「名前は出さないのか」「当たり前でしょう。プライバシーの問題もあるわ」 椿は資料を一枚持ち上げる。「食事内容、体重推移、練習強度、試合後の主観疲労、翌朝の状態。春から今までの記録を、匿名化して展示用にまとめているところ」「半年分か」「正確には、継続的に記録が揃っている期間ね。途中で項目を増やしたから、全部が同じ精度ではないけれど」 椿はそう言って、グラフの一部を指で押さえた。「このあたりから、回復の傾向が変わっているのが分かるでしょう」 蓮は覗き込む。 折れ線グラフがいくつも並んでいる。 体重の変化。 練習後の疲労感。 翌朝の主観的な重さ。 試合日の食事量。 数字だけを見れば、そこに天根蓮という名前はない。 けれど、蓮には分かった。 この山は、夏合宿だ。 この落ち込みは、ドイツから帰った直後。 この戻り方は、練習試合で荒く当たられた翌日。 名前がなくても、その線の一本一本は自分の身体だった。「変な感じだな」「何が?」「自分の身体が、紙になってる」 椿は少しだけ手を止めた。 それから、資料へ視線を戻す。「紙にしないと、他人には伝わらないもの」「他人に伝えるため、か」「そうよ。私が何を見て、何を変えて、結果として何が起きたのか。口で言うだけでは、ただの感想になる」 椿の声は淡々としていた。「でも、数字にすれば検証できる。どこまでが食事管理の効果で、どこからがあなた自身の成長なのか。何が再現できて、何が個別性なのか。それを考える材料になる」「俺自身の成長と、橘さんの管理を分けるのか」「分けようとするわ。完全には分けられないけれど」 椿は小さく息を吐いた。「あなたは、私の成果物じゃない。だから、全部を私の手柄みたいに見せるつもりはないわ」 蓮は黙った。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-15 อ่านเพิ่มเติม