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宮部みゆきの『模倣犯』に登場する網川浩一というキャラクターは、ある意味で「しぶとい」の極致のような存在です。犯行を重ねながらも決定的な証拠を残さず、警察を翻弄し続けるその姿は、悪役ながらも不思議と読者を引き込む魅力があります。
通常なら主人公が善玉となることが多いですが、この作品では悪役のしぶとさが物語の原動力になっています。網川が社会の隙間を縫うように生き延びる様子は、現代社会の闇を映し出しているようで、読後も長く印象に残ります。犯罪小説というジャンルでありながら、人間の執念深さを描き切った傑作です。
『銃・病原菌・鉄』のジャレド・ダイアモンドが描く文明の興亡とはまた違う角度で、人間のしぶとさを描いた作品といえば、山本周五郎の『さぶ』が思い浮かびます。主人公のさぶは、江戸時代の下っ端武士として、どんな逆境でもへこたれずに生き抜いていきます。
面白いのは、さぶのしぶとさが単なる我慢強さじゃない点。時代の流れに翻弄されながらも、自分の信念を微かな光のように守り続ける姿に、現代の私たちも共感せずにはいられません。特に職場でのいじめや不遇な扱いを受けるシーンは、どんな時代にも通じるテーマだと感じます。
最後まで読み通すと、この主人公の粘り強さが単なる生存術ではなく、一種の美学に昇華していることに気付かされます。
最近読んだ中で強く印象に残っているのは、伊坂幸太郎の『グラスホッパー』です。殺し屋という特殊な職業の主人公が、幾多の困難にぶつかりながらも前進し続ける姿は、まさに「しぶとい」の代名詞のよう。
面白いのは、この主人公が決して無敵のヒーローではないこと。むしろかなり不器用で、失敗も多い。それでも決して諦めない姿勢が、読んでいるこちらまで勇気づけられます。伊坂作品らしい軽妙な語り口と、深い人間観察が融合した、独特の読後感が残る作品です。