All Chapters of 10億のために継母と妹に殺されかけた夜、私は世界的スターに救われる: Chapter 11 - Chapter 20

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今夜は帰さない

『帰さないって……あなたにそんなことを決める権利があるんですか?』久恵の声が低くなった。『香子は私たちの家族です。部外者が口を出さないでください』「部外者ではありません。俺はずっと、この子を探していたんですから」勇樹はそう言ってから、続けた。「もちろん、最終的に決めるのは香子です」「ただ、本人が帰りたくないと言っている。それなら、無理に帰らせるつもりはありません」『あの子がそんなことを言うはず――』「言いましたよ」久恵が黙り込む。勇樹は香子へ視線を向けた。受話器から漏れる久恵の声を聞きながら、香子は不安そうに両手を握りしめている。「それに、香子は怪我をしています」『怪我?』久恵の声がわずかに揺れた。しかし、続く言葉は勇樹の予想とは違った。『あの子、また何かしたんですか?』勇樹の目が冷たくなる。「……また?」『香子は昔から不注意なところがあるんです。きっと今回も――』「バルコニーから落ちても?」『……え?』今度こそ、久恵が言葉を失った。香子も勇樹を見つめる。「香子から聞きました。妹に突き落とされたそうですね」『そんな……姉妹のちょっとした喧嘩でしょう』香子の瞳が揺れた。勇樹はそれを見て、静かに息を吐いた。「手すりにつかまっている香子の指を一本ずつ外すことを、あなたの家では喧嘩と呼ぶんですか?」『それは香子が勝手に――』「もう結構です」勇樹の声は穏やかなままだった。それでも、久恵の言葉を完全に遮った。「今夜、香子は帰しません」『待ちなさい!』「おやすみなさい」勇樹は通話を切った。静かになった室内で、香子は呆然と勇樹を見つめた。「……よろしかったのでしょうか」「何が?」「お義母様を怒らせてしまいました」明日になれば、もっと怒られるかもしれない。そう考えただけで、胸が苦しくなる。勇樹はそんな香子の前に屈み、目線を合わせた。「香子は何も悪くない」「でも……」「殺されそうになったのに、相手を怒らせないことを心配しなくていい」香子は何も言えなかった。そんなふうに言われたのは初めてだった。「今日はもう休もう」勇樹が立ち上がる。「部屋は用意してあるから」「勇樹お兄ちゃんは……?」「隣の部屋にいるよ。何かあったらすぐ呼んで」その言葉に、張り詰めていたものが少しだけほどけた。「…
last updateLast Updated : 2026-09-15
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助けを求めるために

翌朝。香子が目を覚ましたのは、すっかり日が昇ってからだった。昨夜は眠れないと思っていたのに、ベッドに入るといつの間にか眠ってしまったらしい。身支度を整えて部屋を出ると、隣室から勇樹が姿を見せた。「おはよう。眠れた?」「はい。おかげさまで」香子は頭を下げた。「昨日は本当にありがとうございました。ですが、今日からどうすれば……」帰るべきなのだろうか。そう考えただけで、美紗に手すりから指を引き剥がされた感触が蘇る。香子の表情が強張ったのを見て、勇樹はすぐに察したらしい。「無理に帰る必要はないよ」「でも、着替えも何もありませんし……」「必要なものは用意すればいい」あまりにも簡単に言われ、香子は困ってしまう。「そんなに何もかも、勇樹お兄ちゃんにお願いするわけには……」「じゃあ、まず必要なものを一緒に考えよう」「そういえば、昨日スマートフォンを持っていないと言っていたね」「はい」「じゃあ、友達や親戚に連絡するときは?」「家の電話を使います。でも、お義母様が嫌がる方には連絡しないようにしていました」勇樹の表情が曇る。「……そうだったんだ」香子は不思議そうに彼を見る。「何かおかしいでしょうか?」その問いに、勇樹はすぐには答えなかった。「香子」やがて、穏やかな声で尋ねる。「昨日、もし俺と会わなかったら、どうするつもりだった?」「え?」「美紗さんに追いかけられたら? 怪我がもっと酷かったら? 誰かに助けを求めたくなったら?」香子は言葉に詰まった。考えてみれば、誰にも連絡できなかった。「……公衆電話を探したと思います」勇樹の顔がわずかに曇った。けれど、香子を責めることはなかった。「分かった。じゃあ、今日はまずスマートフォンを用意しよう」「えっ?」「香子のものを」「そんな、高価なものをいただくわけには……」「贅沢品として渡すんじゃないよ」勇樹は香子をまっすぐ見つめた。「何かあったとき、君が自分で助けを求めるために必要なものだから」香子は息を呑んだ。助けを求める。今まで、自分にはほとんど縁のなかった言葉だった。「俺の番号も最初に登録しておく」勇樹が微笑む。「今度、何かあったらすぐに連絡して」胸の奥が温かくなり、香子は小さく頷いた。「……はい」その頃、鷹宮家では。久恵が一睡もできないまま、リ
last updateLast Updated : 2026-09-15
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これからは自分で

「おじいさんたちは、久恵さんを警戒していたんだ」「お義母様を……?」香子は驚いて勇樹を見た。「昔から、あまり信用していなかったみたいだね。財産にも触れさせないようにしていた」「そんなこと、知りませんでした……」「香子のお父さんが亡くなってからは、もっと慎重になったみたいだ」「それで……私に?」「ああ。今も十億円は、ちゃんと香子のために残ってる」香子は俯いた。久恵は、そのことをずっと香子に隠していた。それなのに、美紗は知っていた。『あんたさえいなくなれば、全部、私のものになるのよ』昨夜の言葉が蘇る。祖父母が久恵を警戒していた。昨日までなら、その理由を香子は理解できなかったかもしれない。けれど今は違う。自分に残された十億円の存在を知らされないまま、美紗からはその財産のために殺されかけたのだ。香子は膝の上で、そっと手を握った。「香子」勇樹の声に顔を上げる。「これから、どうしたい?」「……え?」思いがけないことを聞かれ、香子は瞬きをした。「どう、とは……」「どこで暮らしたいとか、何をしたいとか。何でもいいよ」「……」香子は答えられなかった。そんなことを聞かれたのは初めてだった。これまで、自分が何をしたいかを考えることなどほとんどなかった。「分かりません……」ようやく、それだけを口にする。勇樹は困った顔をするでもなく、穏やかに頷いた。「だったら、これから考えればいい」「これから……?」「ああ。急いで決めなくてもいいよ
last updateLast Updated : 2026-09-15
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帰宅

鷹宮家の前に車が停まった。見慣れた家を前にした途端、香子の身体が強張る。昨日まで暮らしていた場所なのに、今は玄関へ向かうことさえ怖かった。「香子」隣から勇樹の声がする。「無理そうなら、今日はやめてもいいよ」香子は首を横に振った。「大丈夫です」怖い。けれど、母の遺品をあの家に残したままにはしたくなかった。車を降りると、勇樹も続いた。玄関の前まで来たところで、香子は一度だけ深く息を吸う。そして、扉を開けた。「ただいま戻りました」「香子!?」真っ先に聞こえてきたのは久恵の声だった。足音を響かせてやってきた久恵は、香子を見るなり険しい顔になる。「あなた、今までどこに――」そこで言葉が止まった。香子の後ろから、勇樹が入ってきたからだ。「昨日はどうも」「来栖……さん……」久恵の顔が引きつる。その声を聞きつけたのか、美紗も姿を現した。「お母さん、どうし――」美紗も固まった。その視線が勇樹へ向き、次いで香子へ移る。昨日とはまるで違う姿。整えられた髪に、新しい服。そして隣にいるのは、世界中に名を知られた来栖勇樹。「……何なの、その格好」美紗の声が低くなる。香子は答えなかった。「昨日まであんなボロボロだったくせに。まさか来栖さんに買ってもらったの?」「美紗」久恵が制止する。けれど美紗は止まらなかった。「どうやって取り入ったのよ」香子の肩がわずかに揺れる。昨日までなら、黙って俯いていただろう。だが、勇樹が隣にいる。それだけで、どうにか顔を上げていられた。
last updateLast Updated : 2026-09-15
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何もない部屋

「残念だったね、お姉さま」美紗は楽しそうに笑った。「だって、あんなもの――もう全部、捨てちゃったもの」「……え?」香子は耳を疑った。「今、なんて……」「聞こえなかった? 捨てたって言ったの」美紗は何でもないことのように答える。「嘘……」そんなはずはない。香子は美紗の横を通り過ぎ、急いで階段を上った。「香子!」勇樹もすぐにあとを追う。母の遺品を保管していた部屋へたどり着き、香子は震える手で扉を開けた。「……」何もなかった。いつも写真を置いていた棚。母が愛用していた小物をしまっていた箱。アクセサリー。本。母の面影を残すものが、何一つない。がらんとした部屋だけが残されていた。「そんな……」香子は部屋へ入った。空になった棚を開き、引き出しを確かめる。何もない。「お母様の写真……」どこにもない。「ネックレスも……本も……」一つずつ確かめるたび、本当にすべて失われたのだと分かっていく。「どうして……」香子の膝から力が抜けた。その場に崩れ落ちる。「どうして、こんなこと……」涙が溢れた。母はもういない。声を聞くことも、抱きしめてもらうこともできない。だからこそ、残されたものだけは大切にしてきた。それさえも、もうない。「お母様……」香子は顔を覆った
last updateLast Updated : 2026-09-15
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汚れても

「香子のお母さんのものを、いつ捨てたんですか?」勇樹の問いに、美紗は面倒そうに顔をしかめた。「さっきよ」「……さっき?」泣いていた香子が顔を上げる。美紗は悪びれる様子もなく笑った。「お姉さま、帰ってきたら絶対あれを取りに来ると思ったから」「そんな……」「だから先に捨ててあげたの。もう回収されたんじゃない?」美紗は楽しそうに香子を見下ろした。「残念だったね」その瞬間、勇樹が立ち上がった。「香子、行こう」「え……?」「さっきなら、まだ間に合う」迷っている時間はなかった。勇樹はすぐにゴミの回収先を確認し、香子を連れて車へ乗り込んだ。「勇樹お兄ちゃん、本当に見つかるのでしょうか……」「見つけるよ」勇樹は迷いなく答えた。「大切なものなんでしょう?」「……はい」「だったら、諦めるのはまだ早い」その言葉に、香子は涙を拭った。やがて、回収を終えた車を見つけることができた。事情を説明し、回収されたゴミを確認させてもらう。大量の袋を前に、香子は立ち尽くした。この中から探すのは簡単ではない。それでも、勇樹は迷わなかった。上着を脱ぎ、袖をまくる。「俺も探すよ」「そんな!」香子は慌てて止めた。「勇樹お兄ちゃんがするようなことではありません」「どうして?」「だって……」世界的なスターが、ゴミの中から自分の母の遺品を探そうとしている。「服も汚れてしまいますし……」勇樹は一瞬目を丸くしたあと、ふっと笑っ
last updateLast Updated : 2026-09-16
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もう帰らない

「勇樹お兄ちゃん……」香子は勇樹の胸へ飛び込んだ。「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」「香子……」勇樹は驚いたようだった。けれどすぐに、その腕が香子の背中へ回る。「見つかってよかった」優しい声を聞いた途端、また涙が溢れた。母の遺品を捨てられたと知ったときは、すべてを失ったと思った。けれど勇樹は諦めなかった。世界中に顔を知られている人なのに、汚れることも気にせず、一緒に探してくれた。「ごめんなさい。勇樹お兄ちゃんまで、こんなに汚れて……」「またそれ?」勇樹が笑った。「でも……」「昨日も言ったでしょう。服なんてどうでもいいって」そう言って笑う勇樹のシャツには、いくつもの汚れがついている。香子は胸がいっぱいになった。こんなふうに自分のために何かをしてくれる人がいる。それがまだ、信じられないほど嬉しかった。「それより、そろそろ離れてもらわないと困るかな」「え?」「俺も男だからね」言われて初めて、自分が勇樹へ抱きついたままだと気づいた。「……!」香子は慌てて離れた。「も、申し訳ありません!」「謝らなくていいよ」勇樹は楽しそうに笑っている。香子は熱くなった頬を隠すように俯いた。しばらくして、二人は車へ戻った。香子の膝には、取り戻した遺品が入った箱がある。「家に戻って、ほかの荷物も取ってくる?」勇樹に尋ねられ、香子は黙った。服もある。身の回りのものも残っている。けれど――。美紗
last updateLast Updated : 2026-09-16
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新しい場所

「十億円はどうなると思っているの?」久恵の言葉に、美紗は眉を寄せた。「どうなるって……私たちのものになるんでしょ?」「今のままでは無理よ」「じゃあ、どうするの?」久恵は答えなかった。香子のそばには、来栖勇樹がいる。昨日までなら、何を言っても香子は逆らわなかった。だが、これからも同じようにいくとは限らない。「とにかく、余計なことはしないで」「何よ、それ」「いいから。今度は私の言うとおりにしなさい」久恵は苛立ったように言い残し、美紗の前から立ち去った。一方、香子は勇樹の車に揺られていた。膝の上には、取り戻した母の遺品がある。もうあの家には戻らない。そう決めたことに後悔はなかった。ただ――。「……あの」「どうしたの?」「私、これからどこへ行けばいいのでしょうか」勇樹が目を瞬いた。「決めてなかったの?」「はい……」香子は恥ずかしそうに俯いた。家を出ると決めるだけで精いっぱいだった。ホテルへ戻るにしても、いつまでも泊まり続けるわけにはいかない。「でしたら、どこか部屋を探さなくては……」「それなら、うちに来る?」あまりにも自然に言われ、香子は顔を上げた。「勇樹お兄ちゃんのお家に、ですか?」「ああ」「そんな、ご迷惑です」「迷惑なら誘わないよ」勇樹は穏やかに笑った。「部屋なら余ってる。落ち着いてから、これからのことを考えればいい」「でも……」また断ろうとして、香子は口を閉じた。――今は、俺を頼って。先ほど言われた言葉を思い出したからだ。
last updateLast Updated : 2026-09-16
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世界的スター

「撮影現場……ですか?」香子は驚いて勇樹を見た。「ああ。一人でいるより安心だから」「でも、私がお邪魔したらご迷惑では……」「大丈夫。邪魔にならない場所を用意してもらうよ」翌朝。香子は勇樹とともに撮影スタジオを訪れた。車を降りた瞬間から、昨日までとは空気が違った。「来栖さん、おはようございます!」「おはようございます!」勇樹が歩くだけで、スタッフたちが次々と頭を下げる。「おはようございます。今日もよろしくお願いします」勇樹は一人ひとりに笑顔で挨拶を返していた。その姿を少し後ろから見つめながら、香子は改めて思う。――本当に、世界的なスターなんだ。昨夜は同じ家で過ごし、昔のように「勇樹お兄ちゃん」と呼んでいた。けれど、ここにいる勇樹はまるで別人に見えた。「来栖さん、こちらへお願いします」スタッフに呼ばれ、勇樹が振り返る。「香子、少し行ってくるね」「はい」勇樹が離れていく。香子は用意された椅子へ腰を下ろした。やがて撮影が始まった。カメラの前に立った勇樹を見て、香子は息を呑む。表情も、声も、立ち姿さえ変わっていた。先ほどまで優しく笑っていた勇樹お兄ちゃんではない。そこにいるのは、何百万人もの人を魅了する俳優、来栖勇樹だった。「カット! 完璧です!」監督の声が響き、周囲から拍手が起こる。香子も思わず小さく手を叩いた。「すごい……」幼い頃、一緒に遊んでくれた人。昨日、自分と一緒にゴミの中を探してくれた人。その人が、こんなにも遠い世界にいる。急に、自分が場違いに思えてきた。「香子?」気づけば、撮影を終えた勇樹が目
last updateLast Updated : 2026-09-16
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大切な人

「その子――誰?」女性は香子を見つめた。近くで見ると、香子にも分かった。何本もの映画やドラマで主演している人気女優だ。「もしかして……西園寺玲奈さん?」思わず名前を口にすると、玲奈はにこりと笑った。「知ってくれてるんだ。ありがとう」そして再び、勇樹を見る。「それで? 紹介してくれないの?」「ああ。鷹宮香子」勇樹はそう言うと、香子の隣に立った。「俺の大切な人だよ」「え……?」香子は思わず勇樹を見上げた。大切な人。その言葉だけで、胸が大きく鳴る。玲奈も驚いたように目を見開いた。「勇樹がそんな紹介するなんて珍しい」「そう?」「そうよ。私、初めて聞いたかも」玲奈の視線が香子へ戻る。敵意があるわけではない。けれど、興味深そうに見つめられ、香子は落ち着かなくなった。「あの、私は……昔から勇樹お兄ちゃんにお世話になっていて……」「勇樹お兄ちゃん?」玲奈が目を丸くした。「へえ。そういう関係なんだ」「子供の頃から知ってるんだ」勇樹が答える。「ずっと会えてなかったけど、ようやく再会できた」その声があまりにも嬉しそうで、香子はまた胸の奥がくすぐったくなった。「なるほどね」玲奈は何か納得したように頷いた。そのとき、スタッフから声がかかる。「西園寺さん、来栖さん、次のシーンお願いします!」「はーい」玲奈が返事をする。「じゃあ、またあとでね、香子ちゃん」「あ、はい」玲奈は勇樹と並んでセットへ向かった。香子は二人の後ろ姿を見送る。並んで
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