ミュンヘン、クラブハウス最上階。 重厚なデスクを挟んで、蓮は一枚の書類と向き合っていた。 卒業後加入を前提とした合意書。 正式なプロ契約は年齢と手続きを待つ必要がある。それでも、ここに署名すれば、クラブは蓮の席を確保する。メディカルチェックの結果を受け、条件は当初の想定よりも上がっていた。 さらに、ハンスが最後まで交渉したのだろう。 橘椿への専属栄養管理契約について、優先的に協議する条項も添えられている。 蓮は、その一文を一度だけ見た。 椿がどう答えるかは、椿が決める。 けれど、自分はその道を用意できる場所まで来た。 それだけは、確かだった。『問題ないか、レン』 ハンスが尋ねる。『ああ』 蓮は万年筆を取り、迷わず自分の名前を書いた。 インクが紙に染み込んでいく。 その瞬間、天根蓮はまだ日本の高校生でありながら、世界のプロフットボールへ続く扉の前に立った。 オーナーが手を差し出す。『おめでとう、レン。君の道は開いた』 蓮はその手を握り返した。 だが、安堵より先に、日本のピッチが頭に浮かぶ。『ハンス』『分かっている』 ハンスは蓮が言う前に、眼鏡の奥の目を細めた。『空港へ向かいたいのだろう』『ああ。できるだけ早く戻る。決勝には間に合わせる』 その言葉に、ハンスはすぐには答えなかった。 沈黙が、蓮の胸を嫌な形で押した。『レン』『何だ』『日本では、準決勝が終わっている』 蓮の手が止まった。『……結果は』 ハンスは短く息を吐いた。『常盤台高校は敗れた。スコアは、一対三だ』 蓮は、何も言えなかった。 手の中にある書類が、急に重くなる。 世界への切符。 その紙を手にした瞬間、自分が戻るはずだった夏は、もう終わっていた
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14 อ่านเพิ่มเติม