読むたびに胸にこみ上げるものがあり、それをどう言葉にするかを考え続けた。作品全体を通して作者は、個々の飢えや恐怖ではなく、群れとしての振る舞い、すなわち“
蝗”が引き起こす構造的な崩壊を描こうとしていると感じる。登場人物の選択や運命は偶然ではなく、経済的圧迫や情報の欠如、伝統の瓦解といった外的要因が押し寄せる象徴になっている。私はその描き方に、自然災害のメタファーだけでなく、人間の責任と無力さが重ねられていることを読み取った。
視点が次々と移り変わる構成は、集団心理の変遷を追うための技巧だと思う。ある場面では被害者の視点、別の場面では
傍観者や加害者の視点が提示され、読者はどの位置に立っているのかを問われる。自分は何度も立場が揺らぎ、同情と嫌悪の間を行き来した。結局、作者が描きたかったのは単純な罪深さの
断罪ではなく、互いを蝕む制度と無感覚の連鎖だったと私は受け止めている。