教室へ戻ると、玲はちょうど子どもたちの作品の紹介を受け終えたところだった。壁際には、乾燥を待つ水彩画が何枚も並んでいる。小林さんが一枚ずつ説明していたらしく、玲は最後の画用紙から視線を上げたところだった。「浜中さん、戻られたんですね」「ああ。そうだ、小林さん」浜中さんは先ほど分けておいたオイルスティックを取り出した。「これ、一つ教室にどうかと思って」小林さんが受け取るより先に。玲の目が、その画材へ向いた。「珍しいですね」声はいつもと変わらない。けれど、エマは反射的に足を止めた。「海外の知り合いにもらったんだけどね。僕じゃどうしようもないから」浜中さんは笑いながら小林さんへ手渡す。「へえ……」小林さんは太いスティックを手の中で転がした。「クレヨンではなさそうですね」「僕も最初そう思った」会話が自然に小林さんへ移る。今なら離れられる。エマは机の上に散らばった子どもたちの画用紙へ目を向けた。「私、こちらを片づけておきますね」そう言って、その場から離れようとした時だった。「浜中さんは、エマさんに使い方でも聞いていたんですか?」玲が、ごく自然に尋ねた。足が止まりそうになる。けれど。エマはそのまま一枚目の画用紙を手に取った。「いいえ」振り返り、穏やかに笑う。「私も見たことのない画材でしたので。教室へ寄付するのがいいのでは、とお話ししていただけです」嘘は。綺麗に出た。浜中さんが一瞬だけエマを見る。けれど、すぐに。「ああ、そうそう」いつもの調子で頷いた。「エマさんなら知ってるかなと思ったんだけどね」それ以上は言わない。約束どおりだった。「浜中さん、たまにこういう、みんながよく分からないものを持ってくるんですよ」小林さんが苦笑する。「でも、せっかくなので僕の方で使い方を調べておきます。子どもたちでも使えるものなら面白そうですし」「お願いします」エマは内心で息をついた。「そうですか」玲だけが。表情を変えなかった。視線がオイルスティックからエマへ移る。ほんの数秒。それから。「念のため、大きめのキャンバスもいくつか用意しておきましょうか」「キャンバスですか?」小林さんが聞き返す。「はい」玲は穏やかに答えた。「子どもたちが大きなものを描きたくなるかもしれませんし」そして。こち
Last Updated : 2026-08-21 Read more