覚えているのは、過去が原作では層になって語られている点です。原作は細かな心理描写や断片的な回想を通じて
故智の幼年期と青年期を丁寧に積み重ね、原因と結果が徐々に浮かび上がるように作られていました。僕はその読後感が好きで、彼の行動が突発的ではなく、長年の蓄積から来たものだと納得できる構成になっていると感じます。
一方でアニメは時間制約と視聴者の理解を優先して、過去を圧縮したり順序を入れ替えたりして見せています。重要な出来事は残しつつも、内面的な説明が削られ、視線は外面的な出来事や象徴的なカットに移ることが多い。結果として、動機がシンプルに見えたり、感情の振幅が強調されたりして、原作での微妙なニュアンスが薄まる場面もありました。
個人的には両方の良さがあると思います。原作の積み重ねが好きな自分には深みが残る一方、アニメの簡潔さや演出で新たな魅力を発見することもある。どちらが“正しい”過去かは断言できませんが、違いを楽しむことで故智という人物がより多面的に見えてくるのは確かです。