視点を少し変えると、『火垂るの墓』は妹に依存する兄というテーマを考える際に避けて通れない作品だ。戦争という極限状況で、青年の心の拠り所が妹の存在へと集中していく描写が胸に刺さる。兄・清太は年齢こそ上だが、情緒面では妹・節子の純粋さや無垢さに引き寄せられ、彼女を守ることが自己の存在意義になっていく。結果として、彼の判断は妹を中心に歪み、周囲との関係や現実との折り合いを失っていくのが痛切だ。
映像表現も感情の依存を強調していて、節子の笑顔や小さな仕草が清太の世界を支える柱として繰り返し映される。それが崩れたときの喪失感、無力感が作品全体の悲劇性を増幅していると感じる。音楽や間の使い方も、兄の内面が妹に向かって収斂していくさまを巧みに補助している。
個人的には、この作品を観るたびに「保護」と「依存」の境界がどこにあるのかを考えさせられる。兄の行為は愛情に基づくものでもあるが、同時に自己救済としての側面を持っており、その曖昧さが観客に強い印象を与える。映画としての評価も高く、
兄妹関係の心理的複雑さを扱った傑作として強くおすすめしたい。