All Chapters of 前世で私を壊した夫から、二度目の人生では逃げ切りたい ~冷徹な復讐者は私を二度と離さない~: Chapter 11 - Chapter 20

105 Chapters

第十一話 イライラ

 翌朝。瑠理子は自室で目覚めた。もう二度と淳に関わらないでおこうと思う反面、自分が突っぱねることによって、彼の行き場がなくなるのではないかと心配している自分もいた。 矛盾した感情が彼女の思考をおかしくさせる。 昨日、父の部屋での続きを思い出した。御堂直之との見合いの了承後、茶を持ってきた淳が出て行ってからの話だ。 「あの子の父親は、財務担当役員だったのだ。二十年前、うちが銀行に見放されかけたとき、たった一人で全国の取引先を回って頭を下げ続けた。あの人がいなければ、海原グループはとっくに消えていた」 知っている。 瑠理子は前世で何度もその話を父から聞いていた。  しかしまるで初めて聞いたようにふるまわなければならない。「その恩人の忘れ形見が、事故で両親を亡くして、身寄りをなくした。二郎が方々を当たって、あの子の居場所をようやく突き止めてくれたんだ。うちが引き取らなければ、あの子はどこへ行く」「……お父様」「瑠理子。海原の人間は、恩を返せなくなったら終わりだ」 瑠理子は膝の上で指を組み直した。淳を追い出すことは難しそうだが、彼が路頭に迷うのも気が引けた。  今はまだ、彼は自分を殺していない。  これからそうするのかもしれないが、そうなる前に手を討てばいい。  今世では関わらないように生きれば、いいのではないか。 「わかりました。では、条件を出させてください」  父が初めて振り返った。娘の顔に見慣れない硬さを見つけて、わずかに眉を寄せる。「彼の部屋は、母屋ではなく使用人棟にしてください。それから、会社の書類がある部屋には近づけないこと。役員の集まりにも同席させないこと。海原グループに入社などは認めません」「……瑠理子、お前」「恩を返すというのは、住まいと学費を用意することでしょう。海原グループとは関りを持って欲しくありません」 言い終えてから、瑠理子は自分の声が思ったより冷たく響いたことに気づいた。  長い沈黙のあと、父
last updateLast Updated : 2026-09-14
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第十二話 前世の記憶

(なにを考えているの……) まだ愛してる? この男を? 父を、母を、自分を追い詰め、壊したこの男を愛してる?――冗談じゃない!!  「……お嬢様?」 気づけば、淳が不思議そうに瑠理子の顔を覗き込んでいた。「さっきから、どうされたのですか?」「なんでもない」「でも、顔色が……」「なんでもないって言ってるでしょう!」 思ったより強い声が出たので、淳が口を閉ざす。 またやってしまった。この人は何もしていないのに。 目の前にいるのは自分を閉じ込めた淳でも、父から会社を奪った淳でもない。 ただ昨日、両親を亡くしてこの家へやって来たばかりの二十一歳の青年なのに。 それなのに顔を見るだけで、好きだった記憶と憎んでいる記憶が一緒に押し寄せてくる。「……申しわけございません」 先に謝ったのは淳だった。瑠理子は思わず顔を上げた。「どうしてあなたが謝るのよ」「怒らせたみたいなので」「別に、あなたに怒ったわけじゃ……」  だったら誰に怒っているのだろう。 淳を嫌いになれない自分に? もう一度彼の笑顔を見て嬉しいと思ってしまった自分に? あんな最後を迎えたというのに、まだ心のどこかでこの男を求めている自分に?「とにかく」瑠理子は淳から目を逸らした。「ここにいられることになったんでしょう。だったら、それでいいじゃない」「はい」 淳が少し笑った。「昨
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第十三話 あなたを愛さないために

 「……何もしてないわ」  瑠理子はようやく答えた。  今のあなたは、まだ、何もしていない。 「でしたら――」  淳が少しだけ表情を緩める。「これから、普通に話すくらいはしてもらえませんか」  胸が痛んだ。 そんなことを言わないでほしい。 普通に話して。 普通に笑って。 少しずつまたこの人を知れば。  そうしたらきっと、あなたをまた好きになってしまう。 あなたが笑うだけで、前世の記憶は偽物で、なにか誤解があって、気が変わってしまっただけなんじゃないかと、甘いことを考えてしまう。 あれだけのことをされてもまだ、あなたのことは嫌いになれないし、忘れられない自分が嫌になる。「……無理よ」  瑠理子は目を逸らした。 「どうしてです?」「無理なものは無理なの」  少し強く言うと、淳はそれ以上聞かなかった。 「……わかりました」  その返事が妙に寂しく聞こえた。 瑠理子は胸の奥が苦しくなるのを感じながら、部屋に入った。  これでいい。 嫌われていい。 距離を置かなければいけない。 また過ちを犯したくない。 それに、淳に殺人犯になって欲しくない。 海原と関わらなければ、誤解があって恨む
last updateLast Updated : 2026-09-15
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第十四話 見合いに行かないでください!

  「……ありがとう」  瑠理子はそれだけ言うのが精いっぱいだった。  淳に見られたくない。嬉しくない。早くどこかへ行って欲しいのに、彼はじっと自分を見つめたまま動かない。 「お出かけですか?」 「ええ」 「……どちらへ?」  声が、ほんの少し低くなった。 「今日はお見合いなの」 「今日……ですか」 「十時に迎えが来るの」 「……」  淳が黙った。  昨日から何度も見ている顔だった。御堂直之の名前が出るたび、淳は決まって少しだけ黙り込む。 「何か?」 「いえ」 「さっきから変よ」 「俺がですか?」 「そう」  淳は答えられなかった。自分でもわからない感情が渦巻いている。   瑠理子が誰と会おうと関係ない。昨日出会ったばかりの少女だ。  それだけのはずなのに、今朝の彼女は、目を逸らすことが難しいほど綺麗だった。  淡い色のワンピースは華美ではないのに、細い腰とすらりとした身体の線を上品に引き立てている。丁寧に巻かれた艶のある黒髪が肩先で柔らかく揺れ、小ぶりな真珠のイヤリングが、白い首筋のそばで控えめに光っていた。  化粧も濃くないのに、長い睫毛に縁取られた大きな瞳と、薄く紅を引いた唇が、普段より少
last updateLast Updated : 2026-09-16
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第十五話 私のことが好きなの?

『行かないでください!』 まさか、淳からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。 前世で聞きたかった。 淳は瑠理子にヤキモチを焼くこともなく、ただただ、大事に大事にしてくれたが、最後には別荘に閉じこめたしまった。 好きだと囁いた言葉は、海原家を――父を破滅させるためだけに紡がれた言葉だったと知った。 それなのに。出会ってまもない今、行かないでくれと言うのだ?「どうして?」  無言を貫く淳に問うが、彼は答えられなかった。 淳自身でも説明のつかない感情。  ただ、このまま瑠理子が御堂直之のもとへ行ってしまうことが、どうしようもなく嫌だった。 「御堂さんのことを何も知らないから心配なんです」「それだけ?」「……」「本当に、それだけ?」  瑠理子が一歩近づいた。 淳が息を呑む。  近い。   香水なのか、髪からなのか、柔らかな香りがした。   このまま腕を引いて、どこにも行かせたくない。 他の男の前になど出したくない。   そんな衝動が湧き上がって、淳自身が戸惑った。 「淳」  瑠理子はまっすぐ彼を見る。「私のことが好きなの?」 「……!」  淳の瞳が揺れた。 その瞬間、瑠理子の胸の奥に十年前の光景が蘇った。 『一度でも……私を愛したこと
last updateLast Updated : 2026-09-16
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第十八話 噂の御堂直之との見合い

 御堂家の車は、都内にある会員制ホテルの前で静かに停まった。車を降りた瑠理子は、一度だけ小さく息を吐く。 大丈夫。今日、ここへ来た理由を忘れてはいけない。 御堂直之との縁談を進める。淳ではない人を選ぶ。 そうして、前世とは違う未来を作るのだ。『……行かないでください』 それなのに、また淳の声が頭に浮かんだ。「……もう」 淳のことは忘れよう。 瑠理子は小さく呟いて、その声を振り払うようにホテルへ入った。 案内されたのは、最上階のラウンジに設けられた個室だった。大きな窓から街が見渡せる。上品だが華美ではない調度品――テーブルには、すでに茶器が用意されていた。「こちらで少々お待ちくださいませ」「ありがとう」 瑠理子が席に着いて間もなく、扉が開いた。「お待たせしました」 低く落ち着いた声がしたので、瑠理子は立ち上がった。 入ってきた男性を見て僅かに目を見開く。 御堂直之、二十九歳。 写真では見ていた。けれど実際に会うと、随分印象が違う。 背が高く、濃紺のスーツを隙なく着こなしている。 整った顔立ちではあるが、華やかというより端正という言葉が似合った。 視線も、立ち居振る舞いも落ち着いている。大人の男性だ。「海原瑠理子さんですね」「はい。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」 瑠理子は頭を下げた。「御堂直之です。こ
last updateLast Updated : 2026-09-18
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第十九話 直之の答え

「そんなことは……」 否定したかった。でも、すぐにうまく言葉が出なかった。 直之はそれ以上追及しない。「答えたくなければ構いません」「……すみません」「謝ることでもないでしょう」 直之は紅茶へ手を伸ばした。「僕にも事情がありますから」「事情?」「僕は結婚にあまり夢を持っていません」 その言葉で、先ほど百合絵から聞いた話を思い出した。「そういえば……御堂さんは、これまでたくさんの縁談を断られてきたそうですね」「誰から聞きました?」「……百合絵お姉様です」 直之の目が僅かに動く。「海原百合絵?」「はい。今日こちらへ来る前に、偶然会ったんです。彼女は私の従姉になります」「そうですか」 反応は、それだけだった。瑠理子は少し拍子抜けした。「百合絵お姉様とは、幼馴染なんですよね?」「ええ。子どもの頃から知っています」「家族ぐるみでお付き合いがあるとか」「それも本当です。最近は交流もなくなりましたから、暫く会ってはいませんが」 やはり百合絵の話に嘘はないらしい。 ただ、直之の口調からは、懐かしさも特別な感情も感じられなかった。 しかも会っていないと言う。 百合絵と彼の温度差が気になった。「あの……」「何です?」「失礼でし
last updateLast Updated : 2026-09-18
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第二十話 淳の嫉妬

 屋敷へ戻ったのは、午後三時を少し過ぎた頃だった。車が玄関前に停まる。 運転手に扉を開けてもらい、瑠理子が外へ降りると玄関脇に人影が見えた。 その影は、淳だった。 大学帰りなのだろう。片手には鞄と数冊の本を抱えている。 瑠理子に気づくと、彼は一瞬だけ目を見開いた。「おかえりなさい」「……ただいま」 朝と同じ場所。朝と同じ二人。 けれど、もう違う。 瑠理子にとっては同じではなかった。『もし、あなたさえよければ。この縁談を進めませんか』 直之の言葉を思い出す。 未来は変わった。自分で変えた。 そう思うのに、目の前の淳を見ると胸が少しだけ苦しくなる。「大学はどうしたの?」「もう終わりました」「そう」 会話が途切れるが、次の言葉が見つからない。 本当は、瑠理子の見合いがどうなったのか、知りたくてたまらない。 聞きたい。知りたい。 あの男はどんな男だったのか。 何を話し、瑠理子は笑ったのか。 自分に向けたことのない顔で、あの男に笑ったのか。 聞きたいことはいくらでもある。 なのに。「……どうでした?」 口から出たのは、それだけだった。瑠理子は淳を見る。「何が?」「お見合いです」 やはり気にしてくれている――そう思うと胸の奥が僅かに浮き立つ。 そんな自分が嫌で、瑠理子はわざと淡々と答えた。「とても素敵な方だったわ」「……そうですか」「ええ」「どんな方でした?」「落ち着いていて、話しやすかった」「……」「噂で聞いていたより、ずっと優しい方だったわ」 言う必要なんてなかったのに、朝、自分を引き止めておきながら、そしらぬ顔をした淳の気を引きたくて、わざとそう言った。 そうすれば、ほんの少しくらい自分に興味を引いてくれるのではないか――そんな風に思ってしまった。 しかし淳は黙っている。どう答えていいのかわからないのだろう。 瑠理子は心の中で自分の失態を嘲笑った。 なにをしているのだ、と。 淳を忘れるため、未来を変えるために別の男と縁談を進めているのに、淳に嫉妬して欲しいなどと、意味不明な状況を作り、勝手に舞い上がり、勝手に傷ついて――まるで道化だ。「縁談を進めることになったの。御堂さんから、そう言ってくださったわ」「御堂さんから……?」「ええ」「向こうから?」「そうよ」 淳は無表情になり
last updateLast Updated : 2026-09-19
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