(どこよ……ここ……!?) 潮の香りと、錆びた鉄とカビの臭いが混じり合った冷たい空気。白石梓は、荒い呼吸を繰り返しながら重い目蓋を開けた。 周囲を照らすのは、天井から垂れ下がった裸電球の薄暗い光だけだ。どこかの古びた港の倉庫のようだった。 コンクリートの床に投げ出された梓は、両手と両足を粗末なロープで強く縛られ、口には幅広のガムテープを幾重にも貼られていた。 少し離れたドラム缶のそばで、男が二人、煙草の煙をくゆらせながらニヤニヤと梓を見下ろしている。花屋の店先で梓を乱暴に連れ去った、あの柄の悪いチンピラたちだった。「なぁ、この女、どう見ても極道に関係ある奴には見えねぇぞ。一般のカタギだろ? いくらなんでもヤベぇんじゃねぇの?」 少し背の低い男が、煙草の灰を床に落としながら呟いた。「九条さんの命令だ。四代目候補を匿ってる女を連れてこいって言われたんだから、仕方ねぇだろ」 もう一人の男が面倒そうに鼻を鳴らす。そして、舐め回すような下卑た視線を梓の全身へと這わせた。「にしても……かなりいい女だな。肌も綺麗だし、風俗にでも沈めて働かせりゃ、結構なシノギになりそうだぜ」「ちがいないな」 男の一人がニタニタと笑いながら近づき、梓の顎先に無骨な指を伸ばしてきた。梓は全身の毛が逆立つような強い嫌悪感を覚え、必死に身を捩ってその汚い手を避けた。(店で和花ちゃんが、〝その人は違います〟って叫んでた……。あれは一体どういうこと?) 混乱する頭の中で、梓は店先での光景を必死に繋ぎ合わせようとした。和花のあの切実な叫びは、自分ではなく〝別の誰か〟を探している男たちへの抗議だったはずだ。(もしかして和花ちゃん、何かとんでもない事件に巻き込まれているのかしら……? あの執念深い元旦那がよりを戻そうとして、暴力団でも雇って嫌がらせをしてる……?) 優しい梓の胸に去来したのは、自分の身の危険よりも、可愛い部下である和花への心配だった。しかし、今は他人の心配をしている場合ではない。(とにかく、ここから逃げなきゃ……!) 梓は縛られた体のまま、キョロキョロと周囲を見渡した。しかし、重厚な鉄の扉はしっかりと鎖で閉ざされており、高い位置にある小さな明かり取りの窓に手が届くはずもない。 スマホも連れ去られた車の中で奪われ、手元には何一つ残されていなかった。「おいおい、そ
Last Updated : 2026-08-09 Read more