「海外の方って、距離感が近い人もいるので」自分でも。随分雑な説明だと思った。奏も。それに気づいたのか。少しだけ笑う。「エマがそう言うならいいけど」その言葉に。妙な引っかかりが残った。信じている。でも。気になっている。今までの奏なら。後半だけを。絶対に見せなかった。「……」変わっている。奏も。私も。*午後。美術館へ向かうと。ジャンはすでに。浜中さんと黒木さんを巻き込んでいた。「この二枚は離した方がいい」「でも、年代で追うなら——」「年代を見せたい展示じゃないでしょう」資料を広げながら。容赦なく切る。「テーマを優先するなら、ここにこの作品がある意味が弱い」黒木さんも引かない。「ただ、この一点を外すと作家の変化が伝わりにくくなります」「その変化は今回必要ですか?」「……」「全部説明する必要はない。むしろ説明しすぎれば展示が鈍る」私は。少し離れたところから。そのやり取りを聞いていた。懐かしい。そう思ってしまった。ジャンは。変わっていない。絵の前では。相手の肩書きも。年齢も。ほとんど関係ない。必要なら。平気で切る。その代わり。良いものには。驚くほど素直だった。「エマ」突然。呼ばれる。「はい?」「どう思う?」「……私ですか」「他にエマはいない」「私は正式な担当者ではありません」「知ってる」ジャンは平然としている。「だから聞いてる」意味が分からない。「責任のない人間の方が、時々まともなことを言う」「失礼ですよ」浜中さんが声を上げて笑った。「エマさん、言ってやって」仕方なく。資料を見る。並んでいる作品。年代。サイズ。展示室。数秒。考える。「……私なら」指先で。一枚を示す。「これを動かします」黒木さんがこちらを見る。「外す?」「いえ」首を振る。「次の部屋へ」「理由は?」ジャンがすぐに聞く。私は。少しだけ考えた。言いすぎないように。でも。曖昧にもならないように。「ここに置くと、この作品が答えに見えるからです」ジャンの目が。僅かに変わった。「続けて」「この部屋は、答えを見せるより。見た人が少し違和感を持ったまま次へ行く方がいいと思います」資料の次のページを開く。「その状態で次の部屋に入って、この
Last Updated : 2026-10-02 Read more