《聖女の身代わりとして死ぬ運命だったけど、どうしてか俺は成り上がって終末世界で無双しています》全部章節:第 11 章 - 第 20 章

29 章節

011 真紅に輝く色

 ジョブを奪われたアルクのことが気になりつつも、俺は旅立つことにした。 一応は狩りや農作業で身体を鍛えている。勇者というジョブ補正に期待をして、大した準備もなく動き出すことに。「父上、母上、世話になりました。俺は世界を救う旅に出かけます」 正直に世界の救済とか無理だと思う。  とはいえ、俺は十七歳で死ぬ運命にあったんだ。その運命が変わったのだとすれば、死ぬ気で頑張るくらいはできるはず。 それにフィオナと親密になって大人の階段を駆け上がったりできるかもしれないし、旅立つことに疑問は感じなかった。「とりあえず祈っとくか……」 早朝に家を出たので、まだ聖堂には誰もいない。七柱の女神像が俺を迎えてくれるだけだった。 祈りを捧げたならば、シエラが再び現れるかもしれない。勇者としてどう動くべきなのかを俺は知りたいと思う。「クソ女神様、早く降臨してください……」 祈りを捧げるや、俺は意識を失う感覚に陥る。しかし、それは一瞬のことだ。刹那に、まだ記憶に新しい空間へと俺は誘われていた。 目の前には神々しい輝きを放つ女性。だが、それはシエラではない。「あんた……誰だ?」 眉根を寄せて聞く。てっきりシエラだと思い込んでいたけれど、眼前には燃えるような赤い髪をした女性が現れていたのだ。 ニヤリと笑った女性。彼女は頷きながらも、俺の質問に答えていく。「僕は武運の女神ネルヴァ。僕の使徒である君が仕えるべき女神だよ」 唖然としてしまう。  俺は悲運の女神に魅入られたはず。だが、現れた女神はアルクに勇者のジョブを授けるはずだった武運の女神ネルヴァだという。「俺はシエラの使徒だろ? それに人は複数の女神から加護を受けられないはず……」「使徒としての使命を与えると、その魂は過度に重くなる。故に使徒の偏った配置は世界に歪みを生じさせるんだ。よって僕たちは使徒の重複を避けなければいけない。でもシエラの固有スキルは強力でね、女神も世界も抗えないんだよ」 女神様の取り決めには理由があったらしい。世界を薄い布だと仮定すると、確かに一カ所が重くなると沈み込んでしまうもんな。「ちょっと待て。俺とアルクは二人ともが使徒だった。同じ家にいるのだから、重複しているのと変わらないんじゃないか?」「君の魂はかなり軽かったからね。加護を与えたとしても一般人より少し重くなるくらい。そ
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012 武運の女神ネルヴァの助言

「真紅に輝く君に僕は魅入っているのさ……」 嘘だろ?  ネルヴァの話を鵜呑みにすると、俺は武運の女神が魅入るほど赤い輝きを帯びているという。「ルカ、よろしく。僕は新しい使徒を歓迎するよ」 武運の女神は怒り狂っているかと思えば、俺をすんなりと受け入れている。「俺で構わないのか?」「君は少し女神ウケが良すぎる。悠久の女神ニルスがあそこまで固執するのは初めて見たよ。愚者の女神や美の女神も同じ。特にニルスはシエラが加護を与えてからも、ちょっかいを出していたからね。僕は君が浮気しないかハラハラしているよ。他の色に染まらないでね? ルカ、僕は君を愛しているから」 何だかよく分からんが、俺は女神様から告白されていた。  現実の女性には見向きもされないってのに、女神様にばかりモテてどうすんだ?「そういや、美の女神様も俺を希望していたんだっけ?」「そうだね。美の女神イリアの色は空。それは悲運と叡智が混ざった色。叡智の女神マルシェが選ぼうとしていたのだから疑いはないけど、君は叡智の素養も高かったんだね」「色は知らないけど、美の女神様の使徒はモテモテだと聞いたぞ? 初見で美の女神様は俺を指名したんだろ? 全然、モテないのはなぜだ?」 未だかつて女性と付き合ったことがない。母親似の俺は割と整った顔だと思うのだけど。「イリアは君を女の子にするつもりだったみたいだ。まあでも、性別関係なく現状の君はモテるはずだよ。モテないというのなら、原因はその深い青にある。ルカは過度な悲運にあるからね。モテるべき女性に出会えない運命なのさ」 乾いた声で笑うネルヴァ。  殴っていい? 笑い事じゃないっての。「黙れよ。俺にとっては切実な問題だっての」「ああ、ごめんね? 君がモテると僕は妬いちゃいそうだからさ。青のおかげで平静を保っていられる」「ホントかよ……。まあでも、出会うべき女性に出会えば、モテるってことだな?」「そういうこと。とにかく君は異性に気を付けることだ。特に女神たち。まさかシエラが使徒に入れ込むなんて考えられないことだ。今や誰もがルカを気にしている。君の輝きは僕たちを惹き付けるから」 一貫して女神ウケがいいとネルヴァは口にする。  まあでも、今の話で気にするのはそこじゃないな。「俺は今でもシエラの使徒なのか?」「おや? 何でも知っているのかと思えば聞い
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013 旅立ち

「叡智の女神マルシェの使徒は王都クリステラにいるよ」 いやいや、そこって俺の通り道なんだけど?  てか、やはりゲームと同じか……。 叡智の女神マルシェの使徒は王城にいる。俺が王様に謁見するのであれば、リィナと出会う可能性は高くなるだろう。「ま、王城もクソデカいだろうし、一日で王都を発てば出会わないか」「生憎と君は不幸だからね。加えて相手が悪すぎる。幸運の女神に魅入られし魂は、必要とあらば砂漠の中に隠された砂金の一粒でも見つけられるよ」「ちっとは安心させろよな?」 お前は俺に死んで欲しいのか? さっき語った愛はなんだってんだよ。「僕としてもリィナと会って欲しくない。既に運命は動いているけれど、十五年間も君は彼女の身代わりだったんだ。その流れは今も世界に残っている」「運命の流れか……」 何となく分かる。まるで違う方向に流れ始めたんだもんな。考えずとも、今もその流れは俺があの呪文を使用する方向にあるのだろう。「かといって、リィナも祝福の儀を終えたばかりだからね。急げば出会わないよ。流石に同じ場所にいないのなら、幸運も力を発揮できない」「本当かよ? じゃあ、俺はもう旅立つ。ところで、シエラは出てこないのか?」 ここで気になることを聞く。顕現したのはネルヴァだけなのだ。今も加護を与えているシエラは何をしているのかと。「シエラは朝に弱いからね。寝てるんじゃないかな?」「割と俗っぽいのな。女神様も……」「世界を見守るか、寝るくらいしかやることがないからね。だから、彼女の興味も分かる。悲しき運命はエンターテインメントとして最適だから。まあ、僕はルカを第一に考えているよ。愛ゆえに……」 やれやれだぜ。  あの駄女神には一言いってやりたいところだが、別にネルヴァがいたら俺は頑張れる気がする。「くれぐれもディヴィニタス・アルマの使用には気を付けて。あの呪文は他者の運命をガラリと変えてしまう。できる限りフォローするけど、レアジョブを背負った場合は僕に対処できない可能性が高い。女神の固有ジョブであれば、僕にどうこうできる問題じゃないから」 やはりネルヴァは善の女神だ。俺が奪うジョブについてフォローしてくれるという。 とはいえ、俺だって無闇に他者の運命を背負いたくはない。ジョブだけならいいけど、リィナのように余命僅かという場合もあるのだから。「分か
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014 リィナの旅立ち

 翌日、私は再び大聖堂を訪れていました。  家族の大反対がありましたけれど、なんとか旅立つ許可を得ています。 幸いにも武術大会で何度も優勝していましたし、聖女というジョブは自衛に適している。何より、あと二年の命だと告げたこと。一人旅の許可は最後くらい好きなようにさせてやろうという意味合いがありました。「幸運の女神セラ様、私はこれより旅立ちます……」 祈りを捧げるや、昨日と同じように幻想的な空間へと誘われます。  目映い輝きに目を細めていると、直ぐさま眼前にはセラ様が現れていました。「リィナ、気を付けていくのですよ? とはいえ、貴方は幸運の持ち主。心配など必要ありませんかね」 昨日と同じような話です。私自身に実感などありませんけれど、セラ様は私が幸運に恵まれていると今も考えている。「そうだと良いのですけれど……」「ふふ、貴方は侯爵令嬢ですよ? 一人旅が認められたのは貴方の幸運が巡り巡った結果です」 またもや後付けにも感じる理由が述べられています。 悪いと思いますが、私には運が絡んだ要素を見つけられない。だけど、セラ様が言うのなら、そうなのかもね。「それでリィナ、貴方は王都へと急ぎなさい」 続いて私の目的が語られました。  叡智の女神マルシェ様の使徒と会うこと。でも、急げというのには理由があるのかしらね?「急がねばならないのでしょうか? マルシェ様の使徒になにか?」「ああいえ、マルシェの使徒とは関係ありません。急ぐ理由は一つ」 どうやら、運命の鍵を握るマルシェ様の使徒は関係ないみたい。  セラ様は徐にその理由を口にしていく。「ルカ・シエラ・アルフィスが王都に向かっているからです」 えっ? ルカ・シエラ・アルフィスって、あのルカって子よね?「ルカ様はもう動き始めたのでしょうか?」 私の方が先に動いていると考えていた。  勇者というジョブを奪った彼は貴族だというのに、もう旅立ったといいます。「ルカは不思議な魂です。深い青をしているというのに、女神は総じて彼に惹かれる。既に武運の女神もまた彼に魅入っています。こんなことを口にするワタクシですら、気になっているのです」「いや、彼は不幸なのですよね? セラ様が気に入る要素なんて……」「ワタクシの序列は低いですからね。ルカには見通せない資質があるのかもしれません。勇者の運命を背負
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015 王都を目指して

 グリンウィードを発って二日目。俺は王都クリステラまで、あと半日というところまで来ていた。「そ、育ち盛りですね……?」「そうなんです! 食べ物まで援助していただいてありがとうございます!」 俺は人助けをしたわけなんだが、正直に後悔していた。  路銀である銀貨十二枚はまだ良いとして、大量に買い込んだ俺の携帯食料を五人のガキ共は食い尽くす勢いだ。「ちっとは遠慮してくれても……」「もっとちょうだい!!」 どれだけ餓えていたんだろうな。まあ領民みたいだし、無下にもできない。 だがな、お前らは明らかに食い過ぎだ。全部食べても良いなんて一言も口にしていない。俺だけが食べることを躊躇った結果、食うかと聞いただけだ。「もっと! もっとちょうだい!」 うん、もう無理だな。これは保存食であり、長い期間に亘って持ち歩こうとしていた非常食なんだが、王都に着く頃には食いかす一つ残っていないだろう。「ママ、お腹痛い! お腹が痛い!」「まあ大変! 旅のお方、どうにかなりませんか!?」 この子供にして、この親である。  どうしてそこまで俺を頼りにできる? 罪悪感とか遠慮とか学んでこなかったのか? 脳筋子爵の所領であるけれど、ここまで図々しくなれるなんて驚きだ。「回復や……」 女神の加護であるアイテムボックスに入れた回復薬。俺は取り出そうとして固まっていた。 なぜなら回復薬は高い。一個銀貨四枚もする。購入した数は十個。恐らくチビたちの腹痛はただの食い過ぎだろうし。 五人全員のお腹が痛くなるのは明白であり、一人にあげたとすれば俺は銀貨二十枚分を失うことになる。俺の非常食を食べ過ぎたという腹痛により、更なる損失を被るかもしれない。「回復薬があるのですか!? どうかこの子に!」 いやいや、この母親おかしいだろ?  未亡人であればまだしも彼女には夫がいるらしい。今以上に親切にしたところで俺にメリットはないと思う。「ああいや、回復できたらなぁって……」「今、回復薬って言いましたよね!?」 ステータスを開いたまま誤魔化すが、無駄なことかもしれん。この旅で彼女の図々しさは嫌というほど理解したし。 アイテムという項目を触ろうとして固まっていると、俺はこの苦境を乗り切る手段を発見していた。【ジョブ】神職者(司教級)「司教級なら回復魔法が使えるんじゃ?」 しかし
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016 悲運の青に染まる王都

 グリンウィードを発ってから三日後、俺はようやく王都クリステラに到着していた。 当然のこと非常食は食い尽くされ、残ったのは回復ポーションと心許ない路銀だけである。 ゲームでの記憶があったというのに王都はデカすぎる。光の速さで迷子になるなんて想定外だっての。「まいったな。ここってスラム街か……?」 彷徨っているうちに、俺は寂れた通りへと迷い込んでいた。  周囲にはガラの悪そうな人間が散見し、路肩には物乞いのような人たちが座り込んでいる。「来た道を戻った方がいいか……」 流石に怖くなり、俺は来た道を戻ることに。  現在地は分からないけど、ここよりも治安が良い場所へ戻るくらいはできるはずだ。「きゃぁぁっっ!!」 クルリと身体を反転させた瞬間、背後から叫び声が聞こえた。 流石に振り返ってしまう。何が起きているのかと。  そこにはガラの悪い男に腕を掴まれた少女がいた。何やら難癖をつけられているように見える。「この壺がいくらすると思ってんだ!? 金貨五百枚だぞ!?」「知らない! 貴方がぶつかってきたんじゃないの!?」 勇敢にも少女は悪漢二人を相手に意見を口にしている。だが、結末は第三者である俺の方が良く分かっていただろう。「うるせぇ! 弁償してもらうぞ! 娼館に売りつけてやる!」 やはり未来は一つだけだ。少女が抵抗できるはずもなく、文句を言ったところで無駄なこと。初めから仕組まれていたことであり、彼女は目を付けられていただけだろう。「スラムの日常なんだろうけど……」 俺は少女の姿に自分を投影していた。  抗う術のない運命。強制されたレールの上を進んで行くだけ。そのレールが途切れていると分かっていても、それを通っていくしかないのが運命なんだ。「お前ら、その手を離せよ……」 俺は無意識に剣を抜き、男たちに声をかけていた。  俺は勇者だ。悪を根絶やしにするべき存在。勘違いも甚だしいけれど、俺は少女を救おうと思った。「威勢のいいあんちゃんだな? 俺たちのことを知らないのか?」「知るか。クソほども価値がない人間の名前を覚えるつもりはねぇよ」 俺は強気に返す。しかし、間違っても正義感じゃない。  運命を知ったあの日から、俺は運命に縛られるのが嫌なんだ。たとえそれが俺自身ではなかったとしても。「脳が腐るからな!!」 怒りが身体に満ち
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017 スラム生活

 一週間が経過していた。俺は相変わらずスラム街にいる。 生きながらえているのは街とスラムを区切るドブ川に大量のゴミが捨てられていたからだ。これでも貴族だというのに、浄化魔法を使って泥水を飲んで残飯を食べていた。 ゴミ漁りの戦利品として腰に巻く布きれと、すり減った包丁がある。無法者しかいないスラムにおいて包丁は俺が生き抜くための重要アイテムとなっていた。「衛兵に助けを求めても、この身なりじゃ身分照会すらしてもらえないし」 腰布一枚で街中に現れたら速攻で捕らえられるだろう。加えて身分証がない俺はその場で切り捨てられてもおかしくない。「ま、生きてさえいれば何とかなる」 一週間も過ごしただけだというのに、俺は割とスラムに馴染んでいた。脳筋教育の成果がこんなところで発揮されるなんて思いもしなかったな。 楽観視しているのは成り上がる方法を考えていたから。俺を丸裸にした無法者を倒し、逆に全てを奪う。身なりを整えたら、所領に戻って身分証の再発行をしてもらえばいいのだと。「ジョブは勇者に戻した。武器も手に入れたし、あとはクソ野郎どもが戻ってくるのを待つだけだ」 あの二人組は絶対に戻ってくる。遊ぶ金が尽きたなら、再びスラムで悪さをするはずだ。「きゃああああ!!」 そんな折、叫声が響いた。  スラムでは日常なのだけど、俺は駆けだしている。勇者として弱者を守り、悪者を裁くという目的のために。「お前がぶつかってきたから、腕が折れたじゃねぇか?」 一週間前の記憶がフラッシュバックしていく。  眼前には大男に腕を捕まれた女性の姿があったんだ。「知らないわ! 貴方たちがぶつかってきたのでしょう!?」「慰謝料が払えないなら、お前を娼館に売りつけてやる!」 まるで同じ展開に俺は嘆息している。  二人組の男は俺から全てを奪った奴らだったんだ。  どう考えても絶対に女性は悪くない。裁かれるべきは二人組の男に違いない。「お前ら、そこまでだ!」 俺は女性の腕を掴む男に背後からケリを喰らわせた。  これは教訓なんだ。先に女性を逃がすようにして動く。二人共が地獄を見る必要なんてないのだから。「くっそ、誰だお前は!?」「逃げろ! 全力で逃げろ!」 俺は声を張り、女性を促す。いち早くこの場を立ち去るようにと。 俺を振り返っていた男たちは流石に対処できなかった。刃
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018 正義感

 スラム街に来て十日目。俺は後悔していた。「怒りに任せて斬り付けるんじゃなかった」 銀等級冒険者の二人は今や全裸で這うしかできず、ゴミを漁って生きている。それはそれで溜飲が下がるものであったけれど、彼らの装備や衣服まで切り裂いたことを後悔していた。「少なくとも服があれば衛兵に捕まらずに所領まで戻れたのに……」 スラムには闇市があって、そこを仕切る婆さんに銀等級冒険者の剣を売ったのだが、なんと二本で銅貨五枚。搾取されまくった俺は今も服すら買えなかったんだ。「最低限の服が買えるまで悪漢退治を続けるしかねぇな」 闇市の古着は銅貨五十枚。ぼったくり価格だが、闇市なのでしょうがない。  婆さんは何でも買い取ってやると話していたし、そこまで遠い未来でもなかったから俺は腰布と包丁一本で生きていくことに。「あれ……?」 スラムを彷徨いていると、何だか騒がしいことに気付く。  ゴミが流れる水路の向こう側で、どうしてか悲鳴が轟いていた。「どうしたんだ?」 とりあえず俺は様子を見ようと橋の欄干に近付いている。  とても人前に出る格好ではなかったが、スラム側にいたのならお咎めもないだろうと。「魔物……?」 ここは王都クリステラ。街は巨大な街壁に囲まれている。従って魔物被害など万が一にもないはずだが、巨大なトカゲが暴れ回っていた。「あれは……フライリザードか」 魔物狩りの手伝いをしていたから知っている。  大きな羽を折りたたんでいたけれど、間違いなくフライリザードであり、衛兵を掻き集めて討伐せねばならない危険度三階級の魔物だった。「きゃぁあああっ!」 尚も叫声が響く。  三階級の魔物が飛来したというのに、まだクリステラの衛兵は到着していない。このままでは甚大な被害に膨れ上がるだろう。「ちくしょう!!」 俺は駆け出していた。  このままでは人命に関わると。魔物と戦うだけならば、素っ裸でも衛兵は見逃してくれるのではないかって。「マズい!」 突如として飛来したのだろう。逃げた者たち以外は呆然と立ち尽くしていた。 フライリザードは非常に好戦的。素早い魔物であり、逃げ遅れると全員が惨殺されてしまうはず。「みんな、逃げろ! 殺されるぞ!」 大声を張って呼びかける。頼むから早く逃げてくれ。 フライリザードは駆け寄る俺を一瞥したあと、
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019 リィナの一日

 私が王都クリステラに到着して二日目。 サンクティア侯爵領は王国の北端でありますから、馬車を使ったというのに二週間近くもかかっています。まあ街があるたびに観光していたことも原因ですけれど。 昨日は長旅の疲れで直ぐに寝てしまいましたが、仕切り直しの初日ともいえる今日は、ルカ様を探すために動き回っていました。さりとて観光もしましたけど……。「私の幸運って仕事してるのかしら?」 セラ様は私が強く願えば叶うと話していました。 しかしながら、彼は現れません。  ルカ・シエラ・アルフィス。彼に会うため、私は王都を彷徨いていたというのに。「顔も特徴も分からないし……」 もしかしたら、出会っていたのかもしれない。でも、私は名前しか知らないのよ。こうなると、一目見て分かる特徴をセラ様に教えてもらうしかないわ。「ずっと会いたいと願っているのに、どうなってんの?」 確かに観光を楽しんだのは否定できない。だけど、楽しんだ以上に会いたいと願ってもいるの。セラ様のお話なら、直ぐにでも私の前に現れてくれるはずだけど。「もう夕暮れか……」 一日中、歩き続けたからお腹はペコペコ。宿の食堂で食べてもいいのだけど、やはり初めての一人旅なのだし、美味しい名物料理でもいただきたいわ。 婆やが話すところの赤い糸はレストランに繋がっているかもしれないし。「どこか良いお店はないかしら?」 今日も発作はでていません。処方された薬は毎晩飲んでいますし、私はまだ大丈夫。これからはルカ様に協力してもらって、私は運命を切り開くんだ。 お店を探しながら彷徨くこと三十分くらい。割と寂れた場所にまで来てしまいました。「橋の向こうはスラムなのね……」 これも社会勉強かな。  貴族たちが華やかな生活を送っている裏側。一日を生きることさえ難しい人たちがいるの。明らかに隔絶された区域に住む人たちは貧困に喘いでいるのよ。 水路を挟んだ向こう側のブロックを私はジッと眺めていました。 すると、不意に叫声が轟く。  金切り声のような叫び声は非常事態を察するに充分なものでした。「なんなの!?」 振り返る私は見ていました。空からドラゴンのような魔物が降りてくる様を。「うそ!? フライリザードって!?」 飛来したのは危険度三階級の魔物でした。 三階級は小隊単位で挑むような魔物です。  一匹であ
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020 接触

「間に合えぇぇっ!!」 俺は全力で走り出していた。  へたり込む女性の前に立ち、フライリザードの噛みつき攻撃を受け止めるために。「うおおおおっ!」 腰布が飛んでいった気もするが、今はそんなこと些細な問題だ。  誰かが生きるか死ぬかの瀬戸際。恥ずかしいとか捕まるとか考える場合じゃねぇよ。「クソがぁぁっ!!」 包丁を構えて、フライリザードの突進を受けた。  トカゲとはいえ、三階級の魔物。まるでドラゴンの突進を喰らったかのような威力だった。けれど、少しばかり押し込まれただけであり、俺も女性も無事みたいだ。「逃げられるか!?」 俺の問いには小さく無理と返事がある。背中越しに聞く弱々しい声から察するに、彼女は腰を抜かしているのだろう。「なら、そこで見とけ! 絶対に動くな!」 ちょっと勇者らしくね? 割とカッコ良かったんじゃね?  もしも守った女性に決まった相手がいないのなら、俺は惚れられてしまうんじゃね?「張り切っていくか!!」 フライリザードの突進を受け止められたこと。それは俺の自信になっていた。  動きも遅く見えたし、力量は俺に分があると思えたんだ。「トカゲ、覚悟しやがれ!」 包丁で斬り付けていく。  やっぱマイ包丁は最高だ。まるで食材であるかのように固い鱗を斬り裂いている。 まあしかし、包丁なので致命傷を与えるには至らない。  与える傷が浅すぎる。鱗を斬り裂いているだけであり、長期戦は避けられない状況となっていた。「やるじゃねぇかよ!」 フライリザードの動きは見えている。だから、俺は集中して挑むだけ。長期戦になろうとも、勝利するのは俺に決まってんだよ。  ◇ ◇ ◇  私は愕然としていました。 突如として戦闘に割り込んできた男性。私は覚悟していたというのに、事もなげにフライリザードの突進を受け止めている。「逃げられるか!?」 唖然としていると、彼は私に声をかけてくれた。  どうやら私の危機を察知して、戦いを選んでくれたみたい。「無理……。立てないの……」 何とか声を絞り出す。  こんな今も動悸がしていたけれど、彼の問いに答えなければならないと。「なら、そこで見とけ! 絶対に動くな!」 動けといわれたとして動けないのよ。 でも、大丈夫なの? 相手は三階級の魔物なのに。  私を見捨ててしまえば、貴方は
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