経験から言うと、私は
出奔を題材にした本の市場性を評価する際に、感情的な訴求力と実際の販売可能性を別々に見ている。まず題材そのものは普遍性が高く、若年層の反逆、家庭からの離脱、あるいは政治的亡命など文脈によって読者層が大きく変わる。だから最初の仕事はターゲットを明確にすることだ。例えば青春期の家出を描くなら10代後半〜20代前半の共感を狙い、社会派の出奔なら30代以上やジャーナリズム愛好層を含めた別の流通戦略が必要になる。私は過去の販促データやSNSでの話題性、類書の販売推移を照らし合わせて、どの市場セグメントが最も反応するかを推定する。
次に商業的観点では、作品のトーンと著者の発信力が重要になってくる。エッセイ寄りで個人史が強ければブランディングがしやすく、フォーラムやポッドキャスト、書評連動のキャンペーンが効く。フィクションで普遍的なテーマを扱う場合はカバーと帯の言葉選びで書店員の手に取らせることが鍵だ。私はしばしば見本誌を複数の試読グループに回して、感想の傾向と「誰に薦めたいか」を定量化する。さらに翻訳権や映像化の芽も評価項目に入れる。出奔ものは映像化で映える設定が多く、映画やドラマの関心が事前にあるなら、版元としては副次的な収益見込みが高くなるからだ。
最後にリスク管理としては、倫理的・法的な検討も欠かせない。特定の実名に近いモデルがある場合は名誉棄損の懸念を事前に洗い出す必要があるし、過激な描写が中心なら取次や書店の取り扱いリスクも評価する。私はこれらを踏まえて、初版部数、価格設定、販促予算の見積もり、そして試し読みや一節公開による反応測定を組み合わせて総合的に判断する。結局のところ、出奔というテーマは刺さる読者には深く届くが、誰にどう売るかを定めないと埋もれてしまう——そこを詰める作業が肝心だと考えている。