夫ががんの初恋を家に連れ帰った日結婚して八年。夫は私の反対を無視して、がんを患った「初恋の人」を家に連れてきた。
「お前みたいな毒女、少しも同情心がない。明葉の足元にも及ばない!」
息子まで私を責めた。水城明葉(みずき あきは)を家に入れないなら、母親なんていらないと叫んだ。
私はその瞬間、完全に心が折れた。離婚を決意し、デザイン業界からの招きを受けて再び頂点へと返り咲いた。
けれど彼らは、あの「がんの診断書」が偽物だったと知ると、泣き腫らした目で私の前に現れた。
「楓(かえで)、騙されてたんだ。本当に愛してたのはお前だけなんだ!」
「ママ、僕を捨てないで。ママの子どもは僕ひとりだけだよ!」
私は視線を一度も向けずに言った。
――どこの狂犬?邪魔よ、授賞式の途中なんだから。