音もなく、愛は冷え切っていた私は十年間パティシエとして働き、ずっと自分の店を持つことを夢見てきた。
夫である森田安弘(もりた やすひろ)は、「機会があれば、二人で店を開き、店名は『洋菓子専門店葉月』にしよう」と言っていた。
結婚五年目になって、ようやく「洋菓子専門店葉月」はオープンした。
その日、私は家で一晩中看板ケーキを作り、明け方四時に店へ向かった。
ショーウィンドウには、すでに完成品がずらりと並んでいた。
店員は私を見ると、少し驚いた顔で言った。「応募の方ですか?」
私は「オーナーの妻です」と答えた。
彼女はますますきょとんとして、「オーナーさんは今日、お忙しいはずですが」と言った。
私は奥へ進み、壁に掛けられた巨大なポスターを見た。安弘が一人の女性と肩を並べ、満面の笑みを浮かべている。
ポスターにはこう印刷されていた。【森田安弘と葉月晴奈共同創業者】
私はその名前を見つめたまま、手にしていたケーキの箱を取り落とした。クリームが床いっぱいに飛び散った。
葉月晴奈(はづき はるな)なんて。
でも、私の名前は葉月美咲(はづき みさき)なのに。