芽流の無様な捨て台詞が虚空に消えた後、二人は周囲の視線が集まる前に、足早にアパートへと戻った。 まさか初めての外出で、元夫と出くわしてしまうとは夢にも思わなかった。玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎながら和花は深くため息をついた。「理聖さん、お恥ずかしいところをお見せしてしまい、本当にすみませんでした……」 リビングのソファーに腰を下ろすと、和花は消え入りそうな声で謝罪した。 理聖はキッチンで手早く二人分の温かいお茶を淹れ、和花の前にそっとマグカップを置いた。「いえ。和花さん、色々と大変だったんですね」 理聖は和花の隣に座り、穏やかな口調で労わった。 あの短いやり取りだけで、和花が元夫からどれほど身勝手な扱いを受け、苦労を重ねてきたのかを正確に推測してくれたのだ。その優しさが、ささくれた心にじんわりと染み込んでいく。「なんであんな人と結婚したのかって、今では自分でも不思議に思うんですけどね……。学生時代からの付き合いだったので、若さゆえの恋愛補正って恐ろしいです」 自嘲気味に笑う和花に、理聖はふわりと目を細めた。「ふふ、人は時間と共に変わってしまうこともありますし、難しいですよね。でも、今の和花さんは、とても魅力的ですよ」「えっ……」 不意に落とされた甘い言葉に、和花は頬を熱くした。 誤魔化すようにマグカップに口をつけ、少しだけ前のめりになって話題を変える。「そ、そういえば! あのときの投げ飛ばし、すごくかっこよかったです。力任せではなくて、相手の向かってくる勢いを上手く利用していましたよね。とても綺麗な体捌きでした」「あはは、なんかスムーズに身体が動いてしまいました。記憶はなかなか戻りませんが、骨の髄まで染み付いている技術や無意識の反応といったものは、どうやら消えていないようですね」 理聖は自分の両手を見つめながら、少しだけ寂しそうに微笑んだ。 そして、彼は立ち上がり、部屋の隅に置いてある黒いビジネスバッグから、あの冷たい金属の塊――拳銃を取り出した。「きっと……」 理聖は慣れた手つきで拳銃の重さを確かめるように握り、伏し目がちに銃身を見つめた。「これの引き金の引き方なんかも、頭ではなく感覚的に覚えているんだろうな」 記憶がなくても、自分の背中を覆う和彫りの刺青や、鞄に詰め込まれた数千万円の札束、そして本物の拳銃が意味するものを
Last Updated : 2026-08-04 Read more