十月の朝は、思っていたよりも冷えていた。 朝食を終えた蓮は、バッグを肩にかけ、駅へ向かう道を歩く。 足取りは、普段と変わらない。 少なくとも、そう見せることはできている。 ただ、右太ももの裏には、薄い違和感が残っていた。 痛みではない。 走れないほどでもない。 さっき最後の数本で感じた、糸が引っかかるような感覚が、まだ消えていない。(張りだ) 蓮は短く結論を出す。 疲労が抜けきっていない状態で、切り返しと再加速を重ねた。その分、少し硬さが残っているだけだ。 そう考えれば説明はつく。 実際、歩けている。 力も入る。問題ない。 そう判断して、蓮は学校へ向かった。 校門をくぐり、昇降口で靴を履き替える。 選手権予選は終わった。 準決勝敗退。 結果だけを見れば、それですべてだった。 それでも、蓮の中ではまだ、あの試合が終わっていない。 半個分流れたトラップ。 奪われたボール。 押し込まれた失点。 思い出すたび、右脚よりも胸の奥の方が熱くなる。(次は、収める) そのために必要なことをしているだけだ。 廊下を歩き、渡り廊下に差しかかったところで、前方から椿が歩いてくるのが見えた。 分厚いファイルを抱え、片手にはクリップボードを持っている。 蓮に気づいた瞬間、椿の視線が顔から足元へ落ちた。 蓮は、普段通りに歩いている。 ーーつもりだった。「……おはよう、天根くん」「ああ。おはよう」 短く返して、そのまま通り過ぎようとする。「待って」 蓮の足が止まった。 振り返ると、椿は蓮の顔ではなく、右脚を見ていた。「右脚、どうしたの」「何もない」「嘘」 即答だった。 椿はファイルを
Last Updated : 2026-08-16 Read more