追われる身、狼王に愛される のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

110 チャプター

第100章――キャンパスへの帰還2

噴水はいつものように空っぽ。 ベンチには、煙草を吸ったり、勉強したり、いちゃついたりしている学生たちが座っている。 そして誰一人、私を気に留めない。 それが不思議だった。 ほとんど不気味なほどに。 何か月もの間、毎日のように続いた嫌がらせ。 絶え間ない嘲笑。 囁かれた侮辱。 大声で投げつけられた悪口。 それらが突然なくなった沈黙のほうが、何よりも奇妙だった。 何が起こったの? なぜカミーユとその仲間たちは、私をいじめるのをやめたの? 私はB棟へ向かった。 人文科学の建物。 あと十分で講義が始まる。 そして――私は彼らを見つけた。 カミーユ。 レア。 ルーカス。 クロエ。 入口の近くで集まっている。 肩にはバッグ。 唇には笑み。 楽しそうに話し、笑い、冗談を言っている。 けれど、私を見つけた瞬間、何かが変わった。 笑顔が固まった。 目つきが険しくなった。 身体が強張る。 カミーユは口を開いた。 侮辱を投げつけようとしたのだろう。 けれど、思い直した。 視線を逸らし、私など見えていないふりをする。 ルーカスだけは目を逸らさなかった。 奇妙なほど強く私を見つめている。 そこには恐怖と憎しみ。 魅惑と嫌悪。 そんな感情が入り混じっていた。 彼は覚えている。 廊下で起きたあの日を。 私の爪が本を引き裂いたことを。 私の目が黄色くなったことを。 私が彼に下がれと命じたことを。 彼は誰にも話さなかった。 あるいは、話したとしても誰にも信じてもらえなかったのだろう。 けれど彼は知っている。 私がもう以前の私ではないことを。 私は彼らの前を通り過ぎた。 立ち止まらない。 頭を下げない。 一度も彼らを見ない。 そしてB棟へ入った。 心臓は激しく鼓動している。 手は震えている。 それでも、頭を上げたまま。 「エロイーズ!」 背後から声が飛んできた。 振り返る。 クロエだった。 彼女は集団から離れ、私をホールまで追ってきている。
last update最終更新日 : 2026-10-15
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第101章――キャンパスへの帰還3

黒い目が、悪意のある好奇心で輝いていた。 「何?」 私は疲れた声で尋ねた。 「別に」 クロエは肩をすくめた。 「ただ、あなたを見ているだけ。ねえ、変わったと思わない? 顔も違う。歩き方も違う。何より……匂いが違う」 その言葉に、血が凍った。 匂い。 クロエにわかるはずがない。 感じ取れるはずがない。 それなのに、彼女の口元に浮かんだ薄い笑みが告げていた。 何かに気づいたのだ。 弱点を嗅ぎつけた。 そして、攻撃する時を待っている。 「放っておいて、クロエ」 私は呟き、歩き続けた。 「ああ、放っておくわ」 クロエはその場で立ち止まった。 「今のところはね。でも、私はあなたを観察している、エロイーズ。ずっと前から。いつか、あなたの秘密を暴いてみせる」 私は答えなかった。 歩く速度を上げた。 廊下の角を曲がる。 そして、もうすぐ始まる講義室へ姿を消した。 学生たちはすでに席についている。 教授はまだ来ていない。 私はいつものように最後列、ドアの近くに滑り込んだ。 けれど、今回は誰も笑わなかった。 私が通るとき、誰もわざと身体をずらして避けたりしなかった。 誰も小声で嫌味を言わなかった。 いじめは止まった。 少なくとも今日のところは。 少なくとも表面上は。 安心するべきだった。 肩の力を抜くべきだった。 思いがけず訪れたこの休息を楽しむべきだった。 けれど、できなかった。 何かが告げている。 これは嵐の前の静けさだ。 爆発の前の休止。 そして、遠吠えの前の沈黙なのだと。 授業が始まった。 教授は少数派の社会学について話している。 私は聞いていない。 腹を撫でながら、ルグのことを考える。 ミロのことを考える。 森で私を待っている群れのことを考える。 そして、自分があとどれだけ、普通のふりを続けられるのかを考える。
last update最終更新日 : 2026-10-15
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第103章――見えない群れ2

私は拳を握りながら尋ねた。 「何が起こるの?」 「たぶん、何もひどいことは起きない」 ミロは安心させるような声で答えた。 「君は妊娠している。それも、もうかなり大きい。子供を宿していると変身は難しくなる。身体が赤ちゃんを最優先するからね。爪が伸びたり、目が黄色くなったり、背中が痛んだり……いくつかの症状は出るだろう。でも、完全な変身はしないはずだ。出産まではね」 「出産した後は?」 ミロはためらった。 黄色い目を逸らし、窓の外へ視線を向ける。 そこでは月がゆっくりと森の上へ昇っている。 「出産したら、すべてが変わる」 ようやく彼は言った。 「身体が役目を果たすから。狼の継承者をこの世に生み出す。そして、そのとき……君は、君がなるべき存在へ完全に変わる」 「狼女……」 私は呟いた。 「狼女になる」 ミロは頷いた。 「月の下を走り、森で狩りをし、父さんの隣で戦える完全な狼になる。でも、人間の女性でもある。人間たちの中で暮らし、彼らの言葉を話し、服を着て生きることもできる。僕と同じように、二つの世界を繋ぐ橋になるんだ」 私は自分の腹を見下ろした。 そこには私の子供がいる。 そして、さまざまな感情が押し寄せてくる。 恐怖。 そう、まだ恐怖はある。
last update最終更新日 : 2026-10-16
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第104章――見えない群れ3

彼がいなければ、私は迷っていた。 彼がいなければ、私は死んでいた。 「群れについてもっと話して」 私はソファに背を預けながら頼んだ。 「私があなたたちに加わることを決めたら、何が待っているのか教えて」 ミロは手を離し、再び壁に背を預けた。 黄色い目は遠くを見つめている。 「群れというのは……」 彼はゆっくりと言った。 言葉を一つひとつ慎重に選ぶように。 「群れは、家族以上のものだ。部族以上のもの。単なる集団でもない。群れは絆なんだ。血よりも強く、愛よりも強く、死よりも強い絆。群れの一員になれば、もう二度とひとりにはならない。食べ物も、領土も、危険も、喜びも、すべてを分かち合う。他の者のために死ぬ覚悟を持ち、他の者たちも君のために死ぬ覚悟を持つ」 「でも、あなたたちは二人しかいない」 私は指摘した。 「あなたの父親と、あなた」 「今はね」 ミロは悲しそうに微笑んだ。 「ずっと昔はもっと多かった。何十匹もの狼が、この地域の森に散らばって暮らしていた。でも人間たちが私たちを狩り、絶滅させ、森を焼いた。父さんは、この領域に残った最後の純粋な狼だ。僕は最後の混血。そして君の子供……」 彼の目が私へ向けられた。 「君の子
last update最終更新日 : 2026-10-17
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