言葉のニュアンスって面白いですね。似たように見えて使いどころが全く違う表現が、日本語にはたくさんあります。その代表が『
幸甚』と『光栄』で、どちらも礼儀正しい場で使える単語ですが、受け手に伝わる意味合いがかなり違います。
『幸甚』は基本的に「ありがたく思う」「非常に助かる」という感謝や期待を、控えめかつ改まった形で表す語です。ビジネス文書や目上への依頼文でよく見かけます。たとえば「ご検討いただければ幸甚に存じます」や「ご教示いただければ幸甚です」といった形で、こちらの願いが叶えば非常にありがたい、という丁寧な依頼のニュアンスを出すために使います。直接「ありがとう」と感謝を述べるよりもフォーマルで、相手に負担をかけることを遠慮しつつ好意を求めるときに便利です。口語よりは書き言葉、特にビジネスメールや公的な文書での出現率が高めです。
一方で『光栄』は「名誉に感じる」「その扱いをありがたく思う」という感覚を表す語で、栄誉や評価、招待などを受けたときに自分が高く評価されていることへの喜びを示します。例としては「ご指名いただき光栄です」「お招きいただき光栄に存じます」のように使い、相手の行為が自分にとって誇らしく嬉しいという主観が強く出ます。私は個人的に、発言のトーンがより感情的で積極的な「喜び」を含むのが『光栄』だと感じます。口頭でも書面でも幅広く自然に使えますし、社交の場で受け答えする際によく合います。
実践的な見分け方としては、依頼や願望を表す場面では『幸甚』、受け取った栄誉や評価に対する返事では『光栄』を選ぶと間違いが少ないです。混同すると不自然に響くことがあるので注意が必要で、たとえば誰かに頼まれごとをしてもらえて助かる場合に「光栄です」と言うと違和感を与えますし、逆に賞や役職を与えられたときに「幸甚に存じます」と返すとやや事務的で冷たい印象を与えかねません。また、どちらも謙譲表現と組み合わせられますが、『幸甚に存じます』は特に文語的で堅く感じられるため、カジュアルな場では『助かります』『ありがたいです』などのほうが自然です。
最終的には場面と言いたいニュアンス次第ですが、依頼→『幸甚』、栄誉や招待→『光栄』を基本ラインとして覚えておくと便利です。どちらも礼儀を示す言葉なので、適切に使い分ければ印象がぐっと良くなります。