朱里の瞳に後ろめたさが一瞬よぎった。彼女は演壇から降りると、時彦の腕にすがりつき、いかにも哀れみを誘うような態度を作った。「時彦、あの女は私を陥れようとしてるの。私がお姉ちゃんにそんなことするわけないじゃない」沙綾は男の冷酷な視線と真っ向からぶつかった。頭の切れる彼のことだ、あの親子を裏で手引きしたのが自分であることなど、とうに見抜いているだろう。だが、知られたところでどうということもない。昨日の午後、沙綾はあの親子を説得するために話し合いをしたのだ。あの親子とて沙綾にそこまでの恨みがあるわけではないのだから、わざわざ彼女の退職を脅迫のネタにして、補償金をふいにするわけがない。粘り強く問い詰めた末、母親の口からようやく真実を聞き出した。あの親子に接触してきたのは朱里だったのだ。沙綾はその企みを逆手にとり、朱里が福祉振興会に入り込む道を断ち切った。自分が捨てたものを誰が拾おうと構わないが、朱里だけは絶対に許さない。時彦は視線を外し、朱里の手にそっと触れてなだめた。「この二人を連れ出せ」警備員がすぐさま駆けつけ、親子を引きずり出した。二人がどれだけ抵抗しても無駄だった。だが、沙綾が求めていた効果はすでに十分に発揮されていた。議長は不快げに朱里を一瞥した。時彦の手前、露骨に怒りをあらわにすることはなかったが、その態度はすでに冷え切っていた。「それでは、投票を始めましょう」この騒ぎの直後とあって、朱里のスピーチ中、役員たちは皆一様に険しい顔をしていた。今日ばかりは時彦が後ろ盾として付き添っていても、誰一人として忖度しようとはしなかった。候補者のスピーチが終わり、議長が声をかけた。「それでは、投票を開始します」沙綾が手を挙げると、役員のほぼ半数がそれに続き、副会長に票を投じた。「ちょっと待って、お姉ちゃんに投票する資格なんてあるの?」朱里が納得いかない様子で声を荒らげた。議長は眉をひそめた。「奥様は前会長として、次期会長を選出する権利を当然お持ちです。それどころか、二票の投票権を有していらっしゃいます」「解任されたのに、どうしてそんな資格があるのよ?」朱里はふんぞり返って尋ねた。「奥様が解任されたなど誰が言いましたか?」議長は怪訝そうな顔をした。「今日の選挙は、奥様が別の道へ進まれるために自ら
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