Masukれいなさんの話を要約するとこうだ。 やはり絢斗さんは、白石さんたちにハニートラップを仕掛けた。れいなさんには内緒で。でも、そのハニートラップの中身がれいなさんが思っていたよりも重かった。 れいなさんは、白石さんが他の男性に惚れて、そのまま幸せな恋をしてくれればいいと考えていた。しかし、絢斗さんが菅原くんと企てたハニートラップは性を伴うものだった。救いは……救いなのか?これ。白石さんがその白鷺学院の男子生徒との行為に関してはむしろ積極的だったこと。ただそのせいで、白石さんは停学処分を喰らってしまった。 白石さんのご両親は厳格な方々だったらしい。停学処分が明けた夏休みの最中も、ずっと監視されているとれいなさんは鈴木先生から聞いた。 避妊はしていなかったらしい。よくそこまで聞き出せたな。でも白石さんが望まない妊娠をしていなかったのは、不幸中の幸いだったと思う。 れいなさんが甘かったのか。絢斗さん達がえげつなかったのか。彼ら高校生の基準がこういうものなのか?わからない。れいなさんに近い考えを持つ人がいるようにも思うし、絢斗さん達のようなエグさが現実なのかもしれない。 ひとつ言えるのは、私はこんなえぐい世界にはいなかった。改めて私、平々凡々な世界にいたのだと実感する。 れいなさんと絢斗さんはお別れしたという。別れを告げたのはやはりれいなさんから。絢斗さんは泣いて縋った。その度にれいなさんは絆された。絆されて、交わって。何度目かの別れ話で、絢斗さんはとうとう諦めた。 絢斗さんは現在、2年生の女子と付き合っているらしいとれいなさんは生徒達の噂話から知った。やはりれいなさんは胸を痛めた。なのに、絢斗さんは隙をついてれいなさんに近づいてくることもあるという。現在の彼女との指輪をしておきながら、れいなさんの唇を奪おうとしたとか。けしからん。 自分から振ったとはいえ、れいなさんは絢斗さんの行動に疲弊していった。れいなさん、現在はまさかの横井先生と
明けて、日曜日。昨日は連絡をしなかった。絢斗からもこなかった。逃げてはいけない。向き合わないといけない。絢斗があのとき、あのカラオケ屋にいた理由を、直接絢斗の目を見て聞かないといけない。現実に目を背けたままでは、絢斗に向き合えない。それは絢斗が私に対するものだって同じだろう。『今日忙しい?会いたいの』すぐに既読がついた。『夕方からなら。れいなちゃんの家行くわ』塾かな。今度こそ。……本当に?もう疑うの、嫌だ。疑いたくないのに。一度嘘をつかれると、何も信じられなくなる。私、今絢斗を信じられないんだ。こんな日が来るなんて。絢斗は、私の安全基地だった。一番信じられる人だった。なのに、どうして?どうして絢斗は、私に嘘をついたの?答えは薄々わかっていた。私に言えない何かがある。それも、私に知られたら都合が悪くなる何かが。それが昨日のあの一件だとしたら?絢斗は不問だった。菅原くんも、ただ居合わせただけ。そう扱われた。でもあの時の、絢斗の青ざめた表情。あれが全てを物語っていたとしたら。嫌だ。聞きたくない。聞かずに、真実を暴かずに、ただ抱き合っていたい。目を背けたい。全力で目を背けて、何も知らなかった、何も無かったことにしたい。──でもできないんだ。──夕方、18時。「れいなちゃん」ドアを開けてすぐ、絢斗は玄関先で私を包んだ。そのまま唇を塞がれ、強く吸われる。気が遠くなるような快楽に、頭の奥が痺れる。「待って……鍵……」絶え絶えの息で、やっと言えた。絢斗は後ろ手に鍵を掛けた。もう何度も見た手つき。その手つきさえ、愛おしい。流されちゃだめ。でも、もしかしたら、絢斗と抱き合えるのが、これが最後かもしれない。そう思うと絢斗を拒むことなんてできなかった。最後になんかしたくない。でもきっとこれが最後になる。脚をもたつかせながら、寝室のベ
横井先生の目。完全仕事モード。取り調べ開始の目をしている。嘘でしょ。今回の件に、絢斗が絡んでいる……?そんなはず、無い!絢斗には私がいるもの。絢斗がカラオケ屋で女の子と乱交だなんて。そんなこと、するはず無い!「俺がっ……誰と来てたって、いいだろ」どうして焦るの?絢斗。焦るような状況なの……?「そうもいかないんだよ」横井先生が淡々と取り調べを続ける雰囲気を醸し出す。無理。絢斗がそんなことするはず無いけど……けど……。万が一、そんなことしてたとしても、私がその取り調べに立ち会うなんて出来ない。過呼吸でも起こして倒れる自信満々だ。「先生、桐生くんは該当しないかと……」早くこの場を終わらせたい。この場からはなれて、絢斗と直接話したい。「どういうことです?」「私たちが見つけないといけない生徒たちは、そういう目的であるなら、強めの香水を選ぶかと」普段から絢斗は香水を付けなかった。私の付けてるDIORの練り香水やボディクリームをほんの少しハンドクリームに混ぜてるのは好きみたいだけど。でも絢斗は自分では付けない。絢斗から香るのは、いつもGATSBYのボディシートの香料だった。横井先生が絢斗の肩周りを嗅ぐ。「確かに。むしろ汗臭い」「ほっとけよ!」イラつきを隠さない絢斗。駄目、その表情では横井先生はあなたを解放してくれない。「ごめんね桐生くん。ちょっとね、人を探してて」「人?」絢斗が怪訝そうな表情をするのと、鈴木先生の声が後方から聞こえたのは同時だった。絢斗の顔から、血の気が引いていく。え、どうして。絢斗、やっぱりあなたも何かやらかしているの?あなたもこの階の件に関わっているの?嘘でしょ……?「あの、もういいですか?今日は俺、菅原と来てて」菅原くん。私と絢斗の秘密を唯一知ってる菅原くん。そうよね、あの冷静で賢い菅原くんと絢斗の組み合わせでこの階の件に関わるなんて……。でも、だったら、どうして今日絢斗は「塾に籠る」なんて嘘をついたの?菅原くんと出かけるって言えばいいじゃない。私に言えない、何かをしている──?考えたくない。でも、目の前の絢斗は血の気が引いてて、私に嘘をついていたのは明白で。今すぐふたりきりになって追及したいけど、私の真横には横井先生と鈴木先生がいる。「ちょっと何この階!どの部屋も該当者だらけじゃないのよ」呆れ顔の鈴木先生
まさか、絢斗がここに来てたなんて。テストの採点があと少しになったとき。匿名の情報提供があった。『大きなカラオケ屋をラブホテル代わりにしている高校生がいる』という内容だった。そのとき校内にいたのは私、鈴木先生、横井先生だけだった。他の先生方は帰った後だった。「──何で私が休日出勤してるときにこんな通報来るのよ」とブツブツ言う鈴木先生を宥めながら横井先生と合流した。匿名とはいえ、通報があったら様子を確認したという履歴を残さないといけない。採点は無事に終わった。本当は絢斗と合流したかったけど、絢斗は今日塾にいるって言ってたからそれは叶わない。時間外労働なのが気になるけど、行く以外の選択肢は無かった。「通報によると、いわゆる乱交をしているようです」横井先生はスマホでデータ化した今回のメモを読み上げた。「どうせ偏差値低い高校の子達でしょ?ウチにそんなことやる子なんていないわよ」鈴木先生の言葉に同意だった。それなりに大変さは味わってるけど、でも偏差値高いので有名なのが我が校、翠嶺だ。カラオケ屋の一室を取る。この3人でカラオケって。事情を知らない人が見たらカオスだ。笑っちゃう。何も見つからなかったら、もういっそこのメンツで歌うのもアリかもしれない。土曜日のカラオケ屋は満室とは言わなくても、それなりに混んでいる。このカラオケ屋はビルの一階からかなり上の階まで、全てカラオケルームになっていて、地区の中では一番大きい。ということは、このビルの部屋、全部チェックするのか。気の遠くなる作業に軽く眩暈がした。休日出勤なんて、するもんじゃない。拠点を出て、3人で手分けして部屋をチェックしていく。ドアの縦に長い窓から見えるのは、休日にカラオケを楽しむ中高生、学生、ZOOMをしている社会人。キッズルームなんてあるのか。広い部屋に小さな子が遊ぶマットがあって、それを見ながらママさん達が歌を歌わずにずっとお喋りしている様子だった。この階は特に問題無し。即席で作ったグループLINEに報告する。次の階か。あれ?横井先生だ。『5階、該当しそうな高校生いる部屋が沢山います。5階に集合願えますか?』目星が付いたのか。やだな。乱交の瞬間に私踏み込むの?あんまり見たくないんだけど。うちの生徒がいないってわかっちゃいるけど、それでもいい気分にはならない。『わかりました。向かいま
足を忍ばせてその部屋に近づく。部屋のドアから3メートルぐらい。女たちの喘ぎ声が聞こえる。まずいじゃんこれ。店員来たら一発アウトじゃん。周囲を見渡すと、他の部屋も同じような状況になっていたことに今更気付いた。嘘だろ。ここって、ヤリ部屋目的のカラオケ屋だったわけ?俺、去年ツレと来たときそんなことなかったぞ?喘ぎ声なんて皆無だった。……ああそうか。あの時は男しかいなかったからか。男祭りしてたからそういう感じの階の部屋ではなかった。そういうことか。店員もグルなのか。裏で金でも握らせてるのか。「白鷺学院の生徒の御用達カラオケらしいぞ」そう言っていたのは律樹だ。律樹はこの店の闇を知ってるのかもな。さあ、うちの女子たちの喘ぎ声を聴かされたからもういいか。……じゃなくて。白石だ。今回の目的は、白石の俺とれいなちゃんへの執着を削ることだ。それには白鷺学院の誰かに白石が抱かれてしまえばいい。白石のことだ。あいつは顔と学力の偏差値と女子間のマウントが取れるキラキラさがあればいいんだから。俺に目をつけたのも、そういうことだろう。一応確認しとくか。見たくも聞きたくもないけど。本当だ。知ってるやつの最中って全く興奮しない。嫌悪しか無い。ああ、れいなちゃんに会いたい。じゃなくて。白石。白石はどこだ。嫌な汗が止まらねえな。ドアの窓に自分が映らないように。ぎりぎりの斜めから目視。暗めの照明。限界まで照度落としたな。ヤってるのが見えないように、か。人の塊が4箇所。そのうちの……奥左側。いた。上に乗っかってるし。ねちっこいキスをする男らしい。揉まれながら腰動かして、まあ、楽しんでんだな。確認できた。よし。長居は無用。足音を立てないように。早く律樹のもとへ戻ろう。「──え?」視線の先に、絶対に見間違えない、その人がいた。どうしてれいなちゃんが、このカラオケ屋にいるんだ……?嘘だろ?れいなちゃんは今日は採点で忙しいって……。あれは、れいなちゃんじゃないのか?俺が間違えるわけがない。骨格のつくり、髪の艶、何よりも空気感。あれはどう考えてもれいなちゃんだ。考えるよりも先に足が動いた。様子を見ればいいのにって、後から思うのだろう。でもできない。今動くしかない。れいなちゃん、なぜだ。なぜ俺に嘘ついてカラオケ屋なんかに来てるんだ。しかもヤリ部屋兼ねてる階にいるってどういうことだよ!れい
白鷺学院から地下鉄で2駅にある繁華街。その大きなカラオケ屋の一室で、俺と律樹の計画は決行された。白鷺学院の奴らは4名。男子校で育っているはずなのに、女の扱いは律樹より上手いとの前評判。どういうことだよ。勉強できて女も選べてって何その人生イージーモード。対して、翠嶺の女子は5人。仲介人の律樹を入れて男が5人というカウントだ。俺はそのカラオケ部屋の隣に待機。何だよこれ。バラエティ番組で見たことあるやつ。ウケる。律樹のスマホ、LINE通話しっぱなし状態。おかげで様子が俺にもよくわかるという、白鷺学院の幹事、輝羅の発案らしい。期末テストが終わった、その土日。れいなちゃんは採点で忙しいらしい。俺の今日の予定、塾に籠るということになっている。裏切るわけではないんだ。ごめんな、れいなちゃん。宴が始まった。『翠嶺の女子ってこんなに可愛いんだな』と輝羅の声が聞こえる。サービストークか。女子勢を口説き始めたら律樹が席を外してこっちに来る算段だ。『俺、ちょっとトイレ……ええ〜、律樹くん、わたしも行くう……』うわまじか。ナントカ沙智ってやつが律樹に絡んでる。こいつ、律樹狙いだったか。『トイレぐらいひとりで行かせろよ……ええ〜、でもお〜……しょうがないなあ、早く戻って来てね……』うわあ……律樹頑張れ。逃げ切るんだ!音も無く、そっとドアが開いた。律樹がげんなりした顔で俺のいる部屋に入ってきた。「ああ……無理、あいつら。香水キツくて俺の鼻水止まんねえ」「律樹、ありがとうな」くしゃみを連発する律樹は俺から1人分の間隔を空けてソファにどかっと座った。音を立てて鼻をかんでいた。それぐらい許そう。律樹は花粉症だ。どうやら香水もダメらしい。れいなちゃんの香水はただただ最高なんだけどな。あの香り、俺の理性を削ぐんだよな。何とかならないか。でもあの香りはつけてくれないとな。あれも含めてれいなちゃんなんだ。「あの絡んできた女は大丈夫なん?」「輝羅が何とかするだろ。同時に2人相手するとか余裕とか言ってたし」同時に2人相手するとか余裕とか。人生で一度、言ってみた……い訳ではないな。でも、れいなちゃんが2人だったら最高だな。うん、最高の妄想……。「──で、ヤル前提……なわけ?」「だろうな。絡んできた女は俺の腕に胸押し付けてきたし、谷間見せてきたよ」「







