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アニメ版を見てから原作を読むと、キャラクターデザインの違いに驚くことが多い。小説の挿絵ではもっと鋭い印象だったヒロインが、アニメでは柔らかな輪郭になっているとか。ストーリーの進行速度も大きく異なり、アニメは24話で1巻分を消化するペースながら、途中でオリジナルエピソードを巧妙に織り込んでいる。特に第7話の温泉回はアニメオリジナルだが、キャラクター同士の関係性を深めるのに一役買っていて、これはこれで楽しめる。
キャラクターの台詞回しに違いがあるのが興味深い。アニメでは視聴者にわかりやすくするためか、小説では暗示的な表現だったセリフを直接的な言い回しに変えているケースが多い。例えば悪役の有名な台詞『月が綺麗だな』は、小説ではそれだけで不気味さを醸していたが、アニメでは『今夜でお前たちの人生も終わりだ』とより明確な脅しに変わっていた。どちらにも良さがあるが、媒体の特性を考えた変更だと言える。
原作小説の『ヴァーミリアン』は、登場人物の心理描写が非常に細やかで、特に主人公の内面の葛藤がページをめくるごとに深まっていくのが特徴だ。アニメではその繊細なニュアンスを全て再現するのは難しく、代わりにアクションシーンやビジュアル面で力を入れている印象がある。
例えば、小説では3章にわたって描かれる戦いの前夜の思索が、アニメではわずか5分のモノローグに凝縮されている。それでもアニメならではの表現として、色彩と音楽で感情を増幅させる手法は秀逸で、特にOPテーマの盛り上がりは原作愛好者も唸らせる完成度だ。
世界観の構築方法が両者で対照的だと思う。小説は地の文でじっくりと架空世界の歴史を積み上げていくのに対し、アニメは背景美術や小道具のディテールでそれを表現している。魔導書の装丁や街角の看板までこだわっており、ポーズ集めが趣味の友人などは毎週スクリーンショットを漁っているほど。
ただし、小説後半で重要な意味を持つ『古の誓約』についての言及が、アニメでは第2話のワンシーンで軽く触れられるだけだったのは少々残念。このあたりはファンなら原作もチェックした方が深く楽しめるポイントだろう。
音楽の存在がアニメの大きな強みだ。特に戦闘シーンでは、小説では単に『轟音が響き渡った』と書かれる場面も、重低音と疾走感のあるBGMで全く新しい体験になる。逆に言えば、小説の静謐な場面をアニメで再現する難しさも感じる。主人公が星空を見上げながら哲学的な独白をするシーンなど、アニメではどうしても尺の都合でカットされがちだ。