オルフェ神話を現代に移植した傑作といえば、ジャン・コクトーの『オルフェ』がまず頭に浮かびます。1950年のこの作品は、
詩人オルフェを主人公に、鏡を通じて冥界へ旅するという幻想的な解釈で知られています。
コクトー独特のシュルレアリスム表現が光るシーンは、例えば車の走行シーンが逆再生されることで「時間の
逆行」を表現しています。当時の特殊効果の限界をクリエイティブに突破した手法は、現在見ても新鮮に感じます。妻エウリディケを求めて冥界へ降りるプロットは古典に忠実ながら、自動車事故やミラーを使った演出にモダンな解釈が宿っています。
この作品の真髄は、現実と幻想の境界を曖昧にする演出にあります。例えば病院の廊下が突然劇場の舞台に変わるシーンは、観客自身が現実の定義を問い直すきっかけになります。60年以上経った今でも、映像詩と呼ぶにふさわしい輝きを放っています。