噴水はいつものように空っぽ。 ベンチには、煙草を吸ったり、勉強したり、いちゃついたりしている学生たちが座っている。 そして誰一人、私を気に留めない。 それが不思議だった。 ほとんど不気味なほどに。 何か月もの間、毎日のように続いた嫌がらせ。 絶え間ない嘲笑。 囁かれた侮辱。 大声で投げつけられた悪口。 それらが突然なくなった沈黙のほうが、何よりも奇妙だった。 何が起こったの? なぜカミーユとその仲間たちは、私をいじめるのをやめたの? 私はB棟へ向かった。 人文科学の建物。 あと十分で講義が始まる。 そして――私は彼らを見つけた。 カミーユ。 レア。 ルーカス。 クロエ。 入口の近くで集まっている。 肩にはバッグ。 唇には笑み。 楽しそうに話し、笑い、冗談を言っている。 けれど、私を見つけた瞬間、何かが変わった。 笑顔が固まった。 目つきが険しくなった。 身体が強張る。 カミーユは口を開いた。 侮辱を投げつけようとしたのだろう。 けれど、思い直した。 視線を逸らし、私など見えていないふりをする。 ルーカスだけは目を逸らさなかった。 奇妙なほど強く私を見つめている。 そこには恐怖と憎しみ。 魅惑と嫌悪。 そんな感情が入り混じっていた。 彼は覚えている。 廊下で起きたあの日を。 私の爪が本を引き裂いたことを。 私の目が黄色くなったことを。 私が彼に下がれと命じたことを。 彼は誰にも話さなかった。 あるいは、話したとしても誰にも信じてもらえなかったのだろう。 けれど彼は知っている。 私がもう以前の私ではないことを。 私は彼らの前を通り過ぎた。 立ち止まらない。 頭を下げない。 一度も彼らを見ない。 そしてB棟へ入った。 心臓は激しく鼓動している。 手は震えている。 それでも、頭を上げたまま。 「エロイーズ!」 背後から声が飛んできた。 振り返る。 クロエだった。 彼女は集団から離れ、私をホールまで追ってきている。
最終更新日 : 2026-10-15 続きを読む