業界関係者が集まる晩餐会は、深津市でも指折りの高級ホテルで開かれることになっていた。市内のデザイン業界で名の知れた人たちが、こぞって出席するという。私は深緑色のロングドレスを着て、髪をアップにまとめた。耳元には、俊平から贈られた真珠のピアスが揺れている。隣に立つ俊平は、黒いスーツ姿で私に腕を差し出した。「準備はいい?」私はその腕にそっと手を添えた。「ええ、大丈夫」明るい照明に照らされた会場へ足を踏み入れると、あちこちに見知った顔があった。私に声をかけてくる人もいれば、俊平をちらちらと見て、興味深そうな顔をする人もいる。そして、シャンパンのグラスを手にクライアントと少し話し、振り返ろうとしたとき、入り口付近に立つ人影が目に入った。それは、亮だった。紺色のスーツを着ていたが、ネクタイは曲がり、シャツの襟元のボタンも一つ外れている。手に持っていたのは、コンビニで売っているような紙カップのホットミルクだった。ずいぶん痩せているようで、頬骨が浮き出て、目も落ちくぼんでいる。1か月前、私の職場に押しかけて騒ぎを起こしたときとは、まるで別人のようだった。亮はずっと私を見ていて、私が動くたび、その視線もついてくる。俊平も気づいたらしく、少しかがんで私の耳元で囁いた。「来てるね」「うん、見えた」「僕が対応しようか?」「大丈夫。何もできないと思うから」そう答えたものの、私は亮がどこまで見境をなくしているのか、まだわかっていなかった。スイーツコーナーへケーキを取りに行ったとき、亮が突然、人混みの中から姿を現した。周囲の人たちも気づき、会場が一瞬静まり返る。亮は私の前まで来ると、持っていたホットミルクを差し出した。「唯、胃が悪いだろ。これでも飲みなよ」私は受け取らない。「何しに来たの?」「お前に会いたかったんだ」「じゃあ、もう会えたでしょ。帰って」それでも亮は動かなかった。次の瞬間、膝を折り、その場に跪く。会場がどよめいた。「唯、もう一度だけチャンスをくれ。悪いところは全部直す。これからは何でもお前の言うとおりにするから……」亮はホットミルクを差し出したまま、惨めなほど必死に私を見上げていた。周囲ではひそひそと話す声が広がり、スマホを構える人も出てきた。私はただ、足元に跪
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