「綺麗……前にここへ来たのは、ずいぶん昔のことだわ」沙綾は思わず感慨に耽った。前に来た時は、時彦と一緒だった。あの冷酷で端正な顔が脳裏に浮かび、慌てて視線を逸らす。足首から温もりが離れたことに気づき、振り返って陣を見た。「ありがとうございます」陣は一言も発さず、車を降りた。礼司がミネラルウォーターの箱を運び出し、陣の手を洗うために水をかけた。それを見て、沙綾も申し訳なさそうに車を降りた。不思議なことに、足首の痛みはすっかり消え、ほんの少し違和感が残るだけになっていた。そこで自ら歩み寄り、進んで陣の手に水をかけた。高慢で冷淡な人だが、確かに何度か助けられている。片付けを終えて車に戻った後、礼司が尋ねた。「沙綾さん、どちらへお送りしましょうか」もう病院へ行く必要はない。「朧月レジデンスへお願いします」礼司が驚いたように言った。「えっ、沙綾さんもそこにお住まいなんですか?」もしかして、彼も同じマンションに住んでいるのだろうか。まさか。「何階ですか?うちの社長もそこに住んでいるんですよ」沙綾は途端に嫌な予感がした。「1202室です」「偶然ですね。社長は1201室です」礼司の言葉に、沙綾は一瞬言葉を失った。隣に座る陣から、明らかに不機嫌なオーラが放たれたのを感じた。以前は意図的に近づいたと疑われたが、今度はストーカー扱いされるのではないか?横目で陣の漆黒の瞳と視線がぶつかった。そこには微かに危険な香りが漂っている。しかし、彼が何も聞いてこない以上、どう説明していいかも分からない。いや、やっぱり説明するのはやめよう。あと二十三日もすれば出国する。どうせ彼とはもう関わることもないのだ。三人は一緒に十二階でエレベーターを降りた。沙綾は1202室に入った。陣はその場に立ち止まり、1202室のドアをじっと見つめていた。その横で、礼司が1201室のドアを開けた。---その頃、高橋本邸の使用人部屋。有希子が冷笑した。「時彦に助けてもらうって?愚かね。あの子があんたを保釈するのは、あんたの脚をへし折るためよ」ベッドの上で、翔平は四肢に白い包帯を巻かれ、まるで生きる屍のような姿だった。恐怖に見開かれた目で、汚い言葉を吐き捨てる。「あの野郎、親切心からだと思って
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