況を確認する為にゆっくりと体を起こす。そこで私は体にある違和感を覚えた。体調が悪い訳はない。酷い痛みを感じる訳でもない。むしろ体は軽く、調子もいいくらいだ。しかし、足にだけ全く感覚がないのだ。何も感じられず、動かすことさえもできない。その違和感の正体を探る為に、恐る恐る布団をめくろうとしたーーーその時。「お目覚めですか、ステラお嬢様」ある人物に声をかけられたことによって、私の手は止められた。 足元から反射的に声の主の方へと視線を向ける。するとそこには本当に嬉しそうにその空色の瞳を細めこちらを見つめるセスの姿があった。「…セス」私をここへ連れて来た張本人、セスの登場に自然と布団を握る右手に力がこもる。セスは何度も言うが、リタの専属執事だ。そしてリタの専属執事として、私を処分する為に私を捕らえた。いつ害を与えられてもおかしくはないし、足に感覚がない今、抵抗することさえも難しい。 完全に不利な状況だ。「…あぁ、そんなお顔をしないでください。俺はアナタの執事なんですよ?」表にセスを警戒する色が出ていたのだろう。セスは私に、どこか悲しそうに微笑んだ。それからゆっくりとこちらに近づいてきた。「…っ」迫るセスに、私は身構える。…上半身だけでも、やるしかない。最悪、キースからもらった魔法薬もある。セスの動きを注意深く観察し、少し
last updateDernière mise à jour : 2026-09-20
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59.歪んだ愛情

両足に感覚がないことについては、目覚めてから今まで、ずっと違和感を覚えていた。…が、それがまさか私を守ると言った張本人の手によって折られていたからだったとは。それに心の準備とは何だ。その為に両足の骨を折るとはどういうことだ。今の状況に戸惑う私にセスは、「ご安心ください。万が一、アナタが痛みに苦しむことのないよう、足の感覚を失う魔法薬を使っております」と笑顔でご丁寧に説明する。しかし、そうではない。私はそんなことを聞きたいのではない。何故、私の両足を折る必要があったのか聞きたいのだ。どう考えてもおかしいだろう。「…私は自分の身くらい自分で守れるよ。だからセスに匿われる必要は…」「その足でどのように自分の身を守るのですか?」「足はセスが折ったんでしょう?今は無理でも足さえ治れば…」「では治るたびに折りましょう。そうすればアナタはどこへも行けませんから」私が何かを言うたびにそれをセスがバッサリと否定し、おかしなことを口走る。そして、ふふ、と嬉しそうに笑うセスのその目は全く笑っていなかった。あんなにも美しい青空のような空色の瞳が、まるで曇り空のように曇っている。狂っている。普通ではない。「大丈夫。何度も何度も折っていればアナタも理解するはずです。ここが一番安全で、アナタにとっての楽園なのだと」そんな訳ないではないか、とすぐにでも言いたかった。…が、私はその言葉を何とか飲み込んだ。今、それを言うことはセスを刺激すると思ったからだ。私の知っているセスはこんな人ではなかった。いつも冷静沈着で落ち着きのある正しい人だった。そんなセスが何故こんなにも歪み、狂ってしまったのか。訳がわからなかったが、ここで思考停止すれば終わりだ。私は必死に頭を働かせ、
last updateDernière mise à jour : 2026-09-21
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60.お気に入りのお人形

「ステラ様、口を開けてください」ベッドに腰掛ける私の側で、セスが柔らかな笑みを浮かべ、丁寧に私の口元にスプーンを近づける。「…」私はそんなセスに抗議の視線を送りながらも、せめてもの抵抗として口を固く閉ざしていた。…が、セスはそれでも楽しそうだった。「ふふ、そんな顔しないで?大丈夫、今日のご飯も自信作ですよ?」私の顔を愛おしげに覗くセスに、思わず心の中で深いため息をつく。セスの作るご飯の味を疑っているのではない。これは、このくらい自分で食べられる、という固い意思表示だ。しかし、こんなことは無意味だと私はわかっていた。毎日、毎食、こうだからだ。なので、今日も早々に抵抗することをやめ、不満げに口を開いた。「あぁ、お上手ですね。さぁ、あーん」「…」まるで赤子のお世話でもしているかのように、嬉しそうにセスがスプーンを私の下唇へと優しく押し当てる。私はそれを大変不本意ながらも受け入れ、ごくりとスプーンの上のスープを飲んだ。…何だこれ。セスが私を匿うという名の監禁をし始めてから、もう3日。ここでの生活には、自由などもちろんなく、両足を折られ、自力で動けない私は、ずっとこのふわふわのベッドの上だ。「美味しいですか?今日は南の離島から仕入れた海鮮でスープを作ったんです」「うん。美味しいよ、さすがセスだね」「よかった。では次はこちらをいただきましょう」「…うん」何とか笑みを作り、答えた私に、頬をほんのり紅潮させながらセスがまた私の口元へと食事を運ぶ。これを何度も何度も繰り返し、1時間もかけてやっと私は昼食を食べ終えた。**
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