沙綾は福祉振興会に戻ると、現在手がけているプロジェクトをきちんと引き継ぎ、できるだけ早く退任したいと理事たちに申し出た。福祉振興会の理事会は、早急に後任候補を選出し、沙綾の退任を承認すると決定した。「沙綾さん、書留が届いています。押印をお願いします」有栖がオフィスのドアをノックして知らせてきた。「明日の小学校の起工式の件、進捗を確認しておいて」沙綾は有栖にそう指示し、配達員からペンを受け取った。伝票の送り主欄には「氷室グループ」と書かれている。思わず振り返って窓の外を見た。林立する高層ビルの向こうに、氷室グループの本社ビルの最上階がかすかに見える気がした。視線を戻して受領印を押し、包みを開けてみると、中には赤いハイヒールが入っていた。昨夜、逃げ出した時に脱げてしまったものだ。きれいに磨き上げられ、丁寧にお手入れまでされているようだった。陣に電話をかけてお礼を言おうと思った。だが、そもそも陣の連絡先を知らないことに気がついた。夜になり、沙綾は自宅へ戻った。和之は、付き添いの介護士と自分がいれば大丈夫だと言ってくれた。それでも、昨夜の遠藤夫婦の行動を思い出すと、やはり安心できなかった。シャワーを浴びて着替えた後、ノートパソコンを持ち、車を走らせて病院へ向かった。地下駐車場から病棟へ向かって歩いていると、どうもいつもと様子が違う気がしてならない。「今日はなんだか警備員が多くない?監視カメラもあちこちに増えてるし」「昨日の夜、若い女の人が病院で変な男に襲われかけたらしいよ。それで病院側がすぐに対応して、警備を強化したんだって」「えっ、対応早すぎない?まだ半日しか経ってないのに。仕事早すぎるでしょ」すれ違った人々の会話を耳にし、沙綾は思わず心の中で病院の対応の早さに拍手を送り、VIP病室へ向かった。「氷室さん、服を返しに来ました」沙綾は、病室の中から話し声が聞こえることに気づいた。だが、ノックしても返事がない。そこで半開きになっていたドアを押し開け、中へ足を踏み入れた。すると、休憩室のソファに陣が座り、モニター画面を食い入るように見つめていた。画面に映っていたのは、今日の午後に行われた修治の講演の映像だった。その瞬間、沙綾の視線も画面に釘付けになり、嬉しさのあま
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