十年の見果てぬ終曲高柳寧々(たかやなぎ ねね)は悪性脳腫瘍を患い、余命わずか一月と宣告された。
その日、診断書を受け取った直後、脳内でシステムの機械的な声が響いた。
「宿主様、もう一度並行世界に戻っていただけませんか?
かつてあなたが攻略した対象・菅野春樹(かんの はるき)が、ハッキング技術であなたの世界の座標を特定しようとしています。その影響で、空間の安定が大きく損なわれています。
それから、あなたの息子・菅野優希(かんの ゆうき)にも、精神的な問題が生じています」
システムの機械的な声を聞きながら、彼女は十年前のことを思い出した。それは、ほとんど忘れかけていた攻略任務だった。
寧々は診断書を握りしめ、指先は冷たくなっていた。
「戻っていただく期間は、たった一か月で結構で、その後現実世界に帰還できます。報酬として、あなたの癌を完治させます。それに、追加で賞金もご用意します」
がんが治るというのは、とても大きな誘惑だった。
しかし、かつて自分を裏切った夫は、親友と浮気したあげく、娘を死に追いやったのだ。そして息子は、恩知らずだった。
そんな二人に再び向き合うことを思うと、彼女の心に癒えることのない傷が再び蘇った。
だが、たった一か月で、健康な体を取り戻せるというのなら、これは悪くない取引だ。