『落第騎士の英雄譚』の黒鉄一輝と史黛菈・ヴァリエールを軸にしたファンフィクションで、特に運命に抗うテーマを描いた傑作と言えば、AO3の『Against the Tide』が圧倒的に支持されている。一輝が「最弱」と呼ばれる宿命を打ち破る過程と、史黛菈が王族としての重圧から解放される姿が交差する。戦闘描写より感情の揺れに焦点を当てた筆致で、二人が互いの傷を認め合いながら前進する様子に胸を打たれた。特に第7章の、雨の中での「俺はお前の剣になる」という台詞回収は、原作のテーマを昇華させていた。
この作品の真価は、運命という抽象的な敵を具体的な人間関係で表現した点だ。例えば史黛菈が母国のしがらみと一輝への想いの間で葛藤するシーンでは、政治的な背景と個人の幸福という二重の抗い方が描かれる。作者は原作の設定を巧妙に拡張し、『落第騎士の英雄譚』の世界観を深堀りしながら、新しい層のドラマを生み出している。