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第3話

Author: 瑞木結花
「慎也さん、そのブレスレット、どこで拾ったんですか?もう一時間以上も睨めっこしてますけど、もしかして彼女のですか?」

個室にいるのは、どら息子ばかりだ。

外に出れば誰も手出しできないような連中だが、今は全員で慎也を取り囲み、面白半分に囃し立てていた。

慎也は口を開いた男を軽く蹴り飛ばし、タバコをくわえたまま笑って罵った。「何が彼女だ、ふざけたこと言ってんじゃねえよ。あいつはまだ離婚してねえんだ、俺はせいぜい愛人ってとこだな」

藤堂一輝(とうどう かずき)は慎也と一番親しい仲だった。腕に抱いた女の腰を撫でながら、ニヤニヤと茶化した。「慎也が真剣になれば恋愛ってことで、俺らがやればただの不倫ってか?」

皆が一斉に吹き出した。

緑色に髪を染めた別の男が言った。「慎也さんが愛人なわけないっすよ。愛されない方が愛人って言うじゃないすか」

慎也はタバコの煙を深く吸い込んだ。

「なら、俺は愛人じゃねえな」

「でしょ、慎也さんなら遅かれ早かれ本命に……」

「俺はせいぜい都合のいい道具ってとこだ」

「……」

慎也は周囲を見回し、鼻で笑った。

「どうした、だんまりか?さっきまではよく喋ってたじゃねえか」

冗談を言っているように見えるが、付き合いの長い者なら、今の慎也が苛立っていることなど一目で分かった。

明らかに、あの「女」についてとやかく言われるのが気に入らないのだ。

気まずい空気が流れる中、慎也のスマートフォンが鳴った。

画面に表示された番号を見て、慎也は舌打ちをした。苛立っているように見えて、その途切れた眉は嬉しげにピクリと跳ね上がった。まるで、凶暴な狂犬が機嫌を直したかのようだ。

電話に出ると、わざとらしいほど声を低くした。

「どちら様で?」

周囲の者たちは一瞬で口をつぐみ、音楽さえも止まった。

一輝は危うく酒を吹き出しそうになった。

なんだ、この気取った態度は?

一輝は慎也と幼い頃から一緒に育ってきたが、慎也がこれほど低く、わざとらしい声で話すのを聞いたことなど一度もない。

しかも「どちら様で?」だと?

まさに狂犬が人間の皮を被り、いっぱしに紳士のフリをしているようなものだ。

相手が何を言ったのかは分からないが、慎也は電話を切ると、立ち上がってそのまま部屋を出ようとした。

一輝が呼び止める。「もう飲まないのか?」

慎也は振り返りもせず、ひらひらと手を振った。

---

結月がホテルの外で三十分以上待っていると、ようやく慎也の黒いカリナンが現れた。

慎也が車から降りて、スマートフォンを取り出した。

次の瞬間、結月のポケットの中でスマートフォンが鳴った。

着信音を聞きつけ、慎也がこちらへ視線を向けた。そして、大股で迷わず歩み寄ってきた。

慎也の体からは、冷たい香水とタバコが混ざり合った独特の香りが漂い、一瞬にして結月を包み込んだ。

その香りが、どうしてもあの夜の乱れた光景を呼び覚まし、結月は少し息苦しくなった。

黒いシャツの袖をまくり上げた慎也の腕は、逞しく引き締まっていた。

皮膚の下には青筋がはっきりと浮き出ている。結月の腰を強く掴んだとき、その青筋はさらにくっきりと浮かび上がり、火のように熱く、恐ろしいほどの力強さを放っていた。

まるで、いとも簡単に結月の腰を折ってしまいそうなほどに。

結月は無意識に一歩後ずさり、体をさらに深い影の中へと隠した。

そして、色白の手だけをすっと前に出し、ほんのり赤みを帯びた掌を広げた。

「ブレスレット」

慎也は伏し目がちにその手を見つめ、噛みつきたい衝動をぐっと抑え込みながら、上半身を少しだけ前へと傾けた。

「仲間を放り出して、わざわざ遠くから車を飛ばしてきてやったのに、その態度はなんだ?」

言葉とともに、慎也の熱い息が結月の掌をかすめ、結月はたまらず指先を丸めた。

ほんの一瞬だが、慎也がその掌に顎を乗せてくるのではないかと錯覚したほどだ。

結月は深呼吸をして、少しだけ声のトーンを和らげた。

「ありがとう。ブレスレットを返して」

慎也はさらに距離を詰めてきた。

「喉、どうした?」

あまりにも近すぎる距離に結月は驚き、慌ててさらに二歩後ずさる。ちょうど後ろにあった街灯の下へと出た。

首元に残る首を絞められたような痕は、すでに赤黒い痣へと変わり、見るも痛々しい状態だった。

慎也は目を細め、喉仏を上下させた。

そして、ひどく静かな声で尋ねた。「涼介にやられたのか?」

結月は眉をひそめ、嫌悪感を隠そうともせずに言った。「あんたには関係ないでしょ。ブレスレット、渡してくれない?」

「嫌だね」

「あんた……っ」

結月が腹を立てて睨みつけた次の瞬間、慎也に力強く腰を抱き寄せられ、そのまま肩に担ぎ上げられてしまった。

慎也がカリナンへと歩き出すのを見て、結月は怒りに任せて暴れ、その背中を何度も叩いた。

「慎也!何するの?降ろして!」

慎也は結月の尻をピシャリと叩いた。

「大人しくしろ」

結月の顔が一気に真っ赤に染まった。

あまりの怒りからだ!

慎也が車のドアを開け、結月を助手席へと放り込んだ次の瞬間、慎也の頬に平手打ちが飛んだ。

慎也の目が、一瞬にして恐ろしい色を帯びた。

結月は叩いた直後に後悔したが、先手を打つことにした。

「あ、あんたが先に手を出したんでしょ」

慎也は舌で頬の内側を突き、手を振り上げた……

結月は思わず目をギュッとつぶった。

覚悟していた痛みは降ってこず、代わりにカチャッという音が耳に届いた。

シートベルトが締められる音だ。

耳元で、からかうような低い笑い声が聞こえた。

「なんだ、ぶたれるとでも思ったか?俺は涼介とは違うぞ」

結月が驚いて目を開けると、すぐ目の前にある慎也の顔に息を呑んだ。

あまりにも近すぎたからだ。

慎也の途切れた眉にある傷跡の形まで、はっきりと見えるほどの距離だ。

慎也の体から発せられる熱気すら、生々しく伝わってきた。

結月は奥歯を強く噛み締め、一瞬にして顔面から血の気が引いた。

吐き気がした。

慌てて顔を背け、ほとんど歯を食いしばるようにして言った。「少し……離れてくれない?」

慎也は眉をひそめた。

「お前、俺のことがそんなに怖いのか?」

結月は確かに慎也を恐れていた。

単に、手当たり次第に噛みつく狂犬だからという理由だけではない。

込み上げてくる恨みと怒りを無理やり飲み込み、結月は冷たい視線を向けた。

「あんたさ、私を見るときの目がいつも気持ち悪いって自覚ある?」

慎也の動きがピタリと止まった。

結月とて、わざわざ相手を怒らせたいわけではない。だが、こんな狭く密閉された空間で二人きりでいることの方が、よほど耐えられなかった。

一度口をついて出た言葉は、まるで堰を切ったように次から次へと溢れ出した。

露骨な嫌悪感を滲ませながら、結月は言葉を続けた。「私と寝たいんでしょ?初めて会った時からずっと、あんたは舐めるような目で私のことを見てた」

涼介と慎也は幼なじみで、大学も同じだった。

涼介と付き合い始めてから、結月はどうしても行く先々で慎也と顔を合わせることになった。

初めて涼介とキスをした時も、ふと視線をやると、すぐそばで慎也がじっとこちらを睨んでいた。まるで飢えた狼のように。

その後、涼介と正式に付き合うことになり、涼介が親しい友人たちに結月を紹介した時、皆が結月に親しげに接した。

慎也だけは、一切結月を相手にしなかった。

その日、結月も涼介もひどく酔っ払っていた。

そして暗闇の中、慎也は結月にキスをした。

あの時、結月は悟った――慎也は自分を欲しがっているのだと。

その確信があったからこそ、昨日わざわざ慎也のもとへ足を運んだ。

慎也以外に、涼介を怒らせる勇気のある者などいない。ましてや、涼介の「もの」に手を出そうとする者など、一人もいなかったからだ。

目の前の男が沈黙を貫くのを見て、結月は一足遅れて危険を察知した。必死に冷静さを保ちながら、もう一度自分のものを返すよう求めた。

「あんたと涼介の友情を壊すつもりはないの。もし私と寝たなんて知られたら、絶対に揉めるわ。だから、さっさと……」

言い終わる前に、慎也が結月の掌にコツンと顎を乗せてきた。まるで、喉を撫でられるのを待っている狂犬のように。

撫でてやらなければ、今すぐにでも噛みついてきそうだ。

慎也の口元には笑みが浮かび、その目には本性を見透かされたことへの興奮が宿っていた。

「それで?俺の気持ちを知ってて、昨日わざわざ会いに来たんだろ。まさか、俺と涼介が揉めるのを見たくないなんて、今さら言わせねえよ」

本心を見透かされても、結月は全く動じなかった。

歯を食いしばり、咄嗟に手を引っ込めようとしたが、慎也に手首を強く掴まれた。

手首の骨に押し当てられた掌から、ドクドクと脈打つ鼓動が伝わってきた。

火のように熱く、焼け焦げそうだった。

「いいぜ、いくらでも利用しろよ」

慎也は囁くようにそう呟くと、顔を伏せ、結月の指先をゆっくりと口に含んだ。

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