บททั้งหมดของ 俺だけの献立 〜隣のスポーツ栄養士志望が俺の食事を管理するらしい〜: บทที่ 41 - บทที่ 50

211

40食目

 ミュンヘン、クラブハウス最上階。  重厚なデスクを挟んで、蓮は一枚の書類と向き合っていた。 卒業後加入を前提とした合意書。 正式なプロ契約は年齢と手続きを待つ必要がある。それでも、ここに署名すれば、クラブは蓮の席を確保する。メディカルチェックの結果を受け、条件は当初の想定よりも上がっていた。 さらに、ハンスが最後まで交渉したのだろう。  橘椿への専属栄養管理契約について、優先的に協議する条項も添えられている。 蓮は、その一文を一度だけ見た。 椿がどう答えるかは、椿が決める。  けれど、自分はその道を用意できる場所まで来た。 それだけは、確かだった。『問題ないか、レン』 ハンスが尋ねる。『ああ』 蓮は万年筆を取り、迷わず自分の名前を書いた。 インクが紙に染み込んでいく。 その瞬間、天根蓮はまだ日本の高校生でありながら、世界のプロフットボールへ続く扉の前に立った。 オーナーが手を差し出す。『おめでとう、レン。君の道は開いた』 蓮はその手を握り返した。  だが、安堵より先に、日本のピッチが頭に浮かぶ。『ハンス』『分かっている』 ハンスは蓮が言う前に、眼鏡の奥の目を細めた。『空港へ向かいたいのだろう』『ああ。できるだけ早く戻る。決勝には間に合わせる』 その言葉に、ハンスはすぐには答えなかった。  沈黙が、蓮の胸を嫌な形で押した。『レン』『何だ』『日本では、準決勝が終わっている』 蓮の手が止まった。『……結果は』 ハンスは短く息を吐いた。『常盤台高校は敗れた。スコアは、一対三だ』 蓮は、何も言えなかった。  手の中にある書類が、急に重くなる。 世界への切符。 その紙を手にした瞬間、自分が戻るはずだった夏は、もう終わっていた
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

41食目

 羽田空港の到着ゲートを抜けた瞬間、蓮を包んだのは、日本の湿った熱気だった。 ドイツの乾いた空気とは違う。  肌にまとわりつき、呼吸の奥に残るような重さ。 数日前の雨はもう上がっていた。外へ出ると、アスファルトから熱が立ち上り、タクシー乗り場には夏の夜の匂いがこもっている。 蓮はスポーツバッグを肩にかけたまま、しばらく足を止めた。 戻ってきた。  そう思った瞬間、胸の奥に別の重さが落ちる。 常盤台の夏は、もう終わっている。 タクシーに乗っても、蓮はしばらくスマートフォンを開かなかった。 監督からの連絡。  桐生からのメッセージ。  チームメイトたちの言葉。 届いていることは分かっている。 けれど、今すぐそれを見るだけの整理が、まだ蓮の中にはなかった。 手元の鞄には、ドイツで署名した書類が入っている。 世界へ進むための切符。  ずっと目指してきた場所へ続く道。 それと同じ重さで、準決勝の結果が胸に残っていた。 マンションに着き、エレベーターで四階へ上がる。  四〇一号室の前で、蓮は一度だけ息を吐いた。 鍵を回して扉を開けた瞬間、聞き慣れた換気扇の音がした。  それから、出汁の香り。 キッチンには、椿がいた。 制服の上にエプロンをつけ、鍋の前に立っている。テーブルには、蓮が送った検査結果を印刷した紙と、赤いペンで書き込まれたメモが広がっていた。 椿は蓮を見ると、鍋の火を少し弱めた。「おかえりなさい」「……戻った」「荷物、そこに置いて。先に座って」 いつも通りの声だった。 責めるでもない。  慰めるでもない。 ただ、帰ってきた選手を席に座らせる声。  蓮はスポーツバッグを床に下ろし、椅子に腰を下ろした。 身体が重い。  飛行機の疲れだけではなかった。「準決勝の結果は、聞いた」
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

42食目

 ドイツからの帰国翌日。蓮は、蝉時雨が降り注ぐ夏休みの校庭を歩いていた。 インターハイの遠征が終わったばかりの校内は、静まり返っている。普段なら部活動の生徒たちが活気に満ちているはずだが、準決勝で敗退し、数日間のオフを与えられたサッカー部のグラウンドには、今は誰もいない。  校舎の壁に掲げられた「祝・インターハイベスト4」という垂れ幕が、熱風に煽られて力なく揺れていた。その場にいなかった自分を責めるような静寂が、蓮の心に重くのしかかる。 蓮が部室の鍵を借りるために職員室へ向かうと、そこには夏休みの出勤をしていた数人の教師たちがいた。「おお、天根! ニュース見たぞ!」 一人が声を上げると、静かだった職員室が一変した。  教師たちは椅子を蹴るようにして立ち上がり、蓮を囲んだ。ドイツ名門とのプロ契約。その衝撃は、生徒の間だけでなく、大人たちの間でもすでに制御不能な熱狂となって広がっていた。「史上最年少での海外直契約なんて、開校以来の快挙だよ。校長も喜んでるぞ。選手権の結果次第では、さらに特大の垂れ幕を出す予定だ」 蓮は愛想笑いを浮かべながら、借りた鍵を握りしめた。  敗退したばかりのチームメイトたちがどのような思いで夏休みを過ごしているか、そんなことはこの祝祭のムードの中では一切考慮されていない。彼らにとって蓮は、すでに常盤台高校という枠を超えた、世界の共有財産のように扱われていた。「……ありがとうございます。でも、今はまだ選手権が残っているので」 短く言葉を残し、蓮は逃げるように職員室を後にした。  冷房の効いた廊下から外へ出ると、再び暴力的なまでの陽光と熱気が全身を包む。プロ契約という輝かしい切符。それと引き換えに、自分はこの静かな日常から、そして仲間たちとの共有された痛みから、強制的に切り離されてしまったような感覚が拭えない。 そんな蓮の視線の先に、グラウンドのベンチでタブレットを見つめる一人の人影があった。  橘椿。彼女は夏休みだというのに、当たり前のようにそこにいた。 彼女がドイツのクラブからの将来的な誘いよりも、今は自分という個の管理を選んだこと。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

43食目

 夏休みが後半に差し掛かる頃、グラウンドを吹き抜ける風はわずかに色を変えていた。  だが、肌を焼く陽光の暴力的なまでの強さは変わらず、人工芝から立ち上る熱気が視界を歪ませている。インターハイが終わったばかりだというのに、強豪校との練習試合のスケジュールは容赦なく組まれていた。  校門の周りには、ドイツの絶対王者へのプロ内定のニュースを聞きつけた観客やメディアがカメラを抱えて集まり、一年生にして世界の扉を抉じ開けた天根蓮の姿を、一目見ようと押しかけていた。「……なんか、練習試合っていう雰囲気じゃないな」 部室でスパイクの紐を締め直しながら、蓮は外の喧騒を想起して溜息をついた。  その隣で桐生がユニフォームに着替えながら、鼻で笑った。「有名人は辛いな、天根。だが、外の観衆なんてどうでもいい。……問題は、今日の相手だ。あいつら、お前を潰すことしか考えてねえぞ」 今日の対戦相手は、県内でも指折りの武闘派として知られる私立高校だった。  彼らにとって、バイエルン内定の一年生という肩書きは、敬意の対象ではなく、自分たちの名を売るための格好の標的でしかない。 試合開始の笛が鳴った直後から、その殺気は物理的な接触となって蓮を襲った。  中盤で蓮がボールを受けた瞬間、二人のディフェンダーが前後からサンドするように突っ込んでくる。ボールへのアプローチというよりは、蓮の身体を直接狙うような悪質なタックル。  だが、蓮の反応は周囲の予想を遥かに上回っていた。  接触する直前、蓮は微かな重心の移動だけで相手の突進をいなし、吸い付くようなトラップでボールをコントロールしたまま、止まることなく前を向いた。 その後も、審判の死角を突いたラフプレーが執拗に繰り返された。  ユニフォームを掴もうとする手は空を切り、腰を突き飛ばそうとする肩は蓮の柔らかな身のこなしに透かされる。あからさまな足への踏みつけも、蓮に接触すら許されず、何事もなかったかのようにプレーは続行された。  三度目、相手のボランチが蓮の膝を狙ってスライディングを敢行したが、蓮はそれを軽やかなステップで飛び越え、着地の瞬間にはすでに前方の桐生へ鋭いパ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

44食目

 洗い場から響いていた食器の音が止み、リビングには換気扇の回る微かな音だけが残った。 夕食の片付けを終えた椿は、いつものように手を拭き、テーブルの向かい側でスマートフォンを眺めていた蓮を見た。 その視線には、ピッチ上の動きを追う時と同じ鋭さがあった。「そういえば天根くん」「何?」「あなた、宿題は終わらせたの?」 蓮の指が止まった。  スマートフォンの画面は開いたまま、親指だけが不自然に固まる。「あー......」「その反応を見る限り、進捗はかなり悪そうね」「いや、違う。夏休みに入ってすぐインターハイだったし、帰ってきてからは練習試合もあっただろ。物理的に時間が取れなかったというか」「言い訳はいいわ。今すぐ鞄を持ってきて」「今から?」「今から。放っておいたら、あなたは絶対に明日もやらないもの」 逃げ場はなかった。  蓮は観念して自室へ戻り、重い足取りで鞄を持ってきた。 テーブルの上に広げられたのは、ほとんど白紙の数学プリントと、最初の数ページで止まった古文の冊子。英語のワークだけは、きっちり終わっていた。 一方で、椿が自室から持ってきたノートは、すでに全てのページが埋まっている。教科書には付箋が整然と並び、提出物は科目ごとに分けられていた。「……橘さん、それ全部終わってるのか」「当然でしょう。後回しにする理由がないもの」「マジかよ」「あなたが後回しにする理由なら、今しがた聞いたけれど」「……すみません」 蓮は数学のプリントを睨みつけた。 だが、数式はただの記号の羅列にしか見えない。ペンを回してみても、消しゴムの角を削ってみても、公式の一つも浮かんでこなかった。 向かい側では、椿が涼しい顔で自分の読書を始めている。 ページをめくる規則正しい音だけが、蓮の焦りを増やしていった。 数分後。  蓮は小さく咳払いをした。「……あの、橘
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

45食目

 大型商業施設の自動ドアが開いた瞬間、人工的な冷気が、夏の湿気を帯びた肌を撫でた。 外の空気は重く、駅からここまで歩いただけで、背中には薄く汗が滲んでいた。だが、一歩中へ入ると、Tシャツ一枚では少し肌寒いほどの冷房が全身を包み、蓮はここがグラウンドでも、校舎でも、四〇一号室でもないことを、妙に強く意識した。 隣にいる椿も、今日は制服ではなかった。 柔らかなベージュのブラウスに、膝下まである紺色のスカート。いつもはきっちり結ばれている髪は、今日は少し緩くまとめられていて、歩くたびに細い毛先が首元で揺れる。 蓮は、自分の白いシャツの裾を無意識に整えた。 ドイツにいた頃、チームメイトに「少しは格好をつけろ」と言われて買わされた服だった。黒の細身のパンツに、少し大きめの白いシャツ。鏡で見た時は悪くないと思ったのに、こうして椿の隣に立つと、急に落ち着かなくなる。「天根くん。そこで止まっていないで行くわよ」「あ、ああ」「まずは四階の大型書店。次に、昼食の場所を確認するわ。歩き回りすぎると午後の疲労が出るから、移動距離は抑えたいところね」「普通に出かけるんじゃなかったのか」「......? 出かけてるじゃない」 椿は当然のように言った。  蓮は少しだけ笑い、それから彼女の横顔を見る。「……橘さん」「何?」「今日の服、似合ってるな」 言ってから、自分でもそんな言葉が出てくることに少し驚いた。 椿の足が止まる。  案内板へ向けられていた視線はそのままだった。けれど、トートバッグの持ち手を握る指に、ほんの少し力が入る。「……そう」「ああ」「天根くんも、似合ってるわ」 早口だった。 それだけ言うと、椿はすぐに歩き出す。  髪の隙間から覗いた耳の先が、冷房の中でも少し赤く見えた。 四階の書店は、天井近くまで本棚が並ぶ広い空間だった。 専門書コーナーへ入った瞬間、椿の歩調が変わる。案内板を
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

46食目

 書店を出た二人は、まず帽子を買いに向かった。 蓮は店員に勧められるまま、黒いキャップを選び、会計を済ませるとすぐに深く被った。「……下げすぎじゃない?」「顔を隠せって言ったのは橘さんだろ」「隠せとは言ったけれど、前が見えないほど下げろとは言っていないわ」 椿は少し呆れたように言った。 それでも、さっき書店で声をかけられかけたことを思えば、対策しないよりはいい。蓮はキャップの位置を少しだけ上げ、椿の隣を歩いた。 次に向かったのは、スポーツ用品店だった。  広いフロアには、最新のウェアやランニングシューズ、トレーニング用品が並んでいる。普段なら、新しいスパイクやインソールの棚へ真っ先に向かっていたはずだった。 だが、今日の蓮は少し違った。  数歩先を歩く椿の背中に、時折視線が向いてしまう。 ハーフアップにまとめた髪の先が、歩くたびに揺れる。制服でもエプロンでもない私服姿の椿は、いつもの管理士としての顔とは少し違って見えた。「天根くん」「何?」「そんなにツバを下げて歩いていたら、商品が見えないでしょう」「大丈夫。見えてる」「本当に?」「下の方は」「ほら。下しか見えてないじゃない」 椿はそう言いながらも、少しだけ笑っていた。 蓮はキャップを軽く上げる。「今さらだけど、退屈じゃないか。スポーツ用品店なんて」「退屈ではないわ。こういう機会でもないと来ない場所だし」 椿は陳列されたインソールの棚に目を向けた。「あなたがどういう道具を使って、どこに負荷をかけているのかを見るには、悪くない場所よ」「結局、その目線なんだな」「当然でしょう」 椿は真面目な顔で答えた。 蓮はインソールの一つを手に取る。「これ、新しいタイプだな。足裏のアーチを支えて、疲労を軽減するやつか」 何気なく呟くと、椿が隣から覗き込んできた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

47食目

 スポーツ用品店での喧騒を背に、二人はエスカレーターでキッチン用品フロアへと降り立った。  そこは、これまでのフロアとは一変して、磨き上げられたステンレスの光沢と、落ち着いた照明に照らされた調理器具が整然と並ぶ空間だった。フロアに一歩足を踏み入れた瞬間、それまで桐生のからかいに動揺し、所在なさげに蓮の後ろを歩いていた椿の背筋が、劇的に伸びた。「……! 天根くん、あっちを見て」 椿の瞳が、これまでに見たことがないほど爛々と輝いた。彼女が迷いのない足取りで駆け寄ったのは、プロ仕様の鋳物ホーロー鍋や、職人の手による特殊加工が施されたフライパンが並ぶコーナーだ。  先ほどスパイクやポスターを一瞥もしなかった姿が嘘のように、彼女は一つ一つの鍋を手に取り、蓋の密閉性を指先で確かめ、光の反射で表面の加工ムラをチェックしていく。「見て、このフラットな底面。熱源からの伝導効率が完璧だわ。これなら根菜のビタミンを壊さずに短時間で芯まで火が通る……。それにこっちのフライパン、窒化処理の仕上がりが理想的ね。これなら油の使用量を最小限に抑えつつ、タンパク質を焦げ付かせずにソテーできるわ。見て天根くん、この美しいエッジの処理を!」 彼女の口から飛び出すのは相変わらず冷徹なまでの栄養学的、あるいは物理的な分析だったが、その声は心なしか弾んでおり、頬は高揚で赤らんでいた。蓮は、次々と専門用語を並べ立てながら棚から棚へはしごする椿の背中を、苦笑いしながら追いかける。  サッカーに関しては門外漢の彼女にとって、こここそがある意味で主戦場なのだ。彼女がフライパンを掲げて熱心に覗き込む姿は、まるで手に入れたばかりの至宝を鑑定する専門家のように真剣で、それでいてどこか微笑ましい。「……橘さん、それ。さっきから五分くらい見てるけど、そんなに違うのか?」「何を見ているの。道具は管理の基盤よ。熱の入り方が一秒狂えば、あなたの筋肉に届くアミノ酸の質が変わるかもしれないのよ。妥協なんて許されないわ」 椿は至って真面目な顔で、一枚のステンレス多層鍋を愛おしげに撫でた。蓮は、自分の食卓を支える道具をこれほど真剣に選ぶ彼女の横顔を、不思議といつまでも眺めていられるような気がして
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-14
อ่านเพิ่มเติม

48食目

 九月。猛暑の名残を抱えたまま、常盤台の校内には二学期の喧騒が戻っていた。 昇降口には久しぶりに顔を合わせた生徒たちの声が重なり、廊下には新しい提出物と文化祭準備の話が飛び交っている。窓の外では、まだ夏の熱を残したグラウンドに、朝から強い日差しが落ちていた。 蓮は下駄箱で靴を履き替えながら、いつもより多い視線を感じていた。「あれ、天根くんだよね」 「ドイツのクラブって本当?」 「ニュース出てたやつでしょ」 小声のつもりなのだろう。  だが、廊下ではよく響く。 ドイツで交わした卒業後加入を前提とした合意書。メディカルチェックの結果。クラブ関係者の来日。インターハイ期間中の離脱。 それらは事実と噂を混ぜたまま、夏休みの間に校内を駆け回っていた。 蓮は足を止めず、短く会釈だけを返して廊下を進む。 以前から見られることには慣れていた。 世代屈指の有望株。  一年生で常盤台の十番。  インターハイで注目を集めた選手。 そのどれも、もう蓮の周囲にはあったものだ。 けれど、今の視線は少し違っていた。  同じ学校の生徒を見る目ではなく、もう半分だけ外側へ出ていった人間を見る目。 その感覚が、妙に落ち着かなかった。 渡り廊下に差しかかったところで、蓮はふと足を緩めた。 スポーツ栄養科の校舎へ続く通路の向こうに、椿の姿があった。 分厚い参考書とファイルを抱え、少しだけ前傾になって歩いている。隣を歩く女子生徒に何かを聞かれ、短く答えながらも、視線は手元の資料からほとんど離れていない。 四〇一号室のキッチンで迷いなく包丁を握る姿とも、グラウンド脇で蓮の状態を見ている姿とも違う。  学校の中の椿は、スポーツ栄養科に所属する一人の生徒だった。 蓮はそれを、知っていたはずだった。 けれど、こうして校舎の向こう側にいる彼女を見ると、思ったよりも距離がある。 同じマンションの隣室。  毎日の食卓。  帰国後
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-15
อ่านเพิ่มเติม

49食目

 文化祭まで、一週間を切った。  常盤台高校の校舎は、いつもより少しだけ騒がしかった。 廊下には模造紙が貼られ、教室の前には段ボール箱が積まれている。放課後になると、あちこちの教室から工具の音や笑い声が聞こえ、普段は部活へ急ぐ生徒たちも、少しだけ足を止めて準備の進み具合を覗いていた。 ただ、グラウンドの空気だけは違っていた。「切り替えろ!」 監督の声が飛ぶ。  選手権予選まで、あとわずか。 文化祭の準備がどれだけ盛り上がっていようと、サッカー部にとって、今いちばん大事なものは変わらない。  紅白戦の終盤、蓮はセンターサークル付近でボールを受けた。  背後を確認し、ワンタッチで前を向く。左サイドで桐生が裏へ走り出すのが見えた。 足を振る。  ボールはディフェンスラインの間を抜け、桐生の前へ転がる。「ナイス!」 桐生がそのまま抜け出し、左足でゴール右隅へ流し込んだ。 ネットが揺れる。  紅白戦が終わった頃には、グラウンドの照明が点き始めていた。 ロッカールームでスパイクを脱いでいると、桐生が隣に腰を下ろした。「文化祭、どうするんだ?」「どうする、とは?」 蓮はタオルで汗を拭く。「栄養科の展示だよ。見に行くんだろ?」「まだ決めてはいないです」「嘘つけ。行く顔してるぞ」「どんな顔ですか」「気になってる顔」 桐生は笑いながら、ソックスを脱いだ。「普通科の模擬店も悪くねえけど、専門科棟は雰囲気違うぞ。特に栄養科は、毎年わりとガチだ」「そうなんですか?」「おう。カロリー計算だの、体組成だの、競技別の献立だの、俺らが普段なんとなく食ってるものを、向こうは数字で殴ってくる」「数字で殴る」「橘っぽいだろ」 蓮は少しだけ笑った。「そうですね」「今年はお前のデータも出るんじゃねえの?」
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-15
อ่านเพิ่มเติม
ก่อนหน้า
1
...
34567
...
22
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status