診察室を出ると、廊下の陰からひそひそと囁き合う声が陽葵の耳に届いた。「あれ、彼女じゃない?なんであの白石陽葵が病院にいるの?」「彼女を知ってるの?」「当然でしょ。帝都で彼女を知らない人なんている?結城家の御曹司である結城蒼真には、長年付き合ってた幼馴染の恋人がいて、彼が病気の時も献身的に看病してたのよ。それなのに、この陽葵って女が薬を盛って蒼真のベッドに潜り込んで、結城家に自分を妻として認めさせて、あの二人を無理やり引き裂いたのよ」「ええっ、いくらなんでも図々しすぎるわね」二人の声は次第に大きくなり、陽葵への軽蔑の念を一切隠そうともしなかった。蒼真と結婚して以来、陽葵はこうした冷ややかな視線にはとっくに慣れっこになっていた。足を踏み出し、その場を離れようとしたちょうどその時、蒼真が栞奈を抱きかかえ、友人たちを引き連れて血相を変えて駆け込んでくるのが見えた。「先生、彼女は1ヶ月前に交通事故に遭ったんですが、今日急に手が激しく痛むと言い出して……画家だから、手だけは何があっても助けてやってください!」蒼真は焦燥感を露わにし、状況を一気にまくしたてた。栞奈は涙を浮かべて訴えた。「蒼真、痛い……」「怖がらなくていい、俺がついてるから」その優しげな口調に、陽葵は一瞬、息を呑んで立ちすくんだ。かつての蒼真も、彼女に対してこれほどまでに優しかった。だが今や、その温もりはとっくに彼女のものではなくなっている。陽葵はこれ以上見ていられず、背を向けた。その時、蒼真の視界の隅に彼女の姿が入り、彼はそのまま追いかけてきた。彼は陽葵の手からカルテを奪い取り、瞳に冷ややかな光を宿した。「こんなものを印刷してどうするつもりだ?まだ栞奈の事故の責任を追及しようって言うのか?医者は栞奈の手が使い物にならなくなるかもしれないと言っているんだぞ、これ以上彼女をどうしたいんだ!」陽葵は胸の奥で様々な感情が渦巻き、眉をひそめた。「どうして追及しちゃいけないの?車で私を撥ねたのは彼女よ!彼女の手はだめになるかもしれないけれど、私の腕はもう……」「お前の腕がどうしたって!」蒼真は無情にも彼女の言葉を遮った。「まさか腕でも折れたとでも言いたいのか?たとえ折れていたとして、それがどうしたって言うんだ!栞奈はうつ病を患ってるんだぞ。お前はもう
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