「岳さんには」 「伝えません」 ……そうなるか。知る権利は、あるけど。でも学生の身である岳さんに、今の麻子さんに出来ることは無い。残酷だけど、それが現実。 「最近ね、夫が優しいの。気持ち悪くてソファに横になっちゃって、家事が出来なくても怒らないの。姑もね、前まではただひたすら鬱陶しかったんだけど。家事手伝ってくれるし、ご飯のおかずも持ってきてくれるしで、今はありがたいの」 気持ちはわかる。私も妊娠中、鬱陶しかったはずの姑サマに後光が差して見えるという幻影を見た。でもね麻子さん。人間って都合のいい生き物でね。状況が変わるとまた鬱陶しくなるってのが実際なのよ。 食が進んで麻子さんの顔色が少し戻ってきた。朝から気持ち悪くて伏せってたのを無理やり来たんだろうな。旦那さんやお姑さんの話をする麻子さんは前より穏やかに見えた。 「岳さんとは、最近どんな感じなんですか?」 「岳には……体調が悪くて伏せってるって伝えてる」 「心配してるLINEが来ませんか?」 「毎日来ます。……でも妊娠してるかもだなんて、言えない」 寂しげな表情をする彼女は、もう彼と会うことを諦めているのだろうか。 ──言えない、か。果たしてそれは正解なのか?そもそも正解って何だ。私が決められることではないのは間違いないのだけど。 「うーん……」 「ほのか?」 麻子さん、一生言わないつもりなのかなあ。それが麻子さんの岳さんへの愛情なのかもしれないけど。でもなあ……。 「ほのか?どうかしたか⁈」 「へ?」 「炒飯が焦げ臭いんだけど」 「え?あれ⁈大変!」 慌ててフライパンの中の炒飯を混ぜた。玉子が茶色を通り越して黒くなりつつあった。危ない危ない。 「お前、例のママ友と何かあったんか」 「へ?ママ友?」 「今日会うって」 「あ、ああ……」 麻子さんへの取材に私は夫に「ママ友と会う」という名目で出かけていた。夫が怪訝そうな顔をしていた。 「何か嫌なことでも言われた?」 「いや、全然そういうのじゃなくて」 え?何で? 何で今日に限って夫の健次郎は私にこんなに聞いてくるの? 「何かあったなら言ってくれよ。夫婦だろ、俺たち。最近ほのか、ちょっとおかしいぞ」 お、これはまずい。私は全く後ろめたくないんだけど。でも我が家の家庭内が緊迫するのは私の本意ではない。 「
Última actualización : 2026-09-15 Leer más