現場での混乱を未然に防ぐために、僕がいつも重視していることを順に説明する。
撮影前の準備で核をつくるのが最初の一歩だ。具体的には脚本の解釈、絵コンテ、ショットリストをチーム全員と共有して、誰がどの瞬間に何を決められるかを明確にする。僕は主要スタッフを早い段階で巻き込み、アイディアは歓迎するが本番では演出ラインは一本にするという合意を得るようにしている。過去に'七人の侍'のように入念なリハーサルで演出のゆらぎを抑える例を思い出すと、準備の徹底がいかに効くかが分かる。
現場では透明性と記録が効力を発揮する。毎テイクのメモ、モニターの録画、スクリプトスーパーバイザーのログを残すことで「誰が何を言ったか」を証拠化できるから、場当たり的な指示や
モグリ演出の余地を小さくできる。僕はアシスタントと連携してビデオビレッジの管理を厳格にし、監督の意図を文章化したメモをその場で回覧する。こうした手順は、意見を言いたい人を締め出すためではなく、制作の一貫性を守るためにあると説明しておくのが肝心だ。
人間関係のケアも忘れない。権限を主張するだけでは摩擦が増えるので、僕は事前に主要な立場の人たち(製作側、主演、主要スタッフ)と個別に話して期待値を合わせる。現場でのクリエイティブ提案は歓迎するが、それを正式に反映するにはプレ・プロダクションで検討して合意を得るというルールをつくる。契約やスタッフハンドブックに基本方針を書き込み、必要なら組合や規約を確認することで、モグリ演出が起きにくい構造を作る。こうした取り組みを積み重ねることで、現場は自然と秩序を取り戻し、物語作りに集中できるようになると感じている。