眠らぬ花は雲に沈む夫・伊織玲司(いおり れいじ)が亡くなって一年。
高坂遥香(こうさか はるか)は、二人の結婚式のビデオだけを支えに、生きてきた。
玲司の命日の夜。
不意に、その結婚式のビデオから音声が流れ出した。
見知らぬ男の声が、静まり返った部屋に響く。
「じゃあ、お前にとって、遥香は……」
「取るに足らない。というより……捨てても」
そう答えたのは、一年前に死んだはずの玲司だった。
「別に、惜しくもないな」
スクリーンの放つ白い光が、血の気を失った遥香の顔を冷たく照らし出す。
その瞬間、遥香はようやく悟った。
玲司が周到に計画した「死」――それこそが、この嘘にまみれた結婚における、唯一にして揺るぎない真実だったのだ。