私が勝ち取った、別々の道父がテーブル越しに突き出してきたのは、悪名高きヴェルチェッティ家との婚姻契約書だった。
私は躊躇なく、そこに異母妹・デミの名を書き込むと、書類を滑らせて突き返した。
父は一瞬、固まった。だが次の瞬間、まるで宝くじにでも当たったかのような、浅ましいほどの興奮で目を輝かせた。
「これほどの話を、なぜみすみす妹に譲るんだ?」
――前世、私の結婚は誰にとってもただの「笑い話」だった。
赤毛の、手に負えない小さな魔女。
そんな私が、名門マフィア一族の跡取りにして冷徹なドン、キャシアン・ヴェルチェッティの妻の座に収まったのだから。
私は、彼が望むような完璧な女でもなければ、従順な女でもなかった。
彼が女神のようなドレスを愛する一方で、私はミニスカートを履いてテーブルの上に登って踊ることを好んだ。
彼がベッドの上でさえ伝統的で秩序立った淡白な営みを求める一方で、私は彼に跨り、理性をかなぐり捨てて、獣のように愛し合うことを望んだ。
社交界のガラ・パーティー。夫人たちは私の髪を、ドレスを、その「奔放さ」を嘲笑った。
夫なら、せめて形だけでも庇ってくれると信じていた。
けれど、彼は庇わなかった。
「許してやってくれ。彼女は……きちんと『躾け』られていないんだ」
――躾け。それはまるで、犬か何かのように。
前世の全てを、彼のルールの下で息を殺して過ごした。彼が望む型に嵌まるよう、血を流して自分を押し殺し続けた。
あの火事の夜、命を落とすまで。
目を開けると、私はあの縁談を持ちかけられた瞬間に戻っていた。
目の前には、あの契約書。
――今回はどうするかって?
決まっている。お高く止まったドンより、ナイトクラブのホストたちの方が、私にはお似合いよ。
そう思って手放したはずだった。 だが、花嫁が私ではないと知った瞬間。 キャシアンは、今まで生きてきた全ての「ルール」を、粉々に砕き始めた。